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多様性を原動力とした国家全体の利益を考えた国家経営を研究するため、ワシントンDCに赴任し、米国連邦議会フェローとして研修をしている。米国政治を理解するために、議会という政治の現場で実践活動に取り組んでいる。本稿では委員会主義と言われる米国政治の中でも議会委員会スタッフの視点から連邦議会の委員会の位置づけとそれが意味する米国政治の読み方について考える。
下院では2年毎の選挙により委員会メンバーは新任される。直近では2022年11月に中間選挙を受けて2023年1月より選出された議員らによって議会が開会された。下院では下院議長(Speaker of the United States House of Representatives)が決まってから、議長のイニシアティブで委員会の委員長選出、そして投票で委員会メンバーが決定される。投票までに党ごとに委員会の割り振りを選定するパネルが存在し、党内決定を要する。
委員会の種類は多々あるが主なものは常任委員会で外交や通商、予算、教育、軍事など各分野に分かれており、上院で24、下院では20存在している。各委員会の下では小委員会が存在し特定の分野で細かく討論される。下院外交委員会であれば、アジア太平洋、中東北アフリカ、国際開発や国際機関など多くの小委員会が存在している。
議員にとって委員会活動は自身のキャリア並びにパフォーマンスに直結するため非常に重要な仕事の1つである。各議員のウェブサイトの活動ページには委員会活動を必ず掲げており、委員会での活動が議会での活動と評価する有権者も少なくない。議員は弁護士、軍人、教師、外交官、アジア系、ヒスパニック系、イスラム教など職種や人種、宗教など多様なバックグラウンドを持つ中で、議会において自身の経験や所属が一番生かせる領域を分析しながら活躍し国家に貢献することのできる委員会を検討する。同時に議員が掲げるビジョンに向けてどのような政治キャリアを描いていくかをイメージすることも必須である。このような議員自身のマーケティングに加えて、選挙区事情も委員会選定における大きな要因となる。例えば選挙区や州に大きなアフリカ系移民が多い地域で、祖国の政情が不安定になった場合はその地域の住民や市民団体、関連企業らは選出された政治家に復興支援などを要請することもある。このケースは一例に過ぎないが、選挙区民の声や困りごとは何よりも重要でありその声を立法や政策形成に盛り込むために議員は選挙区民の声を反映しやすい委員会を希望することも多い。したがって、議員の経験値や選挙区事情は委員会所属を左右する要因となる。
委員会は議員事情で決まるものではなく、全体のバランスを持って決定されていく。なかでも注目すべきは連邦議会の秩序は年功序列(Seniority)であることだ。
基本的に委員会の委員長は(当選回数の多い順の)年功序列で選任されている。与党側のリーダーが委員会議長(Chair)となり、公聴会や委員会メンバーを仕切る役となる。野党側リーダーはランキングメンバー(Ranking Member)と呼ばれ、公聴会などでは議長とは違う角度から議論を展開する役目や野党側メンバーを束ねる役目を担う。公聴会とは連邦議会において政策形成の場であり、特定のトピックや分野に関する情報収集や公に強調するために実施されている。委員会の中でも特に予算、軍事、通商やインフラに関する各委員会は当選したばかりの議員らにはなかなか回ってこない席であるという。というのも選挙資金獲得につながるステークホルダーがロビー団体に多くいることが一因とされる。米国政治に年功序列が未だに存在する大きな理由の一つに年功序列が一部の議員に支持されていることが挙げられる。なぜなら年功序列制度は、縁故や世襲とは異なり、委員長を選出する超党派の方法と見なされているからである。
選挙ごとに議員の入れ替えも発生するため、空席が発生する委員会や異動を考えて委員会所属を決める必要がある。これまでの立法活動や議員個人のキャリアを鑑みて年功序列の中で考慮されていく。
党レベルで所属委員会が決定していても委員会への正式選任がされないケースもある。特に、議員が野党に所属している場合はなおさら確約されないのである。その理由として下院議長がそのリーダーシップの下で与党を動員して野党議員の特定の委員会への選任を否決することもできることにある。実際に2023年には外交委員会やインテリジェンス委員会では下院の与党である共和党が特定議員の委員会メンバーへの選任を否決した。このように所属委員会を決定するまでに、個々のキャリアや選挙区の状況以外にも議会内の権力構造とパワーバランスも影響する。
各委員会の選任プロセスを鑑みる上で、多くの要因が存在することが理解できるだろう。本稿には示していないが議員同士のパワーバランスも大きく影響することが予想できる。
他方でその委員会の運営に関わる議会委員会スタッフは公聴会やその後の審議に関わる仕事がメインとなり、証人の選定から招致に関するロジスティクスや公聴会での質問の準備を行う。そのため委員会全体の動きや公聴会をリードする与党側の議長やランキングメンバーと呼ばれる野党側リーダーの下で議会委員会スタッフは活動することになる。各議員にそれぞれ議員事務所スタッフもいるが、議員事務所スタッフは各議員の関心に沿いながら住民の困りごとから幅広い分野の立法対応を行うためジェネラリストが多いのと対象的に、委員会スタッフは所属委員会の分野に特化したスペシャリストが多い傾向にある。
委員会活動の1つである公聴会をとってみても、その裏側にある世論の関心や選挙区事情、議員が存在感を発揮できる専門性や選挙区ニーズとの兼ね合い、議会内の権力構造が絶妙なバランスで絡み合いながら、米国の政策が形成されている政治活動である。米国連邦議員が、それぞれ委員会に所属し、活動をするスタート地点に立つまでも、多くの政治的駆け引きが存在し、そこには米国内政と議員のビジョン、そして議会内の政治力学が見え隠れするのである。
(上:米国下院外交委員会事務室にて2023年7月10日撮影、
下:同上2023年7月25日撮影、同僚と・筆者は右端)
Roger H. Davidson, Walter J. Oleszek, Frances E. Lee, Eric Schickler (2019) Congress and Its Members, 17th edition, SAGE Publications
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Yuka Hinohara
第42期
ひのはら・ゆか
Mission
多様性や包摂性を尊重した共生社会の実現