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米国連邦議会フェローを終えて:米国外交が軸とする価値と現実
―ワシントンDC実践活動報告④―

 多様性を原動力とした国家全体の利益を考えた国家経営を研究するため、ワシントンDCに赴任し、米国連邦議会フェローとして研修を1年間実施した。米国政治を理解するために、議会という政治の現場で実践活動に取り組んだ。本稿では下院外交委員会フェローとして活動した筆者が、外交政策形成の最前線において諸外国からの米国の位置づけ、米国から見る世界、米国外交政策が重視する価値観を示す。

民主主義の最後の砦としてのアメリカ

 世界には未だに宗教や信条、言論などを迫害し、差別を容認している国が数多く存在する。そのような国では、政府から弾圧により投獄され、中には終身刑や死刑判決を受ける人も少なくない。一人または少数の権力者によって統治されている国家において、弾圧や迫害され ている人が国内で訴えることは非常に困難であり、人道に対する犯罪に関わる個人の訴追や処罰を行うことができる国際刑事裁判所において司法に訴えようとしても、米国、ロシア、中国、インドなどの主要国は非加盟であるため、国際的な影響力への懸念や非加盟国に関連する事案については加害者を裁くことも難しい現実がある。したがって、迫害や弾圧を受けた人々や支援する組織や団体は、国際社会に影響力を持つ米国で陳情活動を行い、一日も早い、差別や迫害からの解放に向けて活動している。
 米国議会では人権委員会が80年代から存在する人権議員連盟から格上げされる形で2008年に設立されている。人権委員会は、世界人権宣言の下で国際的な人権課題を啓発し、理解を深めることを目的としている。人権委員会の議員らは迫害や差別の個別ケースを鑑みて、支援のための声明を出したり、国連機関や人権NGOらと啓発活動を行うことで、迫害や差別された人々の国際的な立場を高める一助となっている。さらに連邦政府としても積極的に活動しており、国務省はUSCIRF(米国国際宗教自由委員会)を設置し、信条によって人権を侵害された人々の国際的な支援を行い、レポートの発行やイベントを通して啓発活動を実施している。
 なぜこんなにも他国の人権問題に関与するのだろうか。それは、「人権」に焦点をあて、グローバルに人権の保障に関する合意形成を行うことこそが民主主義の根幹であると考えているからだ。1948年に国連総会で採択された世界人権宣言には、エレノア・ルーズベルト大統領夫人を中心とした米国がイニシアチブを取り、マイノリティの権利を守る起草を行った歴史にも人権を重視する米国の姿が表れていると言える。世界人権宣言は最も翻訳された文章のみならず、基本的人権の尊重など日本国憲法とも多くの共通点がある。今年は世界人権宣言の採択から75周年を迎え、米国では首都ワシントンに、国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏が連邦議会を訪れて連邦議員らと意見交換を実施するなど、米国、そしてワシントンの政治の意思決定者を国際機関も重要視していることがわかる。
 米国は国際社会に向け、人権や民主主義といった価値観を重要視した外交を展開する。世界人権宣言の起草者としての責任と国際社会への影響力の強さは計り知れない。そのため、国際刑事裁判所の法廷で争う機会すら失った人々やその支援者らにとって、米国は差別や弾圧、そして迫害と戦うための最後の希望になっているのであろう。

米国の外交政策が形成されるとき-
What the US can make a difference

 米国外交政策の形成過程において、立法活動を行う連邦議員が動くタイミングは「米国が外国の対象国においてその国家や社会をより良い方向に影響を与えることができる時」であると考える。実際に筆者がいろんな会議に参加する中で“make a difference”というフレーズを議員らの発言からよく耳にしていた。これが意味することは「米国はどんな価値ある変化が起こせるか」である。外交であれば米国の関与によって他国への価値ある変化が起こせるため、議員らがその効果や影響を精査し法案の賛否、あるいは政策形成に関与している印象を受けた。米国外交の視座がここに垣間見えるのと同時に、米国外交のダイナミズムを体感することとなった。
 議員らの行動は、対象国への制裁にもなれば援助にもなり、非難決議、声明にもなる。米国議会は宣戦布告する権限も擁する。この影響力は時に他の国家や国際機関よりも絶大なものであり、連邦議員らの行動の裏には米国内政や選挙区の関心事が動機となることも多い。というのも、選挙区の移民グループらが彼らの出身国に対して制裁やボイコットを求めたりすることがあるからだ。つまり、有権者の関心事が外交政策に直結することも移民大国である米国ならではの側面であろう。
 議会内のバランスも外交政策に大きく影響することを忘れてはならない。外交に関する公聴会では議員らが国際的イシューに関する政策形成をする上で大切な議論をする場となる。しかし、上下院でねじれ議会が生じている2023年現在、内政案件で重要法案の投票時間が割かれることも多く、外交案件の議論の時間が短縮されたり、中止や延期になることもある。筆者は議会内の与野党のパワーバランスの状況から準備していた公聴会の議会投票が延期になることに直面しなすすべもなく無力感を感じることがあった。一方で、外交政策は国際政治をも動かす影響力があることを考慮すると、議会運営に左右されながらも、米国が地域の民主主義の定着や安定のために議会で議論の場を設けたり関心を高める仕事に従事することは、委員会任務の責務であり、議会スタッフとしてのやりがいを感じた
 外交政策は、米国の関与による価値ある変化や国内世論という関心、そして議会内のパワーバランスという様々な要素が上手くかみ合わないと形成されないのである。いくら米国以外の世界が注目して米国の関与を求めていても、この要素の歯車が狂えば米国の関心は高まらず、外交形成も鈍化してしまうのである。
 国際政治への影響力の大きさ、そして米国の外交政策の意思決定に携わる連邦議員らのすぐ傍で、彼らの発言や考え方から米国からの見方を学ぶことができた。日々の業務を通して吸収した経験は、何事にも代えがたいもので、筆者を受け入れてくださった周囲の方々に感謝を申し上げたい。日本の政治とは異なる政治の世界が連邦議会にはあると確信している。日米同盟の発展、さらには日本が国際社会の平和と安定にどのように寄与していくのか、そのロードマップを策定し実践者となる上で不可欠な経験をしたと思う。この経験を今後は日本や国際社会の発展に向けて還元していきたい。

(米国下院議員会館にてジェームズ・マクガヴァン下院議員と:2023年7月28日撮影)

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