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起業支援者の目線で考える経営観〜東京大学協創プラットフォーム開発株式会社での経営実践研修活動報告Ⅱ〜

 本レポートでは、2024年5月20日から12月21日まで、約7ヶ月間にわたる東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(以下、東大IPC)での経営実践研修について、前回の研修活動報告に引き続き日々の業務を通じての学びと経営の要諦について自分なりに考えたことを記す。
 はじめに、台湾出張での経験と東大IPCの経営実践研修期間の後半4ヶ月で関わらせていただいていた起業支援プログラムの業務内容について簡単にまとめる。その後この4ヶ月での学びの総括として経営実践研修についての所感を述べ、研修の最終報告とさせていただく。

1. 東大IPCの研修内容について

台湾出張について
 7月16日から18日までの三日間、台湾出張に同行する機会を得た。内容は日本と台湾のインキュベーターが合同で行うスタートアップイベント[i]に参加すること、現地のベンチャーキャピタル(以下、VC)との面会であった。中でも印象的であったのは台湾の半導体メーカーTSMC[ii]の投資を始め多くのハイテク企業の育成を行ってきた工業技術研究院[iii]の取り組みであった。政府系の研究所にも関わらず積極的に外資の投資を受け入れることで大規模なファンドの運用を実現し、また培った研究力による技術への高い理解を通じ投資を行うことで大成功を収めている。政府系VC東大IPCの一員として、また政治家を目指すものとして、国家の基盤産業を生み出したこの行政事業の成果を謙虚に学ぶべきであると考えさせられた。

起業支援プログラム「1stRound」[iv]の業務について
 前回の経営実践研修活動報告にて、VCという業種と東大IPCの業務について説明した。東大IPCの事業の中でも私が携わることになった起業支援プログラム「1stRound」について改めて詳しく説明する。
 今回で第12回を迎えるこのプログラムは共催大学/研究機関である24の組織に関連する起業したいチームを募集し、約340通の応募から選考で選ばれた8チームへ最大1000万円の資金と様々な起業支援を提供する。完全ボランタリーベースで行われており、資金提供で株式の譲渡を必要としない。書類選考は1stRoundチームで行い、二次選考は東大IPCの有志のキャピタリストと外部顧問の方々が行う。最終選考は第三者のVCやコーポレートパートナーの方々が選考して最終チームを決定する。その後、選ばれた8チームに1人ずつ東大IPCの社員がメンターとして半年間起業支援を行っていくという流れである。
 私はこのプログラムに募集から選考、実際のプログラムイベントの運営まで一連の業務に携わらせていただいた。また並行してプログラムの運営資金を提供していただいている23社のコーポレートパートナーとのMTGにも同席させていただき、業種や企業の風土によってスタートアップに求めるものの違いを比べて知ることができる貴重な機会となった。不動産など安定した収益を上げている業種の会社は社会貢献としての退場からスタートアップの支援を行う一方で、メーカーなどの事業会社では自社製品との相乗効果を期待できる技術を探すためにこのプログラムに携わる。

2. 経営実践研修を終えての所感

 前回は投資という立場から、経営について考えたが今回は起業支援の立場から考える。1stRoundではまだ会社を設立していないチームの段階で選考を行う。その高い倍率を潜り抜けたチームは半年間で起業し、さらに投資を得て大きな会社へと成長していく。では選ばれるチーム、成長するチームは他のチームとなにが違うのだろうか。私はプログラムの募集から携わり、選考プロセスを見ていく中で、ビジョン、ポテンシャル、そして人としての魅力が評価されていると考えた。事業で成し得たい世界観に共感できること、これまでの経験から今後より成長を見込めること、支援したいこの人ならば応援したいと思える人格、それらが総合的にチームの評価として選考されている。
 私はこの起業支援プログラムは松下政経塾に似ていると考えている。まだ何者でもない若者を選考し、数年間で政治家や経営者など多くのリーダ−へと育て、卒塾生たちは社会に還元していく。私も政経塾生であり、政治家志望として日々研修に励んでいる。政経塾では国家ビジョンを考え、実践していく場所である。塾を出た後は、選ばれる人間にならなければならない。この研修の学びでいうのならば、人々に共感される国家ビジョンを描き、それを達成できる能力を認められ、そして応援したいと思っていただける人柄を身につけなければならない。来年からは実践課程として国家ビジョンの確立とその実践に向けた研修を自分で組み立て研修を行う年である。充実した研修にできるよう、素直な心と志を忘れないようにしたい[v]

3. 終わりに

 経営実践研修を通し日本ではまだまだスタートアップ支援環境の整備が不十分であるという課題をより認識するようになった。しかし、それとは対照的に大学系VCである東大IPCで政府主導によるイノベーション促進の可能性を知ることもできた。私は政治家という立場から、日本の科学技術を発展させ、社会に実装し還元するエコシステムを作りたいと考えている。しかし、政府系VCやインキュベーション施設の拡大をはじめ、国や自治体など多くの行政が起業支援活動を行われているが、その効果に否定的な意見も多い。
 通常業務があるにも関わらず、7ヶ月間という長期の受け入れを快諾していただいた東大IPCの皆様に改めて感謝申し上げます。

[i] Taiwanese entrepreneurs explore Tokyo’s startup ecosystem
https://thebridge.jp/en/2024/12/geix-visits-tokyo-2024
(参照 2024-12-19)

[ii]Tsmc
https://www.tsmc.com/japanese
(参照2024-12-19)

[iii]CRDS第102回「ITRI 台湾のイノベ支える」
https://www.jst.go.jp/crds/column/choryu/102.html
(参照2024-12-19)

[iv]1stRound HP
https://www.1stround.jp/
(参照2024-12-19)

[v]松下幸之助「素直な心になるために」p3 PHP文庫(1976年出版

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