論考

Thesis

若者・女性は武器になるのか ~2003年道府県議会議員選挙結果から~

今春の統一地方選挙では各地で「無党派」、「市民派」という言葉を耳にし、目にすることが多かった。街頭演説やポスターでもこれらの言葉がことさら強調されていた。これは有権者が今の政治に対して大きな不信感を感じており、その原因が組織のしがらみと庶民からかけ離れた政治にあるという現状を反映したものであろう。各候補者が「私は既存の政治家とは違います」ということをアピールするために「無党派」、「市民派」というラベルを貼る。つまり長野県の田中知事や自民党の小泉総裁を軸に見られるように、敵(抵抗勢力)と味方(改革派)というラベルを貼ることで他候補、特に現職議員との差別化を図ろうとしているのだ。これにより既得権益にしがみつき旧態依然の政治を続ける現職議員に対して、私は「改革派」として、既存の政治を変えて行きますと有権者に訴えようとしているのだろう。

 その「無党派」、「市民派」のイメージにもっとも合う候補者が「若い候補」であり、「女性」候補であると考えられる。若さはしがらみのなさ、女性は生活密着のイメージが強く、既存の政治家の持つ「組織に縛られた年配の男性」というイメージからもっとも遠い存在であるからだ。今回は今春執り行われた道府県議会議員選挙にこの点から着目し、若者や女性候補数の前回からの推移や今後の可能性について言及してみたい。

 今春の統一地方選挙の道府県議会議員選挙の候補者総数は3854名。朝日新聞の調査によると、今回の候補者のうち、30代以下の候補者は8.5%を占めており、前回の1999年の統一地方選挙時に比べて1.5ポイント増加している。また女性候補者も今回は9.9%と前回(99年)の8.0%、前々回(95年)の5.0%を大幅に上回っている。また当選者のデータを見ても、若者(30代以下)は6.7%を占め、これも前回より1.1ポイント増加している。女性率も6.2%と前回(99年)の5.1%、前々回の2.9%を大幅に上回る結果となった。割合だけを観ているとまだまだ女性や若者の政治参加が成し遂げられているとは言い難いが、それでも着実に世代交代や女性の進出が進んでいることには間違いない。

 なぜ若者や女性の候補者がそもそも増加しているのだろうか。一つには既存の政治家のイメージを持たない候補者への期待があるだろう。今の年配の男性ではもう政治は動かせない、若い発想、女性の視点が必要だとする考え方だ。もう一つには若者や女性の社会進出が進んだことが要因だろう。政治家へのインターンや社会問題を考える学生団体の増加、またボランティアに参加する若者層も増えてきている。これらの活動を通じて政治に関心を持ち、強い志を持って社会に貢献したいという若者が増えている。また女性も子育てや地域の福祉事情を現場で体験し実情を知り、「自分でも変えられるかもしれない」、「政治家が変えてくれないなら私が変えてみせる」という意識が強くなってきたのだろう。またいわゆる政治のバックグラウンドを持たない層が比較的容易に立候補できるようになったことも要因の一つと考えてもよいだろう。お金がなくても、地盤が無くても、そして組織がなくても選挙に当選できるという可能性が近年増えてきていることが、挑戦への意欲をかき立てているのかもしれない。

 では「若さ」と「女性であること」は武器となりうるのであろうか。そしてそもそも、「無党派」や「市民派」の意義は何なのだろうか。若さのイメージは「きれいな政治」、「熱心さ」、「しがらみのなさ」があげられるが、逆に経験不足や生活者の視点を欠くなどのマイナス面も指摘される。また女性のイメージとして、「しがらみのなさ」、「生活密着」などのイメージがあるが、これも「理想主義」、「フェミニスト」などとマイナスのイメージもついて回る。データを見てみると若者の場合候補者総数328人中176人(53.66%)の当選となっている。また女性候補の場合、候補者総数383人中164人(42.82%)が当選している。2634議席を3854人で争ったので全候補者の68.34%が当選していることになる(倍率1.46倍)。データだけを観ると、確かに候補者が増えているので当選者数は増加しているものの、若いから、女性だからというだけで著しく有利というわけではなさそうだ。若い候補者、女性候補者が今回の様に増えていけば、それらの層に期待する票も自ずと割れるわけであるから、今後はさらに苦しい戦いを強いられる可能性すらあるのだ。また若い政治家、女性政治家が増えたことで政治が良くならなければ、そのうち若いだけでは駄目だ、女性というだけでは駄目だという判断が下されるようになるだろう。

 さて、次に無所属に焦点を当ててみる。無所属で出馬した候補者数は前回(99年)の総候補者数の34.0%から33.5%と占有率は低下している。また当選者数を見ても前回の26.2%から26.1%とその率は落ちている。街中で「無党派」、「市民派」が強調されていた割には、数値敵には前回と差異がなかったようだ。一つの理由としては都道府県議会議員レベルになると政党政治の色彩が強くなるため、無所属では現実的には政治活動が制限されてしまうからであろう。今回の選挙でも無党派・市民派を訴えているのは市議会議員候補者がそのほとんどであると考えられる。

 私は今回の選挙戦を観ていて、あまりにも「若者」、「女性」、「市民派」が氾濫していたように感じた。政治家に若さが必要なのかどうか、私の答えは「ノー」である。政治家に必要なのは「若さ」ではなく「若い発想」、「柔軟な発想」である。年齢だけではその能力は測れない、年配の候補者であろうとも常に若い、柔軟な発想をする政治家であれば素晴らしい仕事が期待できるであろう。経験のない、能力のない、知識のない若い候補者よりは、知識、見識に経験が伴い、且つ若者と同じ発想のできる年配候補に私は期待する。また女性というだけで、女性の視点だけで政策を訴えるのであれば、男性の視点で政策を訴える既存の政治家と何ら変わりはしない。女性であろうと、男性であろうと現場を知り、それぞれの視点で物事を見極められる候補者に私は期待したい。私は若い候補や女性候補を否定しているわけではない。むしろ大きな期待を寄せている人間の一人である。しかしながら無党派や市民派、また若さや性別などは政治にとってはさほど重要ではないとも考えている。そこにのみ差別化を求め、それだけを訴えるような候補者には政治を任せたくはない。そういった「ラベル」は期待を与える一つの要素でしかなく、他の政治家の資質や政策に優先されるべきことではないのだ。

 今回の選挙に限らず、未だに日本では政策中心の選挙ではなく、知名度や肩書き、外見や組織で投票行動が決まることが多い。住みよい町をつくるために求められることは何か、そのためにはどのような議員が必要なのか、責任をもって選択し、責任をもって監視する。そのような姿勢が有権者にも求められるのではないだろうか。有権者がホンモノを見極める目を持たなければ、ホンモノの政治家は生まれないのである。

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