松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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関西研修
2007年5月

研修レポート

関西研修レポート 松下幸之助の足跡を訪ねて
宇都隆史/卒塾生

 

 南禅寺の甍が、新緑の間から顔を覗かせている。東山を借景に、独特の感性で形作られた緑と水の造形美。清流のせせらぎに耳を澄ませ、気持ちを集中させる。この同じ景色を眺めながら、松下幸之助塾主は何に思いを馳せていたのだろうか。

 私は京都にある『真々庵』に来ている。ここは以前、松下幸之助の私邸であった古式庭園で、PHPの活動拠点として中心的役割を果たした、いわゆるPHP活動の聖地である。松下はこの庭園を眺めるのを日課としていた。ガラス張りのロビーにある円形のソファーに腰を下ろすと、ある場所からだけ南禅寺の甍が見える。松下はこの場所に好んで腰掛け、背筋をピンと伸ばして庭を眺め、何か深い瞑想をしていることが多かったという。

 四月に松下政経塾に入塾すると、最初の部外研修に五月の『関西研修』がある。松下幸之助塾主の人間観を習得することを主目的として、関西を中心に松下の軌跡を訪ねて歩く二週間の長期研修である。松下生誕の地であり松下家の墓がある和歌山県千旦町。松下電器産業が産声を上げた大阪府大開町の工場跡。大阪西三荘にある松下電器産業本社。京都のPHP研究所。その活動の中心となった京都の真々庵。そして兵庫県西宮の私邸:光雲荘が主な研修先である。松下政経塾の塾生は、塾の設立目的と塾主が託した想いを正確に汲み取り着実に実行してゆく使命を負う。その使命を自覚するため、あるいはより深淵を読み取り自己の血肉とする過程として、真っ先に取り組むべき研修がこの関西研修なのである。

 松下幸之助という人物は一大企業の経営者というよりも哲学者に近い、そう私は思っている。そして、「その哲学的思想に影響を及ぼした何か」もっと言えば「松下を哲学者たらしめた宗教的あるいは哲学的な接点」 が足跡として残ってはいまいか、という着眼を持って関西に足を踏み入れた。行く先々の土地で、私は「この同じ景色を見ながら塾主は何を思っていたのだろう」と想像を膨らませていた。中でも私が一番印象に残ったのが、冒頭に述べた『真々庵』である。二週間の研修を経て私がたどり着いた一つの仮説は、「松下の哲学的思想には『茶道』が深い影響を及ぼしている」というものである。松下は青年実業家時代に茶道に出会い、裏千家家元と生涯にわたっての交流を築く。松下は茶道の根底に流れる禅の思想と日本の伝統精神に深い感銘を覚え傾倒するとともに、人類の繁栄幸福と世界の平和を願って、独自の「新しい人間観」を築き上げ提唱するに至ったのではないだろうか。

 松下の人間観は深く、そう簡単に自己の血肉にできるものだとは思っていない。しかし、故人の志に想いを巡らせ、後塵を拝する我々に何ができるのかを真剣に考えるとき、そこには先人の努力に対する畏敬の念と、それに感謝する精神の成長があるのではないだろうかと思うのである。関西研修を通じて、少しは塾主の想いに近づくことができたのではなかろうか。 真々庵にて瞑想していると、「君なぁ、がんばらなあかんで…」そんな塾主の声が聞こえた気がした。

2007年5月 執筆
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