活動報告

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~人が人を呼ぶあわえの取り組み~

 2023年9月11日~12月15日の約三ヵ月に渡り、徳島県美波町にある「株式会社あわえ」にて、経営実践研修を実施した。徳島県は地方創生が活発な県である。葉っぱビジネスの上勝町、サテライトオフィス誘致の走りである神山町等、地方創生界隈で名前を聞く自治体が複数存在する。その中でも美波町は2023年12月時点においてサテライトオフィス誘致数が28社に上る。決して交通アクセスがいいとは言えない町になぜこんなにも多くのサテライトオフィスが集まるのか?進出企業の考えは?受け入れる自治体の悩みは?あわえはどう動くのか?地方においてチャレンジの総量を増やす取り組みを知るべく、様々な興味が湧いた。

美波町について

 美波町は旧日和佐町と旧由岐町が合併した町で、徳島市から車で約1時間30分ほど南の位置にあり、人口5,917人(2023年12月現在)で主要産業は漁業。お遍路23番札所の「薬王寺」は徳島県最後の札所であり、厄除けの寺として年間を通して参拝客が絶えない。また町の東側の室戸阿南海岸国定公園である大浜海岸には、アオウミガメが産卵に上陸する地としても有名であり、2009年のNHKの連続テレビ小説「ウェルかめ」のモデルとなった地である。(2023年は上陸が初めて0の年であった。)約6,000人の人口規模に対して観光客が年間約80万人訪れる。にぎやかな過疎の町で「にぎやかそ」をキャッチコピーに掲げ、祭りやイベントの多い町であるものの、南海トラフ地震とそれに伴う津波のリスクを抱えている。

あわえについて

 株式会社あわえ(以後あわえと表記)は2013年6月に徳島県美波町において株式会社サイファーテックの吉田基晴社長が設立した。メインの事業は➀サテライトオフィス(以後SOと表記)誘致➁デュアルスクール(以後DSと表記)の二つである。現在美波本社の他、東京、福岡県八女市・古賀市、新潟県小千谷市、宮城県加美町、神奈川県真鶴町、北海道安平町にオフィスを有し、現在約30名の社員を抱える地方創生支援企業である。2023年までに美波町にサテライトオフィス誘致を28社実施し、全国のあわえが支援した自治体数は297に上る。吉田代表の取り組みは「本社は田舎に限る」の書籍にまとめられ、その内容は2020年に映画「波乗りオフィスへようこそ」のモデルとなった。

あわえでの活動

 まず筆者は各部署の事業説明を聞き、あわえを知るところから始まった。あわえは大きく分けて3つの部隊がいる。美波町、古賀市、小千谷市、真鶴町、安平町、加美町の各拠点において活動するコミュニティーマネージャー(以後CMと表記)、美波町での取り組みから生まれたあわえの商材を全国の地方自治体に売り込む地方創生推進部のローカルインテグレーター(以後LIと表記)、地域課題を抱える自治体と課題解決策を持つ企業の大規模なマッチングイベントを行う地域tech事業部のメンバーである。筆者は9月~11月上旬まで徳島県美波町にて過ごし、11月中旬以降は青森県三戸町・石川県穴水町へLIのヒアリングに帯同と、宮城県加美町・福岡県古賀市・新潟県小千谷市のCM拠点訪問となり、最後の数日を再度美波町で過ごすと事となった。

 本社のある美波町では、インターンの受け入れや視察が多いことが分かる。筆者があわえに伺った時点で既に2名の学生インターンがいた。また毎週のように視察が来ており、新潟県小千谷市や宮城県町村会、兵庫県副町長協議会と全国各地から美波町へ招いている。あわえ視察に伴う宿泊や飲食だけでも美波町への経済効果を生んでいる。

 美波町での事業の他、県南部1市4町(阿南市、那賀町、美波町、牟岐町、海陽町)の圏域でのSO誘致支援を行う。ここでは主にSO誘致コンシェルジュと共に企業ヒアリングや企業×自治体とのミーティング、進出SO企業との情報共有などに帯同した。企業側の声として、情報の共有が早い担当者がいる自治体や連絡が細やかな自治体が選ばれていることが分かる。進出企業も自治体職員の動きをよく見ており、担当者の差が誘致の差になっていることが如実であった。

 10月7日~8日には美波町最大のイベントである、日和佐八幡神社の秋季例大祭(ちょうさ)に二日間参加し、地域の人と共に汗をかく経験をした。このちょうさの祭にはSO企業の関係者も多数参加し、外部から祭りに参加する人も多く、よそ者も参加しやすい雰囲気が作られていた。地域の方々から「また来年も一緒にやりたい」とのお声を多数かけて頂いた。閉鎖的な祭りが多い中で、今後こう言った伝統文化を守るヒントを得た気がしてならない。参加した以後、美波町の方々との話のネタが格段に増えるのである。

 美波町に外から祭に参加したり、SO誘致が28社に上るのはまさに人が人を呼んだりしている効果があると言える。こうした信頼関係人口の構築は全国の自治体にとって今後鍵になるかもしれない。ちょうさの祭りの翌週、筆者が住んでいた田井地区のお祭りがあり、そちらにも参加して地域の方々との交流を図ることが出来た。田井地区には地元の浜口和弘さんと舛田邦人さん(クニさん)がおり、週に何度か集会所での宴席に呼んでいただいた。そこにはこれまで沢山の美波町訪問者が集ってきた場所で、SO企業関係者も来町時には必ずこの田井地区の集会所に足を運ぶのである。お遍路のお接待文化が根付くこの地域ならではの温かみがそこにあった。SOとして進出しても地域の人とのつながりがあり、孤独を感じることなく町で過ごせるのである。全国の市町村には浜口さんやクニさんのような、迎え入れてくれるキーパーソンは必ずいるのではないか。そうした人たちを認識したり掘り起こしたりする組みも今後必要になるだろう。

 青森県三戸町、石川県穴水町へのLIとの訪問は興味深い対比があった。前のめりになる自治体と一歩を恐れる自治体の対比が顕著だったからである。上手く誘致ができるか?視察対応が上手くできるか?質問に答えられるか?企業の期待にこたえられるか?こんなもんなのと思われないか?といった不安は筆者が想像するより大きなものを自治体職員は抱えていることが分かった。課題がある自治体の弱みは問題解決企業を呼び込む「強み」であると認識してもらいヒアリングの空気をどう解きほぐしていくかがLIの腕の見せ所であることが良く分かった。更に地方活性化ができるかどうかは、自治体職員のマインドによって大きく左右されるのではないかと考える。自治体によっては伴走が求められているのか、翻訳が求められているのか、しっかり見極める必要があろう。筆者がこれまで持っていない行政目線、とりわけ挑戦的な自治体の目線の研修を次年度には組みたいと思い至った。

むすびに

 全国に896あるとされる消滅可能性都市、2024年になった今改めて数えるとおそらく1000近くに上るのではないだろうか。全国的な人口減少はなかなか止めようがない。だが今いる我々のチャレンジの総量を増やす取り組みは絶対に必要な事だ。地域においてそうしたプレイヤーを増やし、人と人を繋ぐ役目を果たすあわえの取り組みは地方に生きる一人として心強いものがある。私もあわえの応援者の一員として今後も深い関わりを続けていきたい。

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