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地域の志、継承するのは私たちの世代

地域の志、継承するのは私たちの世代 地域の志、継承するのは私たちの世代

あらゆる分野において、日々、世代交代や技術の継承が行われている。地域で志ある方の活動はどのようにして引き継がれるべきか。実践活動を通じて感じた切実な課題と、それに対する私の想いを記したい。
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人口50万人弱、東京に隣接する千葉県・市川市は都内への通勤率が高い典型的なベッドタウンだ。市民は大きく分けると二層構造になっている。昔ながらの住民と、通勤のために流出入を繰り返す新住民。新しい住民の多くは、都内へのアクセスが良いこと、娯楽や買い物にほとんど不便することがないこと、治安も良く、都心と比べれば土地や家賃が少し下がるなどといった環境や条件もあり、市内で生活することを決める人が多い。
 
古くから市内で暮らす高木彬夫さんに出会ったのは2年前の冬であった。高木さんがNPO法人まちづくり家づくりcaféを起ち上げたのは、今から約10年前のこと。景観法が施行され、建築家として活躍する高木さんは、市川市から景観条例策定委員の依頼を受けた。それが高木さんにとって、市民として街づくりへの行動を起こす発火点になった。
 
当時について、高木さんが私に想いを伝えてくださった。「景観条例は、規制によって街の景観を守ろうという性質のもの。それはそれで大切なこと。でも、私がその時に必要だと痛感したことは、規制を決めるだけではなくて、日常生活を市内で営む一般的な市民が自由に参加できるまちづくりでした。自分が憧れるまちを創りたいという人もいれば、個人的な思い出が詰まった近所の大切な景色を残していきたいと感じている人もたくさんいる。古くから市民が大切にしてきた歴史や伝統が詰まった風景も、誰かが継承しないといけないのではないか。そのためには、市民それぞれに街への想いを持ってもらい、意識してもらい続けること。大切なのは、住民の私たちがどのような街にしたいのか、という意志を持つことです。住民の方にこういうことを意識してもらい、まちづくりに参加してもらおうと思ったら、制約のある行政では、できることに限界がある。それならば個人で取り組んでいったほうが、自由な発想を活かしながら継続してできることが沢山ある。そう考えてNPOを創りました。」
 
奮闘すること約10年。少しずつ会員の数も増え、定期的に開催する街歩きイベントには多くの市民が集まるようになった。市民が街を歩きながら、クロマツをはじめ、市川市の歴史や文化を象徴する建物や景観を眺めては意見や感想を交換する。街歩きをした有志で、市川市内の魅力を記したガイドマップも作成した。私も活動に参加するようになってから、市内のイベント会場などでガイドマップを配布してみると、市川市に引っ越してきた新住民の方々が興味を持って次々に受け取っていく。そのガイドマップには、高木さんをはじめとする古くからの市民と新しい市民、双方の価値観と個性が融合するかたちで「ここが市川の良いところ」という意志が詰まっている。
 
とはいえ、こうした活動も、ひとつの分岐点に差し掛かっている。高木さんには心配していることがある。「こういう想い、活動を継承することも大切な仕事だと感じることが増えた」と言うのである。活動当初は、同志のメンバーも、想いひとつで元気にやってきた。けれども、寄る年波には勝てない。体力や健康上の理由で、思うほど活動できなくなくなってきているのだという。私自身も、高木さんのNPOをはじめ、他の市内の有志団体が出展する地域の環境イベントに参加する機会があった。そこで感じたのは、メンバーの方々の高齢化であった。一つひとつのブースを眺めていると、高木さん同様に、想いひとつで活動をされてきた有志の方々の歴史と奮闘が垣間見えてくる。ただ、各ブースを眺めてみた時、若い世代の参加が極端に少ないことを感じた。古くからの住民の方々の想いによって、新しく市川市で暮らす世代へのアプローチまでは広がりを見せ始めている。しかし、本当の課題は、こうした志を継承して主体的に取り組む人材をどうするのか、という点にある。雇用が流動化し、共働き世代が増えている今、忙しい若い世代に無理矢理にお願いするわけにもいかない。彼らは彼らで、押し寄せる時代の波と奮闘しているのである。
 
私は、そのような今だからこそ、こうした地域の志を引き継いでいきたいと思うのである。今年度のまちづくりcaféの活動では、市内のまち歩きイベントをはじめ、市立図書館でのまちの風景写真の展示会、環境フェアにおける街づくりへの市民参加を呼び掛ける広報活動に取り組んできた。今後は、これらに加えて、まちづくりに関する市民向けのセミナーを市内にて定期開催する予定だ。私は、この活動で汗をかきながら大いに学びながらも、わが街、市川の個性と、住民が本当に望む街の姿を現実にしていきたいと思っている。
 
地域の志を継承するのは誰なのか。それは私だ、という気概を私自身が持つと同時に、同じ想いを持ってくれる人を一人でも多く募っていくため、今後も継続して日々、奮闘してきたい。

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土屋正順の活動報告

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Seijun Tsuchiya

土屋正順

第36期

土屋 正順

つちや・せいじゅん

千葉県市川市議/無所属

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