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【防災ゼミ④】防災の未来をつくるリーダーへの道|防災担当大臣・坂井学

2025/9/3

防災の未来をつくるリーダーになるための道は、どのように切り拓かれるのでしょうか。防災担当大臣・坂井学の「防災ゼミ」最終回では、防災に強い関心を持つ35歳以下の皆様からの質問に対して坂井大臣が直接回答するとともに、防災リーダーへの道としての松下政経塾についてご紹介します。

※この記事は、2025年7月10日、松下政経塾とPHP研究所によって開催された「防災担当大臣・坂井学の防災ゼミ 〜防災の未来をつくる〜」に基づいて作成されています。

大臣一問一答

この防災ゼミでは、南海トラフ地震の被害想定と対策、内閣府による防災政策の最新動向、内閣府防災の強化と防災庁の設置について考察してきました。ここからは、本日お集まりの皆さんからの質問をお受けして、一問一答形式でお答えしていきたいと思います。

平時における防災の意思決定

(参加者)有事の際は、どこで被害が起きて、どんな人が困っていて、その方々の命と生活と尊厳を守るためにはどうするべきかということが意思決定の基準になると思います。一方、平時は不確実な情報がたくさんある中で、どのようなことに注力して意思決定を行っているのかについてお伺いしたいです。

(坂井大臣)国レベルでの大きな災害に対しては、事前に防災に必要な団体と協定を結ぶようにしています。例えば、地域内の輸送物資をどうやって避難所に届けるのかなどのルールを作っています。また、海外の取組を研究し、「こういう仕組みがいいんじゃないか」ということを検討しながら意思決定を行っています。

地域の防災格差

(参加者)どうすれば地域の防災格差が埋まっていくのでしょうか。

(坂井大臣)我々にとっても防災格差は大きな課題で、答えは出ていません。今、市町村でそれを考えて動ける人は少ないと思います。ですから、地域防災力強化担当の方々とも連携し、自治体の担当者に研修を受けていただいて、知識と意識を持ってもらう人間を作るというところから地道に取り組んでいます。

インバウンドの防災対策

(参加者)インバウンドに対する防災対策では、「日本は地震がある国なんだよ」ということを知った上で楽しんでもらうための施策を考えていく方向性があるのかについてお伺いしたいと思います。

(坂井大臣)現時点では、被災者にとって必要な情報を抜き出して幾つかの言語に翻訳して見れるようにするということを想定しています。しかし、やはり訓練も行っていく必要がありますので、確かにインバウンド対策はまだまだこれからの課題です。

個別避難計画のあり方

(参加者)制度を形骸化させるものは指標化だと思っています。今、多くの自治体が個別避難計画の作成率のみを上げようとしています。中身が伴っていないようなケースがあると思いますが、いかがでしょうか。

(坂井大臣)中身がないのに計画を作ったことにして数字を上げているというのは「けしからん話」です。数字を上げるためだけの計画が上がってこないように、地域防災力担当の仕事の1つとして、改めて指示を出したいと思います。

防災教育としての避難訓練

(参加者)今の避難訓練のような防災教育について、大臣はどのようにお考えでしょうか。また、今後求められる防災教育のあり方についてお伺いしたいと思います。

(坂井大臣)東日本大震災における「釜石の奇跡」のように、片田敏孝先生がずっと教育を通じて津波からの避難を伝えていたからこそ、子供たちが自分たちで津波から逃げることができたという実例もありますので、教育の力は本当に大きいと思っています。避難訓練のような防災教育は、大事な分野として考えていきたいと思います。

防災専門家の育成

(参加者)長期的なスパンで防災に取り組む人材をどのように育成していくのかについて、お考えがあればお聞きしたいと思います。

(坂井大臣)防災庁でプロパーの人が出てきて、その方々がいろんな場所で発信する機会が増えることによって、防災専門家が生まれていくことを期待しています。スペシャリストが登場することによって、社会の意識が変わってきて、実務においても学問においても防災教育の重要性が高まると思っています。

