論考

Thesis

これからの社会変革モデル コロナウイルスの流行を通じて

2020年6月下旬時点、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界的に人々の活動を抑制する取り組みが行われています。私自身も不要不急の外出自粛の中で、研修計画の見直しを進めつつ、世界及び日本の現状と将来に関する調査を行いながら、これまでの研修について検証してみました。

これまで、「外国人労働者の受け入れ政策」「新技術活用を実現するための規制緩和政策」「健康長寿社会実現のための自治体経営」といったテーマを研究・研修してきました。これらのテーマを個々に見つめると、それぞれがまったく異なる分野のもので、一貫性がないと捉えられるかもしれません。しかし、松下政経塾で3年4か月研修してきた結果、これらのテーマには、共通した理念があると思うに至りました。それぞれのテーマが、現段階での方針決定によって、30年から50年後の日本社会を大きく変化させるという一点だけが共通しているだけではありません。

 20世紀の近代化で、世界的に見ても重工業化で急激な成長を成し遂げた愛知県は、21世紀には、産業構造の変化だけでなく、今後、とりわけ少子高齢化とグローバル化という内外の変化に直面します。それらの変化への対応は、どのような理想社会を目指し、政治経営を推し進めていくかという問題と直結しています。理想社会を目指す政治経営に、上述した研究・研修テーマは、横断的に関連します。愛知県は、産業の成長によって得られた莫大な利益を、政治と市場が行政・企業・個人に分配し、それぞれの抱える課題を経済力で解決してきました。それは、常に成長拡大し続ける産業による社会の発展を前提としていました。そのような社会の発展は、多くにとって望ましいことでした。

 しかしながら、今回の新型コロナウイルスの流行によって、これまで続いてきた労働モデル、生活モデルは大きく変化しました。不要不急の外出自粛に伴い、在宅労働が推奨され、会議やミーティング、諸業務が在宅で行われました。愛知県の多くの工場では、稼働が縮小されました。これまでは、政府が前々から打ち出してきていた働き方改革等は社会に浸透するに至りませんでした。しかし、今回の政府の自粛要請は、コロナウイルスの影響で、まさに急転直下の結末になったといえます。

 社会全体の理念が産業成長による経済拡大型の社会の実現だと、産業振興が優先され、さらに具体的に言えば、自身(企業)の雇用(経営)の安定と収入(業績)の増加以外は注目されないということになるのです。つまり、行政・企業・個人は、市場による製品・サービスの革新による変化が漸進的に浸透しても、全体としては保守性を維持し続ける傾向が強いと思います。そもそも、現状の社会モデルに満足している限り、政治的要請が生まれにくくなり、まず何よりも経済性を重視するのは、当然の帰結であるといえます。

 しかし、その社会モデルに拘泥して、経済拡大の為に「外国人労働者の受け入れ」に関して、企業視点で舵を切ることに大きな問題意識を抱きました。外国人労働者は個人であり、基本的人権の尊重を憲法の三大原則の一つとしている我が国においては、私たち日本国民、愛知県民と同等にかれらの権利を保障し、社会を共に生きていく共同体の構成員として受け入れる準備が必要です。すでにご承知の通り、世界において外国人の受け入れに関して大きな社会問題が生じています。その根底にあるのは、宗教や人種・言語・文化等の差異による差別であり、それらを克服するような政治モデルは確立されていません。

 労働市場の課題を外国人労働者受け入れの手法によって解決できれば、企業や株主、そしてサービスを受ける私たちや外国人労働者自身も、市場を介して利益を共有できます。しかし、その外国人労働者を社会の中でどのように受け入れるのか、これは市場では解決できません。したがって議会によって政治的合意に基づく方針が決定され、行政が履行することによって解決するしかないのです。それが政治の役割であり、機能です。

 新技術活用も同じす。新技術活用によって、市場を介して多くの人がメリットを享受できますが、そのデメリットの解消やリスクへの対処は、政治と行政が担わなくてはなりません。

 健康長寿社会においては少し複雑です。労働市場で、定年制度が規定されているため、高齢者の雇用モデルは限定的です。定年制度は明治時代に始まったのですが、その当時の男性の平均寿命は43歳前後でした。昨年の男性の平均寿命は約81歳で、大きな違いがあります。その結果、定年が引き上げられましたが、社会には多くのリタイアした高齢者がいます。市場からはじき出された高齢者は、自宅を中心とした地域社会での生活が用意されていますが、いわゆる快適な老後生活の中身は漠然としています。平均寿命が延びた結果、高齢者の社会における役割、モデルが曖昧化したという問題です。特に驚いたことは、不要不急の外出が解禁されたのち、最寄駅を利用した時、その駅はショッピングモールと一体化した駅でしたが、改札への途中にゲームセンターが、ソーシャルディスタンスの維持に努めながらも、高齢者でほぼ満員だったことです。ここで言いたいことは、決して朝の9時から、コロナ感染のリスクがある中でゲームを楽しむことを否定したいということではありません。長寿化という変化に社会がどのように適応していくべきか、理念や方針を、市民が政治的決定を行う必要があるということです。これも市場では解決できないからです。

 新型コロナウイルスの影響で、「政治が求められた」といえます。政治家のリーダーシップ、意思決定が問われ、首相や知事、市長の決断が社会的に大きな注目を集めたといえます。私は、この新型コロナウイルスによって急激な変化を余儀なくされた日本社会に、ビジョンを打ち出し、社会に問うて、社会変革を実行する決意を新たにいたしました。そのために現在株式会社mobility careerにおいてインターン研修を6月15日より行っています。愛知県内の女性雇用支援と特定技能を有する外国人労働者の受け入れを主な業務としています。この業務では、経営者視点に立って、現在の愛知県の政治的空白を埋め、かつ理念の探求を行ってまいります。

 政治家として政治が役割を十分に機能発揮できるようにするという志を貫徹すべく、研修してまいります。

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澤田拓人の論考

Thesis

Takuto Sawada

澤田拓人

第38期

澤田 拓人

さわだ・たくと

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健康長寿に根差した自治体経営の探究

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