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100km行軍レポート ~ゴールの先に見えてきたもの~

 「もう限界か…。」私は心の中で叫んでいた。まだ40km地点である。左膝の裏筋に激痛が走り、膝が伸びず、左足を引きずるような歩みになっていた。

 入塾以来、最も大きな試練になることは分かっていた。松下政経塾恒例の荒行「100km行軍」。私は4月の入塾早々、左足太腿の肉離れという大失態を起こした。2週間の松葉杖生活である。中学・高校時代は陸上部、大学ではサーフィンと、体力だけには自信があったが、10年以上の社会人生活のブランクにより身体は確実に衰えていた。同期最年長という年齢的ハンデに加え今回の怪我。焦りからか無理をして、8月の早朝研修では通常の2倍の走り込みを行った。しかし、これが原因でさらに左膝を痛め、その後はランニングすらできない状態となった。「こんな状態で本当に100km完歩できるのか…。」大きな不安を抱えて当日を迎えた。

 10月7日、快晴で絶好のコンディション。塾長や塾頭をはじめとする職員と先輩、平野先生などの多くの方に見送られ10時スタート。いよいよ31期生の挑戦が始まった。鎌倉までの湘南海岸沿いは私の地元。学生時代からサーフィンをしている鵠沼のサーフポイントの波を横目でチェック。そんな余裕もあり20kmまでは快調なペースだった。

 しかし、不安が的中。30km過ぎた時点から左膝に異変が起きた。除々に左膝の裏筋の痛みがひどくなり、膝を伸ばして歩けなくなった。5kmごとに休憩を取るが痛みは治まらない。40km過ぎたころには、それが激痛に変わる。左膝をかばって歩いているので右膝と腰も痛み出す。終盤での死闘は覚悟していたが、これはあまりにも早い。まだ半分も来ていないのだ。普通に考えたら完歩は不可能だ。「どうすればいいんだ…。もしかしたら本当に無理なのか…。」この瞬間、「途中棄権」という文字が頭を過ぎり、胸が締め付けられるような不安に陥った。

 救ってくれたのは、同じロ組の杉島塾生と西野塾生だった。私がチームリーダーであるにも関わらず、私の変調に気付いた二人が地図と時間の管理をしてくれ、励ましの言葉をかけてくれる。二人は私を真ん中にして歩き、前後からペースを調整してくれる。自分が情けない。でも本当にありがたかった。身体はボロボロだが、二人のおかげで気持ちだけはまだしっかりとあった。20時30分過ぎに50kmを通過。既に6万歩以上歩いている。これだけアスファルトに足裏をたたきつければ、さすがに足も悲鳴をあげる。一歩一歩足が地面に着く度に足に激痛が走った。杉島塾生と西野塾生も同じだった。歯をくいしばりながら、ひたすら激痛との闘いだ。

 各サポート地点では、先輩やスタッフの方々が温かい飲み物やおにぎりの提供、マッサージからマメのケアまで献身的なサポートをしてくださった。60kmのサポート地点では、用意された毛布に倒れ込むように横になった。先輩が足の裏をもんでくれる。申し訳ない気持ちで一杯だ。しかし、このときだけは甘えさせていただいた。本当に感謝である。

 60km付近からは、もう膝と足裏の激痛に耐えられず、私は周りを気にせず叫びながら歩いていた。声を出さないと耐えられない程の激痛なのだ。さらに、3人で歌を歌い、励まし合いながら一歩一歩進む。70kmを通過した夜中1時半すぎから80kmまでの約2時間は、今思い返そうとしても記憶が飛んでいるほどの極限状態だった。辺りは街灯も少なく真っ暗な道で、歌を歌う気力も果てただ黙々と歩いた。「きつい。休ませてくれ。」誰からともなく声があがり、休憩ポイント以外で立ち止まることも増える。弱い自分をさらけ出し、つらい時につらいと言える仲間は本当に貴重だ。これができるのも、半年間ぶつかり合い切磋琢磨してきた同期だからだ。

 90km地点でイ組に合流。同期である内田塾生をリーダーに、堀塾生、海外インターンのゲランの3人チームだ。ここで、古山塾頭をはじめ先輩やスタッフの方々が迎えてくれる。ラスト10kmだ。「同期全員で一緒にゴールしよう!」。皆思いは同じだった。ここからは同期全員での行軍。快晴で美しい早朝の湘南海岸の景色の一方で、心身は極限状況。苦しみを越えた先のゴールを見据え、同期全員でただひたすらに一歩一歩前に進むだけだった。途中何度も立ち止まりつつも、なんとか江の島を通過し残り5km。塾の職員の方々や先輩が車や自転車で応援してくれる。

 いよいよラスト200m。松下政経塾の黎明の塔が見えた。先輩から塾の登り旗を2本渡される。イ組リーダーの内田塾生と私が旗を持ち、正門を越えてアーチ門が近付く。多くの人達が温かく迎えてくれる中で、最後は同期6人全員で肩を組みテープを切った。23時間24分。我々31期生が松下政経塾の新たな歴史に加わった瞬間だった。

 100km行軍のゴールの先に見えてきたもの。それは、心からの「達成感」と「感謝」の気持ちである。辛い時に弱音を吐ける仲間がいること、一人では不可能なことも仲間がいればやり遂げられること、そして、その仲間と歩ききったという何ものにも代えがたい達成感。さらに、それらを体験させてくれた同期へ、サポートしていただいた全ての職員・先輩方へ、そして松下政経塾生として学ぶことができることへの感謝の気持ち。これらは私の一生の宝物である。

 100kmを歩き切った直後の閉会式では、思わず感情が溢れだして涙が流れた。限界の中にいたからこそ、自分の強い部分も弱い部分も全て出たのだろう。これは偽りのない“私自身”の人間像である。100kmという道程は確かに辛く苦しかったが、人生という道はゴールもルートも決まっていないさらに過酷なものだろう。これからも自分自身を磨き、仲間とともに進んで困難に立ち向かい、一つ一つ乗り越え、自分という人間を成長させていきたい。

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片山清宏の活動報告

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Kiyohiro Katayama

片山清宏

第31期

片山 清宏

かたやま・きよひろ

一般社団法人 日本ブルーフラッグ協会 代表理事 / 慶應義塾大学SFC研究所上席所員

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