横串を刺す防災行政

(参加者)今日は被災地からやってまいりました。日本の防災は、予防・復旧・復興が全部縦割りで分業制になっていました。これから防災庁ができて、防災行政に横串が刺されていくことに期待をしていますが、実際に体制がどうなるのかについて非常に気になっています。

(坂井大臣)内閣府防災では、内閣府そのものには勧告権がなく、他の役所は内閣府の言うことを無視しても構わないという状況になっていたことが大きな課題だったと思います。防災庁が設立されて勧告権が付与されると、間違いなく防災行政における横串も通しやすくなると思っています。

災害時の対応のあり方

(参加者)石破内閣の方針として、当初から被災者支援、特にキッチンカーなどによる被災者支援が中心にあったと私は思っています。どちらかといえば、まずは人の命を守るということを重点的にやるべきだと思っているのですが、大臣のお考えを伺えたらと思います。

(坂井大臣)「命を守る」と「命をつなぐ」という2つの柱を立てていて、どちらも大事だと思います。双方を実現するために、まずは地震対策の1丁目1番地である耐震化を推進します。予算を持っている国交省の住宅局と連携しつつ、リバースモーゲージの仕組みも使って耐震化を進める努力をしていきたいと思っています。

事前防災における重点施策

(参加者)事前防災において、大臣がどのようなところに力を入れたいかについてお考えをお聞かせいただけたらと思います。

(坂井大臣)特に、医療・介護や食料の確保といった”命に直結する分野”に関して、事前に訓練することが必要だと思います。実際の災害時には、訓練の想定を超える混乱が出てくるので、それもまた乗り越えていかなければならないのですが、乗り越えるものをできるだけ少なくするのが事前防災だと思っています。

居住誘導のコミュニケーション

(参加者)そもそも危険な場所には住まないというのは、大事なことだと思います。危険な場所に住んでいる方たちに対して、どのようにメッセージを伝えていくのかについてお聞きしたいです。

(坂井大臣)理屈から考えれば、危険な場所に住んで寝起きをしていること自体を避けた方がいいということは誰もが分かっています。その施策を掲げ続けて、前へ進み続けなければなりません。防災庁のような組織において、旗を振り続けたいと思っています。

防災計画の定着化

(参加者)防災計画をどのように定着させていくかについて、ご見解があれば教えていただきたいです。

(坂井大臣)大臣室には知事や市長が陳情に来られますが、むしろこちらから防災計画について「あれをやってくれ、これをやってくれ」と注文を出しています。地道な取組ですが、私だけではなく多くの職員が意識しながら、自治体の皆さんや地域の方々とお会いした時にお願いしていくしかないと思っています。

防災リーダーへの道としての松下政経塾

最後に、防災の未来をつくるリーダーの皆様に、私の人生において大きな学びとなった松下政経塾についてご紹介させていただきます。

私は、平成元年に、松下政経塾10期生として入塾しました。当時は、松下政経塾から国会議員はほとんど出ておらず、塾に入ったから政治家になれるとは思っていなかった時代です。私はどうしても政治家になりたいと思って入塾したわけではありません。松下幸之助塾主の想いに感銘を受けて、それに応えたいという想いで入塾しました。結果として、選挙を経て政治家になりましたが、あくまで結果であったと思っています。

松下政経塾では、自分で考えて研修の計画を練り、自分で考えて講師を選び、自分で考えて様々なことを学んでいきます。私自身は、熊本県庁や人吉市役所という行政の場で研修を行い、地域づくりに出会いました。熊本で地域づくり推進協議会の立ち上げに参画させていただいて以降、ずっと地域づくりをテーマとして活動していました。 

東日本大震災の時には、私の元秘書が岩手県議会議員をしていたこともあり、岩手県の大槌町の安東小学校の避難所に通って支援活動をしてきました。最初に支援活動を始める時に、「あちらもこちらも行ったら長続きしない」「信頼関係をつくっていかなければ長続きはしない」と思いましたので、他の地域には見向きもせず大槌町の皆様とお付き合いしました。

