活動報告

Activity Archives

100km行軍レポート

松下政経塾ロゴマーク

松下政経塾

2011/9/30

私にとって100キロ行軍とは、真の政経塾生となるための修行であった。そこから得られたものは大きく、かけがえのないものであった。以下、振り返ってみたい。

 歩く前は、「よく歩こう」と思っていた。振り返ってみると、「自分らしく」歩いた100キロ行軍だった。

1.はじめに~100キロ行軍に向けた決意~

 私にとっての100キロ行軍は、8日前の9月28日に始まった。その日、夜遅くまでの研修を終えた後、宮川典子塾員と江口元気塾生と3人で、ラウンジで翌日の始発まで語り合った。宮川塾員は、翌日の予定もあるのに、私たち塾生と話をするために残ってくれたのである。そこで、100キロ行軍に向けた心構えの話から始まり、政経塾生としてどうあるべきかという話に移り、涙ながらの熱い会話を繰り広げた。今考えると、後輩としての礼を失していたのではないかと思えるほど語ってしまったのだが、宮川塾員はそうしたことを気にも留めずに、真剣に向き合ってくれた。そして、100キロ行軍を真の塾生になるための修行と位置付け、100キロ行軍に向けた決意を文字にすることを約束した。

 以下、宮川塾員と江口塾生に宛てた決意文を引用する。
************************************
   100キロ行軍決意表明

目的:どのような事態が発生しようと必ず歩ききる。

趣旨:極限状態の中、いかにして自らを律するかを体得すると共に、チーム一丸となって歩くことで、相手の気持ちを常に考える姿勢と思いやりの心を培う。

宣誓:
一つ、必要な備品は必ず多めに持っていき、仲間が必要な時に差し出せるよう準備をする。
一つ、例え疲れていても、サポートしてくださる方への感謝を忘れず、休憩所では「有難うございました」「行って参ります」と口に出す。
一つ、仲間に余計な心配をかけないために、辛くなっても笑顔を忘れない。
一つ、地図係として自らの責任を自覚し、道を間違えて仲間に負担をかけないように常に地形に気を配る。
一つ、疲れがたまり重い空気になった時に、やる気を奮い立たせる工夫として、音楽プレイヤーとスピーカーを持参する。(例:ZARDの「負けないで」)

以上の項目を達成しつつ、全員でゴールをし、真の政経塾生としての自覚を養う。
************************************

 政経塾生になる前の自分であれば、人と涙ながらに語り合うことなどなかっただろう。ましてや、決意文を人に見せるような「ださい」ことは、絶対にしなかっただろう。それが、そうした「ださい」ことに同じく真剣に向き合ってくれる人を得て、はじめて自分らしく人と関わることが出来る。この決意文は、その初めの一歩だったのだと思う。

2.「よく」歩いた80キロ

 100キロ行軍当日、私は「週当番1」と呼ばれる、朝の掃除の準備をし、目覚ましの音楽を流す当番だった。選曲は、もちろん『負けないで』。31期の先輩方が、昨年の100キロ行軍中の一番辛かった時に『負けないで』を皆で歌って乗り切ったと聞いていたため、それを継承する想いを込めての選曲だった。

 32期生は準備万端だった。リーダーの江口元気塾生は誰よりも強い気合いをもって私たちを引っ張ってくれていて、一か月以上も前から、30キロ、50キロと練習を重ねてきた。

 そうして出発。雨が降るとの予報がされていたが、綺麗に晴れた。応援してくれている、と思った。

 痛みは予想以上に早く来た。30キロにたどり着く前に左ふくらはぎに痛みを感じていた。練習の時は大丈夫だったのに、と思ったが、まだ「よく歩く」だけの余裕はあった。痛くても「痛い」と口に出さずに、スピーカーで『負けないで』を流し、姿勢正しく、休憩地点で32期生を支えてくれる塾員・スタッフ・先輩の皆さんにきちんと挨拶をした。

 もちろん、「よく歩けている」と思っていたのは自分だけで、傍から見ると、「よく歩いていた」とは言えなかっただろう。私が辛かったのは、きっと見え見えで、食事の面、飲み物の面、さらには疲れ切った足のマッサージなど、申し訳ないと思うくらいに手厚くサポートして頂いた。特に、北川塾員と大谷塾員は、私の足首を気にして、もう薬局もほとんど閉まっているだろう時間帯に、痛みの段階に応じて換えられるように何種類ものサポーターを買ってきてくれた。そして、75キロ地点に着いた時、宮川塾員の姿が見えた。もう心が折れそうになっていたのだが、ジャージ姿の宮川塾員の笑顔を見て、誓った決意を思い出し、もう一度頑張るのだと、気持ちが明るくなった。

3.「自分らしく」歩いた20キロ

 そうは言っても、体の方はもう限界だった。次の80キロ地点で、宮川塾員から足のマッサージをして頂いた時、「痛い! 痛い!」と、地面に敷いてもらった毛布を握りしめながら、無意識のうちに何度も何度も叫んでいた。「よく歩こう」と思っていた、出発前の自分の計画はどこかに吹き飛んでしまっていた。

