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MBAでは教えられない経営理念とは

 今、世界のエリートと呼ばれる企業人が学ぶMBA。MBAでは、ファイナンス、アカウンティング、マーケティング、組織論、経済学、統計学、戦略論など、経営に関する基礎知識をフレームワークと呼ばれる定型化された思考方法や分析手法を学ぶことができる。しかし、このMBAにおいて、唯一学べないものがある。それが「経営理念」である。今回、松下政経塾の販売実習を通して、顧客に対して「心を満たす、心のサービス」という経営理念を持つ企業と出会った。私は初めて経営理念がどのように作られるのかを垣間見ることができた。

 私が実習した企業(街の電気屋さん)では、経営理念として、「心を満たす、心のサービス」を掲げ、毎朝朝会で「商品を売る前に自分を売る」という行動指針を唱和していた。そこに家電量販店にはない強みとなるものが隠されていた。量販店の強みは価格、しかし街の電気屋には上乗せされる価格以上のサービスがあった。テレビが故障すればすぐ駆けつけ、電気が切れれば取り替える。こういった些細な作業が顧客に安心感を生んでいた。そして、日々の積み重ねにより「街の電気屋さん」という名前が地域にブランド化していた。お客様のためには、時間をいとわない。そういう姿勢を従業員が持っていた。だから訪問先では、「街の電気屋さんなら間違いない」という顧客の言葉を聞いた。従業員が経営理念を共有し、組織として従業員一人ひとりが、お客様に対して、「心を満たす、心のサービス」をするために、「商品を売る前に自分を売る」ことを地道に実践してきた結果だ。また売り上げも街の電気屋としては、県内で一番の売り上げを出していた。さらに、街の電気屋の従業員は皆仕事を好きになり、楽しむという姿勢を持っていた。企業の経営理念が、社長一人のものでなく、店長をはじめとした従業員のものになっていた。経営理念が共有されていたのである。つまり、企業として社長一人が、理念が持っていたとしても、それが企業の理念とならなければ経営理念とはならない。研修を通して、経営者が理念を持ちそして従業員と共有することで初めて企業としての経営理念が生まれるのだということを実感した。

 しかし、今の日本の企業には、その大切な経営理念が欠けている企業が増えてきているのではないかと感じる。かつての松下幸之助などの創業者たちは、企業を創設するにあたり、社会のために、そして未来のために、企業として何が必要かを考え自ら経営理念を持って会社を設立した。だが、今の経営者には経営理念を持たずに会社を経営している人も多い。成長しそうだから、誰もやっていないからという儲かることが主目的であったり、親が創業した会社の息子だからという理由で会社を継いだりと、経営する社長自身が経営理念を持っていない人が多いのではないか。さらに今は、従業員も経営理念に共鳴するというよりも、大企業で安定しているから、給料がいいから、ブランドイメージがいいから、ということで企業を選択しているようにも思う。過去の歴史を見ても経営理念がない企業は方向性を見失いやがて衰退していった。かつて、企業の寿命は30年と言われた。しかし、その寿命を超えて今も生き続けている企業には、創業者が経営理念を持ち、その理念に共鳴する従業員がいた。

 日本は今、グローバル化に対応するためにM&Aをして成長を図ろうとしている。今後は、経営理念の違う企業が一緒になる機会が増えることが予想される。文化や歴史が違う企業にとってどのような経営理念を立てるべきなのか。はたまた経営理念が違うことで合併は避けるのか。それとも、ゼロから経営理念を作り直すのか。将来必ず選択が迫られることになるであろう。その時に大切なのは、企業にとっての使命感である。日本はこうあるべし、だから私の企業は、社会にこのような形でかかわっていくのだという経営理念が必要だ。

 経営理念は、他人から与えられたり、人真似であったり、教えから得られるものではない。経営者が実際の社会の中で問題意識を持ち、心の中の葛藤があってこそ初めて生まれる。お金には変えられない使命感を企業が持ってこそ、働く人に対して生き甲斐を与える。経営理念を持つ企業こそ、この不況期を脱するために必要であると私は考える。

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