今でも細々と活動が続いており、大槌町に行くと、「14年経って未だに関係が続いているのはあんたのところぐらいだよ」と言われます。一般的に、時代的な局面が変わっていけば、関係性は変わります。しかし、東日本大震災から14年経とうが20年経とうが、私にとって関係性は変わりません。今でも大槌町の皆様が横浜市の瀬谷区のイベントに海産物を持ってやってくるというような関係が続いています。これは、地域づくりの学びの結果です。

また、私は、21世紀は「土と水の時代」だと思っていました。そこで、卒塾後、自然農法で田んぼづくりを経験しましたし、配管工としてスーツを着ない生活を3年間も経験しました。クレーンが付いているユニック車を運転して仕事をしていました。1日8時間、スコップで穴を掘っていた経験も今に活きています。これらは、松下政経塾で学んだ経験が大きく影響しています。

松下幸之助塾主は、「この世界には、天地自然の理法がある。ルールに基づいて動いている」としきりにお話されていました。私もいろんな体験をする中で、「見えない世界があって、そこにはものすごく大きな力があるんだ」ということを実感させていただいたことが、松下政経塾での一番大きな学びだったと思っています。

松下幸之助塾主は、「天地自然の理に沿った選択をしていけば、必ず成功する」と説いています。この天地自然の理法を感じるには、自修自得するしかない。その場が松下政経塾であり、素直な心を持って世の中のあり方を見ていく。そして、天地自然の理法を感じる能力がついてくる。

私も、その意識を持つことができて、信じることができました。これができると、自分自身がすごく楽になります。とにかく一生懸命やったことで、それが合っていれば必ず成功につながるということを信じることができる。そうすると、そこには一種の安心感を得ることができます。

「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますが、「浄土真宗のお坊さんは『自分はそうではない。天命に安んじて人事を尽くす』と言われた」ということを松下幸之助塾主にご紹介いただいた時に、腑に落ちました。正しいことをやっていれば必ず天命が下る。それを信じて人事を尽くす、やるべきことをしっかりやるんだということだと思います。私としては、これを実感できたことが大変良かったと思っています。

例えば、私は、通常ならば考えられないようなご縁で鳩山邦夫さんの秘書を務めさせていただきました。神奈川5区の候補者になる時にも、予想外の事柄があって候補者になったという展開があったわけです。初めて選挙に出た時には落選し、浪人して政治活動を続けようと思った時にも、「ご縁に恵まれてこの立場をいただいているのだから、自分が一生懸命やっていれば、必ずお役目をいただける」と信じていました。「衆議院議員としての役目ではないかもしれないけれども、必ず何らかの役目が天命として下るに違いない」と。

だから、「自分は落選したけれども、今は衆議院議員になることを目指して一生懸命やっていくだけだ。天命に安んじて人事を尽くすだけだ。一生懸命やるだけだ。その結果、衆議院議員なのか、配管工なのか、農家なのか、他の仕事なのかは分からないけれども、必ず天命があるのだ」ということを信じました。「やるべきことをやるだけだ」と集中できた実感があります。

私にとって、松下政経塾で、「この世には自分よりも大きな力が存在する」ということを実感できたのは大きかったと思っています。35歳以下の皆様方には、松下政経塾に応募する資格があります。防災の未来をつくるリーダーの皆様方の中で、松下政経塾に関心のある方は、足を運んでいただけたらと思います。


【防災担当大臣・坂井学の防災ゼミ】

防災担当大臣 坂井 学
Manabu Sakai, Minister of State for Disaster Management

昭和40年生まれ。東京大学法学部卒業、松下政経塾に入塾(第10期)。在塾中は、熊本県庁、人吉市役所、スタンフォード研究所などで研修。卒塾後、熊本県に住み、家庭排水からでも土が生命力を発揮できる汚水処理をめざす会社で働きながら、自然農による農作物栽培を実践。鳩山邦夫代議士秘書を経て、衆議院選挙に立候補。衆議院議員6期。【詳しくはこちら

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