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本レポートでは、5月20日から12月13日までの約7ヶ月間にわたる東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(以下、東大IPC)[i]での経営実践研修について、日々の業務を通じての学びを記す。
はじめに、東大IPCの説明と私が現在関わらせていただいている業務内容について簡単にまとめる。その後この2ヶ月間での学びの総括として経営実践研修についての所感を述べ、研修の中間報告とさせていただく。
ベンチャーキャピタルについて
まず東大IPCの説明をする前に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)[ii]について説明したい。VCとは、未上場のベンチャー企業に出資し、その対価として株式を所得する。将来的にその企業が株式の公開(IPO)やM&A[iii]を行なった際に株式を売却しその値上がり益の一部を報酬として得る投資ファンドである。
投資する側として、VCの社員であるキャピタリストは投資先のベンチャーに対しては株主の立場であるが、社外取締役として派遣されることがある。その場合、経営陣に対して監査の役割も担う。このように資金提供だけでなくIPOやM&AといったEXIT[iv]に向けて並走することが多い。
ベンチャ―の大きさによってラウンド[v]と呼ばれる投資の段階がある。アイデアのみの状態をエンジェルラウンド、ビジネスの大枠が決まり走り出した時期がシードと呼ばれる。プロダクトやサービスが完成し、ビジネスを始めた時期をシリーズAという(B、C、Dと続く)。VCはこのシリーズA以降の投資を行う。EXIT成功率の低いシリーズAは数億円規模、EXIT間近のシリーズC以降には数十億円の投資が集まる。
東大IPCについて
東大IPCは、産業競争力強化法[vi]における「特定研究成果活用支援事業」によって設立された国立大学法人東京大学の100%子会社のVCである。東京大学周辺のイノベーションエコシステムの拡大を目指し、投資、起業支援、人材育成を事業の三つの柱としている。その目的から、投資対象としては、東京大学をはじめとする国立大学、研究機関周辺のディープテックの社会実装を目指すベンチャー企業に対して投資投資を行っている。
起業支援プログラム『1stRound』について
三つの事業の中でもVC業界で異彩を放ち、東大IPCを特徴づける取り組みが起業支援プログラム『1stRound』[vii]である。このプログラムでは国内の大学や研究機関及び東大IPCが共催し、毎年2回各約8件、外部資金をまだ調達していない設立3年以内のベンチャーに資金調達の環境を提供するものである。採択された企業は最大1000万円の資金提供を受けることができるが、株式の譲渡を必要としない。さらに採択後、半年間オフィスなどの環境支援やキャピタリストと専門家による支援を受けることができる。
私は、東大IPCのパートナーであるキャピタリストの方に同行し、日々の取締役会や投資事業について学びつつ、6月29日に最終審査を行なった第11回『1stRound』の運営に参加させていただいた。
取締役から見た経営
起業をしたことない私には取締役会に参加するなどこれまでの人生で一度もない。ましてや社会人経験が浅い私にはどのような議論が行われているのか皆目検討がつかない。しかし、数多くの様々な業界の投資先案件を抱えるキャピタリストにとって取締役会は毎日の日常である。さっきまでAIの話をしていたら、午後にはエネルギー、次の日にはトマトの栽培の話といった具合である。VCにとって経営に対して肝心なことはキャッシュである。私にはベンチャーはキャッシュがなくなれば終わりの綱渡りゲームのように見えた。政治家などという突飛な志をもつ自分が言うのもなんだが、赤字続きの中CEOのメンタルがよく耐えられるなと感じることもあった。
VCが気にするのはプロダクトが本当に完成できるのかという技術的な面、そのビジネスは儲かるのかというビジネスの面である。しかし、大きく投資を募りシリーズを上げ、EXITまで結びつけるのはそれだけでは足りない。大きな会社としてのストーリー、ビジョンを示し社会から大きな共感を得なければいけないのである。
これは政治家にも通ずる。基礎自治体や小選挙区で勝ち政治家になり、実績を重ね社会に認知されていく。その時、描いた国家観が大きな共感を得てこそ宰相の座につけるのである。
自分は国家ビジョンを描く政治家志望である。ベンチャーで言えばエンジェルラウンドにあたる。目の前の方々に国家ビジョンなど聞いてもらえるわけもなく、求められるものは政治家としてなにができるのか、何をしてくれるのかである。大きなビジョンを社会に伝えられるよう今私にできることは目の前のやるべきことをこなし信頼を培っていき仲間を増やしていくことだけである。
VCという新しい目線で経営感を考えてきた。普通では経験できないとても貴重な経験をさせていただいた。
経営実習の前半は投資事業の分野を見てきたが、後半では起業支援を行う。『1stRound』の事業に携わらせていただく。アイデアをビジネスに繋いでいく支援を行うことで、また新しい経営感を学べることを楽しみしている。
[i] 東大IPC HP
(https://www.utokyo-ipc.co.jp/)
アクセス日2024年7月14日
[ii]後藤直樹,フィル・ウィックハム共著 “ ベンチャー・キャピタリスト 世界を動かす最強の「キングメーカー」たち ”出版社PUBLISHING 2022年p.4
[ⅲ]東大IPC「スタートアップM&Aのポイント、課題と対策」
(https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/startup-ma/)
アクセス日2024年8月26日
[ⅳ]東大IPC「イグジットとは?意味や種類、動向を解説」
(https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/exit/)
アクセス日2024年8月26日
[ⅴ]東大IPC「投資ラウンドとは?スタートアップが知っておくべき資金調達と注意点」
(https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/investment-round/)
アクセス日2024年7月14日
[vi]経済産業省「産業競争力強化」
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/index.html)
アクセス日2024年7月14日
[vii]1stRound HP
(https://www.1stround.jp/)
アクセス日2024年7月14日
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Masato Okeya
第44期生
おけや・まさと
Mission
先端科学技術の社会実装が促進される社会の構築と実現