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100キロ行軍記 『不足していた、極限での2つの洪水対策』

 「溌剌若きぃ~胸張りてぇ 仰ぐ眉山のぉ~空広くぅ♪」

 母校・徳島県は富岡西高校の校歌である。今年、創部103年目にして初めての高校野球・四国大会で勝利した母校の校歌。まだ40キロも満たない横須賀の道中で十年ぶりに大声を張り上げてこの歌を叫んでいた。あの炎天下の激しい守備練習を思い出しながら…。疲労と眠たさ、気を抜くとすぐに弱気な言葉が出そうな状況を互いに察し、とっさにめいめいが高校時代の校歌を歌う事を提案した。もはや、恥かしさも何もない。人目なんて関係ない。やけくそである。今となっては前日の夜の余裕綽々ぶりが悔やまれる。同じチームの宇都・宮川そして兼頭先輩と日が変わってもまだ勢いよく“前夜祭”を続けた。「地元お遍路道は1340キロあります。その足慣らしにちょっくら100キロ行って来ます!」。つい10時間前、二日酔いで臨んだ出発セレモニーでの豪語が、自らの足をいっそう重くしていた。ここ数年来、24時間以内に完歩出来なかった先輩はいない。どう考えても自分が歩けない訳がないと、自信たっぷりに、事前練習することもなく当日を迎えた。それが今のこんなありさま…。しかし行くしかない、ただひたすらに。何のために? 仲間と共に自分に打ち勝つために―。

 しかし100キロは想像以上に長かった。時間5キロのペース。ほぼ10キロ毎に塾スタッフ・先輩達が簡易休憩所を準備して下さっている。こんなに人の存在が温かいと思うことは数少ない。各休憩所の手前30メートルあたりにスタッフの姿が見えると、なぜか無性に目頭が熱くなり、ブルーシートに座っても皆の顔を正面から見ることが出来ない。疲労と安心感が、普段以上に素直になっている心に浸みる。

 笑顔が絶えないのは20キロ地点までであった。徐々に太腿、ふくらはぎがパンパンに浮腫み、屈伸もままならなくなった。「同期がおらんかったら、絶対にムリやなぁ。」チームの全員が同じ様に考えていたようだ。しかし、歩くのは自らの足でしかない。折り返しの50キロを過ぎたのは、出発から11時間半を過ぎた夜の9時半。ギリギリのペースである。後半のペースダウンも予想され、一抹の不安を覚える後半のスタートとなった。

 不安はその直後に現実となった。同チームの宮川が実は膝の損傷と足小指の亀裂骨折を抱えて参加していたのであった。そんな宮川をリーダー宇都がマンツーマンで支える。自分とマリオン、そして毎日新聞社の取材で一緒に歩くことになった内橋氏。人間にはそれぞれ固有の生きるペースがある。限界に近い肉体をひとつのペースに合わせるのは正直なところ相当な負担であった。歩を緩め、あるいは早めてチーム一体となって歩く。荷物も持ち合う。最低限、チームの同僚に迷惑はかけまいという決意を、街灯もない真っ暗闇の中、黙して歩むそれぞれが胸に誓っていた。24時間以内にゴール出来ないこと、それは来年の再チャレンジを意味する。負けたくない。秋口にも関わらず、夜風が寒い三浦半島の先端であった。

 残り30キロ地点。夜もうっすらと明け始めた。残り6時間。ん? 休憩なしで1時間5キロ? 相当な焦りを感じた。肉体の酷使は限界に近い。休むと筋肉が固まって動けなくなる。努めて明るく振舞ったが、内心、目標達成は絶望的に感じた。同期最年長の別チーム・寺岡に連絡する。「いチーム、厳しいかも知れない…。」「とにかくチームで頑張りや。」出発前に誓い合った、全員でのゴール。そして万が一誰かがゴール出来なければ、全員でやり直すという約束。それが今、果たされるか破られるかの瀬戸際だ。休憩ポイントに到着した宮川がやけにテンションが高く、彼女の内面の苦しさを逆に感じざるを得なかった。時間は朝の4時前。“引きずり回してでもゴールします。”ここが勝負どころだぞ、と仰る古山塾頭にそう宣言をして、ゴールまでの最後の試練に挑む。

 人生は、厳しい。肉体の限界を感じた頃、大粒の雨脚。しかも夏の夕立のごとく激しい。悪寒と共に、シューズは瞬時に路面の水に浸かり、次第に足はふやけて切り刻んだような深い溝を作った。“もう表面の皮はどうなってもいい。骨と腱と気合があれば歩ける。”大袈裟ではなくそんな思いであった。ドボドボの靴とびしょ濡れのシャツ。後方も気になるが、同僚の頑張りを信じて進む湘南海岸。気合がモットーのこのチームである。ペースが微かに上がってきた。70~90キロ地点まで時間6~7キロで進む。ゴールは目前である。

 ゴール直前5キロ地点で、ろチームの寺岡・熊谷・小原も合流。仲のよい同期という周囲からのかねてからの評判であるが、全員手をつないでのゴールは、塾始まって以来のことだ。塾の垣根が見えた最後のストレート。スタッフ・先輩塾生・来賓の方々が数多く迎えて下さっている。瞬間、押さえる間もなく感涙が溢れた。もう止まらない。あれ? 周囲を見回したら泣いているのは自分一人。しかし止まらないものは止まらない。早朝の豪雨にも負けない涙。政経塾ののぼりを片手に、同期とゴールした瞬間の光景は、色あせた写真を見ているように、貧血と疲労と朝日の強さで、真っ白であった。所要時間は23時間50分台。こんな達成感はない。人間、一日で変われる。その代償は、足裏にたこ焼き大のマメと両脚腰の激しい筋肉痛。しかし収穫は無限大である。逃げず立ち止まらず、一度決めた道を信じ、一歩ずつ歩む。そこに取り繕ったキレイごとは微塵もない。泥くさくとも進めば必ずその成果はある。たかが100キロ、されど100キロ。志の実現に向けて、次の一歩を踏み出すのは、また自らのこの足である。

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中西 祐介

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参議院議員/徳島・高知選挙区/自民党

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