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経営の神様と呼ばれた松下幸之助塾主は、社員一人ひとりが経営者たれと言った。そして松下電器の社員には販売店での実習をさせ、我々塾生も販売実習と製造工場実習を経験する。実家が自営をしていたことや、金融機関での勤務経験などから、「経営」には少なからず触れてきたものの、様々な研修を通して改めて経営について考えを巡らすに至った。そして、実習先の地で触れた近江商人のあり方こそ、日本的経営の根本であると確信した。それは必ずや行き詰る日本の経済とグローバル社会で闘う企業の経営を救うものであるだろう。
経営の三大要素として「始末」「才覚」「算用」がよく挙げられる。「始末」とは、商売の帳尻が合うようコストを削減し、無駄を省いて節約をすることであり、「才覚」とは、創意工夫の努力をし、経営革新をしていくこと、「算用」はしっかりと採算を確保する経営計画や経営管理をしていくことであると捉えられている。これらは、確かに経営の要諦として欠かせない要素であると言ってよい。
しかし一方で、近江商人は、巧妙な計算や企てといったものを良しとはせず、世の過不足を補って需給を調整するのが本務であると言った。本当の経営とは、この三大要素からではなく、この商人の本務を掘り下げることで見出すことができるのではないだろうか。
社会的に正当な商いや行商先での経済的貢献を求める近江商人は、さらに社会的責任を強く意識する。「売り手よし、買い手よし、世間よし」。この三方がよくなって初めて本当の経営といえるのである。
そして、三方よしの経営をするために、財に見合うだけの人格や教養、礼儀作法といった人間形成を強く求めており、驕ることは即ち身を滅ぼすとして、質素倹約を旨としたのである。また、「武士は敬して遠ざけよ」と、権力に依存して利益を得ることを良しとせず、薄利多売を主とした。そして、地場産業の育成や地域活性化あってこその商いであるとして、「お互い様の心」や「地域貢献の心」を大切にすることこそ経営であると伝え続けてきたのである。こうして、三方よしの経営を行うために、日々の「始末」や「才覚」や「算用」は欠かせなかったと言ってよい。
それでは、なぜ日本には「三方よし」の経営が生まれたのであろうか。
帝国データバンクの調べでは、日本には創業百年超の老舗企業が約二万社、創業二百年超では約千社あるという。これは世界的に見ても圧倒的に多く、創業二百年超企業の世界の4割を日本で占めると言われている。
このように、日本人が企業を永続的に繁栄させてきたのは、日本の先祖を敬う精神文化が影響しているのではないかと考える。特に近江商人は、今日の繁栄があるのはご先祖様の苦労の賜物であり、当代である自分は、主人としてその長い歴史の一部分の間を預かる奉公の身として考えていた。だからこそ、家業を守り繁栄させていくことが絶対命題であり、その強い信念が「経営」を形づくる基礎となっていたのである。
メディアでは、この厳しい経済環境の中でも高収益をあげ、拡大を図る企業の特集に余念がない。いつの間にか「ビジネス」という言葉で企業の全てを語られる世の中になってしまった。経営の手法は「ビジネス」の手法であり、利益をあげた企業のやり方が良い経営として扱われている。しかし、大切なのは、一時の利益をどれだけあげられるかではなく、いかにして永続的に繁栄することができるかということではないだろうか。
松下幸之助塾主は、赤字に対して非常に厳しかったという。しかし、それは赤字を出すことが自分の懐が痛むことだからではなく、企業の赤字は、国家や社会にとって大きなマイナスだと考えたからである。企業は社会の公器であり、適正な利潤の追求こそ経営である捉えていた。常に三方よしの経営をしてきたのである。
実際に企業を経営している方からすれば、「弱肉強食の世界の中で、お人好しでは経営はできない。三方よしなどは、余裕ある企業の自己満足だ。」と思われるかもしれない。
しかし、お客様のことを考えずに商売ができないのと同様に、社会のことを考えずには商売はできないのではないだろうか。だからこそ、三方よしの経営が、結果として企業の永続的な繁栄をもたらすと考えるのである。
人間関係然り、政治然り、どんどん近く狭くなる自分の目線をより広く、より透明にしていくことが永続的な発展や繁栄に欠かせないものである。
そして、世のため人のためになることをするために努力を惜しまない心こそ、経営の要諦であると思うのである。こんな時代だからこそ、「お互い様の心」や「地域貢献の心」から始まる経営が求められている。
私自身も国家を経営するという観点から、こういった心を大切にしていき、これからも本当の経営のできる人物になれるよう日々精進していきたい。
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Riichiro Sugishima
第31期
すぎしま・りいちろう
埼玉県入間市長/無所属
Mission
自治体経営における『無税国家』と『新国土創成』の探求