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夏期休暇の余韻に浸る時間も無く、政経塾のカリキュラムによる製造実習は始まった。残暑の厳しい8月29日から9月12日までの15日間にわたる長期研修である。「もの造り」と聞くとどうしても、自宅を改良したような小さな工場で、熟練の工芸師達が手がける伝統工芸品などを想像する。しかし、今回造るのは工芸品ではなく「家」。いったいどんな研修が待っているのだろうと、大きなスーツケースと一抹の不安を抱え、研修先の西部HRセンターに到着した。荷物整理を終えると、早速明日から製造実習のガイダンスが始まった。
パナホーム株式会社は松下グループの総合住宅メーカーである。元々、松下電工の住宅事業部から始まり、1982年にナショナル住宅産業株式会社として独立。2002年に地方の販売子会社を統合した際に、社名を現在のパナホーム株式会社に改めた。住宅業界全体として苦しい時代といわれるが、年間約2700億を売り上げ、業界におけるシェアはミサワホームに継ぐ7位。パナホームの家は、建築部材を工場にてパネル単位までライン生産し、現場にて組み立てるプレハブ方式の工業化住宅である。我々6名は各々、工場の生産ラインの中に一戦力として組み込まれることとなった。
工場の朝は、ラジオ体操、社歌斉唱に続く朝礼から始まる。各ラインの係長の「おはようございます。御安全に」の挨拶と共に、今日一日の生産ノルマと残業終了予想時刻が伝達される。我々がお邪魔した時期、ちょうどパナホームでは経営体質改善のための構造改革の一環として九州工場(太刀洗)を閉鎖したばかり。その生産分を本社工場で補うため、1日12棟分を消化せねばならず、毎日の残業2時間が当たり前となっていた。私が働かせていただいた工程は2箇所。外壁となるパネルの鉄骨の溶接部にサビ止め材を塗る工程と、外壁の中に断熱材のウールを挿入する工程である。工場全体は「最速・最安のモノづくりの実現」を合言葉に、各ラインがキビキビと無駄なく動き、少しでも作業のリードタイムを無くそうという気迫に満ちていた。ラインを流れる台車が、機材の不具合や人的ミスによりチョコ停(短時間停止すること)し流れを乱すと、係長・班長クラスからの容赦ない檄が飛ぶ。慣れない立ち仕事と、蒸し暑く埃っぽい作業環境に体力を消耗し、毎日部屋に帰ると朝までグッスリという毎日が続いた。1週間ほどして立ち仕事にも慣れ、作業内容も板についてくると全体の動きや従業員の動きをみる余裕が出てくる。そこで従業員の働く姿から感じたのは、「品質へのこだわり」と「持ち場を守るというプロ意識」であった。何も無いところから、ラインが流れるにしたがって家のパーツが出来上がってゆく。その一つ一つをより完璧な状態で送り出す気概。自分達の生み出したものに対し、いっさいの妥協を許さぬ姿勢と不良品0%を目指す美学。そこに悠久の歴史の中で「もの造り文化」が支え育んできた、日本人の魂の原点を見たような気がした。
一般的に「パナホームの家は高い」と言われている。実際、工業化住宅は従来工法住宅と比べて数百万ほどかかる。よって工業化住宅は全体のシェアの12%止まりとなっている。しかし、「高いから消費が伸びない」というのは一理あるようで、実はそうでもない。消費者は、商品に見合った対価を払うことに対し、不満を持ちはしない。心理学においても、「人間は、ある一定の対価を払う方が、その対象に対してプラスの評価を行う。」という法則もあるくらいである。
要は如何に顧客のニーズを体現できるかにかかっているのである。パナホームの家の最大の売りは、過去の震災に対しての半倒壊0という驚異的な耐震性。そして自然換気力を利用した通気性にあると思う。それは、アンケート結果からも消費者から相応の評価を得ていると判断できる。商品に対する妥協を許さぬ姿勢と、飽くなき品質へのこだわり。それが、消費者の満足と信頼に繋がっているのだろう。コストダウンとクオリティーコントロール。一見矛盾する二者のようであるが、それを並立させる知恵を捻出するところに、経営の要諦があるのではないだろうか。CMソングではないが、「家を建てるなら・・・パナホームに」と本気で思わせる商品開発とサービスの向上。そこにこそ、今後のパナホームの経営がかかっているように思う。
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Takashi Uto
第28期
うと・たかし
前参議院議員
Mission
「日本独自の政治理念に基づく、外交・安全保障体制の確立」