 さらに次の85キロ地点に到着した瞬間、いつの間にか涙が溢れてきた。泣いてはいけないと思い、こらえようと思うのだがこらえきれずに、せめて見られないように横を向く。「他にどこか痛いところはないか?」など質問されても、涙が溢れてうまく喋れないため、なるべく言葉を短くしようとして素っ気なく聞こえてしまうような返事をする。それにも関わらず、塾頭も塾員も先輩方も何も気にせず、ただ私たちの心配だけをしてくれる。

 その後の15キロは文字通り必死で歩いた。足を踏み出すたびに「痛い、痛い」と言いながらリズムをとり、姿勢正しく歩くことなど忘れて人目も気にせずにただ腕を大きく振って歩いた。「よく」歩く余裕などなく、何も意識せずに、ひたすら自分のままに歩いた。

 休憩地点が近づくたびに涙が流れ出てきた。というのも、実は「イ組」には、80キロ地点以降はずっと同じメンバーがサポートに入ってくれることになっていたため、次の休憩地点で待っていてくれる人が誰かが分かっていたのである。そのサポートメンバーは全員気が置けない人達であり、100%私たちのゴールを願ってくれていると自信を持って言える人たちだったのである。もしこれで、メンバーの中に1人でも、私が泣くのを見て「弱い」と思う人がいたならば、私は一瞬のうちに泣きやんだだろう。しかし、私が泣いていても本気で心配してくれる人達なのだという安心感があり、泣いてはいけないと思いながらも、最後まで泣くのを止められなかったのである。つまり、安心と感謝の涙であった。

 23時間19分。32期全員でゴールをした。歩いている途中、どんなに足が痛くても一度もリタイヤしたいと思わなかったのは、32期生全員で目標を共有していたからであり、また、多くの人達が全力で応援していてくれたからだと思う。門の前で待っていてくれた歴代最速記録で既にゴールをしていた「ロ組」と合流し、6人でゴールをした瞬間、今までの涙は吹き飛んで、喜びの笑顔しかなかった。ただ、足の方は既に緊張も解けて歩くこともままならなくなっており、保安の鈴木さん、女性職員の皆さんに応援され、肩を貸して頂きながら挨拶を終え、食堂でコックの安藤さん手作りのカレーを食べて、宮川塾員に半ば担いでもらうような形で自分の部屋に戻り、泥のように眠った。

 翌日、足を見てもらうために整形外科に行こうと、タクシーに乗った。政経塾は駅から離れているため、よくタクシーに乗るようになり、よく会話もするのだが、その日乗ったタクシーの運転手の方は今まで出会ったタクシーの運転手の方の中で一番親しく話して頂いた方だった。サングラスをかけたその人は、何度も「お疲れ様」「頑張ってね」と言ってくれた。このタイミングでこうした方との出会いを頂いて、最後まで、応援してくれている、と思った。

4.100キロ行軍と政経塾

 こうして振り返ってみると、私にとっての100キロ行軍とは、恥ずかしいくらいに自分らしく歩いた行軍だった。それは、格好つけることが出来ないくらいに限界に達して初めて体験出来る境地だったと思う。確かに、よく歩いた方が格好いいだろう。しかし、自分らしく歩いたからこそ100キロ行軍を完歩できたのだと思っているし、何よりも、自分らしく歩いていた自分の方が好きである。

 よく歩いていた時は、口では「痛い」と言わなかったが、頭の中は痛みで一杯だった。また、痛いほうの足を庇いながら歩いていた。しかし、自分らしく歩くようになって、口でこそ「痛い、痛い」と言っていたが、頭の中には「絶対にゴールする」ということしかなく、足を庇うこともしなくなっていた。とにかく、がむしゃらに、シンプルに歩くことが出来ていた。

 この行軍の80キロ地点以降は、私の政経塾での生活と似ている。政経塾でも、余裕が持てないような毎日に懸命についていっているが、自分らしさというものを日々発見している。「痛い」ならぬ「辛い」ように見えるかもしれないが、私の頭の中には「成長する」ということしかない。例えば学生時代の自分と比べて、余裕はなく、格好悪く見えるかもしれないが、それでも今の自分のほうが好きだと思う。よく、新卒の新入社員には「出社拒否」をしたいと思う時が何度かあると聞く。しかし私は、「明日の朝早く起きなければいけないのが嫌だ」と思うことはあっても、どんなに大変な時でも、塾を休みたいと思ったことは今まで一度もない。大変であるし、辛いのだが、どんな時でもお腹の底がふつふつとして楽しいのである。毎日の新しい出会い、新しい研修、新しい体験が待ち遠しいのである。

 3年半後の、政経塾生としてのゴールのその日に、ぼろぼろになっていてもいいから、ただ喜びの笑顔しかないというゴールをしよう。

Back

関連性の高い活動報告

Resarch Update

松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門