塾報
Column
1996年8月
決算と議論のある国に
中田宏/卒塾生
編集部
――95年2月の本会議で、村山首相に「200兆を越す借金はあなたでなく私の世代が払う のです」と質問して議場を湧かせましたね。
「すでにたまっている赤字残高も問題ですが、それ以上に問題なのが赤字を生み出す国 家システムです」。
――具体的にはどういうものですか。
「税収は増え続けるものと信じ、その配分に汲汲とする政と官。経済が年7~8%も成長 していた高度成長期のラインがいまも働き続けている。こうした思考回路の人々が税収 不足に対し、税率アップという答えを導き出す」。
――発想の根幹から見直すべきだと。
「税率アップがもたらすのは脱税への知恵とエネルギーの浪費だけ。あえて低い税率に して無理なく広く払ってもらうほうが合理的です。ですから、まず民間の発想と常識で 考える。収入不足なら支出を削る。こうした発想こそ、この国の政治になかったもので す」。
――具体的な対応策はありますか。
「議会で思い知らされたのがこの国には予算あって決算なしということです。国の課題 全般を議論する場である国会は、税収増配分の予算審議だけに時間が割かれて、決算は なおざりにされています。決算委員会に所属したことがありますが、何かあると決算は 延期され、3、4年前の決算ですら終わっていない。企業や民間で一番注目されるのは決 算です。その実績で次が考えられるから。それが日本の政治では全く軽んじられている 。強制的にでも会期の一部を決算審議にあて予算が有効に使われているかどうかチェッ クする、こういうシステムが必要です」。
――いまの国会でそれが実現できますか。
「気付いた個人が粘り強く言い続けるしかないですね。とはいえそれにも障害がありま す。議員立法も実質は所属政党の許可がないとできないし、評決も同様です。採決は記 名投票(首班指名など)、起立採決、異議なし採決の三通りありますが、起立採決は事前 に政党ごとに賛否が決められていて、党の決定に反した行動をとってもそれは記録され ない。議事録には、ただ賛成多数とだけ」。
――議員個人の考えをもっと表に出すには……。
「質問と回答だけの審議をやめて議論をすれば、論理のないもの、一部の利益のみの政 策はメッキがはがれます。それには議員立法の手続きを簡素にし、討議拘束を三段階に することです。政党の根幹に関わるもの、一般的な政策、個人の倫理等で判断する、こ の順に拘束を緩くする。そして国の決算を各議員が自分の言葉で議論し、それを国民が チェックする、この新しいサイクルづくりが急務です」。