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日本は今、急速な少子高齢化の進行に伴い、あらゆる産業で「労働供給制約社会」に直面している。実際、介護・福祉、建設、農業、運輸など多くの分野で深刻な人手不足が表面化しており、なかでも介護分野では厚生労働省の推計で将来数十万人規模の人材不足が見込まれている。しかし、これらの数字は、現在の介護計画を前提に機械的にはじき出されたものであり、他産業とのバランスを十分に考慮していない。
例えばもし福祉教育の拡充によって介護分野により多くの人材を投入するならば、その分だけ農業や建設業といった他の基幹産業で人手不足がさらに深刻化するかもしれない。本来、人手不足という課題は分野横断的に再配分を考えるべき主題なのだ。しかし現状、そのグランドビジョンは十分に示されていないのではないか。
私は、日本が再び持続的な成長を実現するためには、人的資源の再配分を軸にした国家戦略こそが必要であると考えている。その志を実現するためには、現場で何が起きているのかを自分自身の目で確かめることが不可欠である。人手不足に直面し、かつ多様なニーズが交錯する福祉の現場こそ、そこで学ぶべき知見が凝縮されているだろうと考えた。そこから、私は社会福祉法人での研修を志し、このたびご縁をいただき、社会福祉法人ユーアイ村[1]にて実習の機会を頂戴することとなった。現場での学びを通じて、人材不足という国家的課題に対し、より実効的な政策提言を行う礎を築いていきたいと考えたのである。
私はこの半年間で、現場の中で多様な経験を積ませていただいた。10部屋を1つのチームでケアするユニットでは食事介助を担当し、一人ひとりの咀嚼の癖や食事ペースに寄り添う難しさを実感した。また、夏場のデイサービスでは入浴介助にも携わり、暑さの中での安全確保や感染対策、利用者の体調変化への注意など、多くのイレギュラーに直面した。これらの経験を通じて得られた身体感覚や対人援助の知識は、どれも現場でしか得られない貴重な財産である。特に、利用者の表情や動きのわずかな変化を読む力は、マニュアルでは身につかない重要な技能だと痛感している。
しかし本稿では、こうした実践的な経験を踏まえつつ、あえて「介護の生産性向上」という視点に焦点を絞って考察を進めたい。単なる効率化ではなく、限られた人員でより質の高いケアを提供するために、どのような仕組みや環境整備が必要なのか。これは現場で働く職員だけでなく、制度をつくる側にも共通する課題であり、介護現場の持続可能性に直結する論点である。特に、タスクの明確化やICTの導入、チーム内の情報共有の仕組み化などは、日々の経験を重ねるほど必要性を痛感するテーマである。
介護分野の慢性的な人手不足に対し、厚生労働省は複数の対策を提示している。代表的なものとして、処遇改善加算による賃金引き上げ、外国人材の受け入れ拡大、介護ロボット・ICTの導入支援、人材定着のための働き方改革などが挙げられる。特に近年は、業務の見える化や記録の電子化を推進し、介護職員が「介護の本質的業務」に集中できる環境整備を重視している。また、キャリアパスの整備や研修制度の充実による専門性向上も、質の高いケアと人材確保の両立を図る重要な施策として位置づけられている。こうした国の方針を踏まえつつ、現場レベルでどのように生産性を高めていくかが、今後の介護現場の大きな課題である。
私はまず、ユーアイ村の中で「ケアプランデータ連携システム」の導入に着手した。従来は紙ベースや各社独自のソフトで情報が分断され、ケアマネジャー・訪問介護・通所サービス間の連絡に時間がかかっていた。そこで、業務の標準化と情報共有の効率化を図るため、このシステムの運用を現場に定着させることを最初の課題と位置づけた。
「ケアプランデータ連携システム」とは、ケアプランやサービス提供票などの情報をクラウド上で共有し、異なる事業所間のデータ連携を自動化する仕組みである。これにより、FAXや電話での確認作業が減り、ミスの防止や業務時間の短縮につながる。介護保険サービスの中で頻繁にやり取りされる計画情報が一元化されることで、現場職員がケアそのものにかけられる時間を増やすことが期待される。
もともと介護事業というものは、単独の事業所で完結する性質のものではない。システムを利用する際には、データの送信側と受信側の双方がシステムを導入していなければならないからだ。利用者の日常生活を支えるためには、ケアマネジャー、訪問系、通所系、施設系、医療機関などが地域の中で連携し、共通の情報をもとに支援を積み重ねていかなければならない。したがって、情報共有の仕組みを整えることは、単なる業務効率化ではなく、「地域包括ケア」を実現するための基盤整備にほかならないと感じていた。
そのため私は、ユーアイ村の中だけで運用を完結させるのではなく、水戸市内の他の事業所にも同システムの導入支援を行うことにした。利用者を支える事業所が同じ基盤でつながることで、ケアの質や情報伝達のスピードは大きく向上するはずだと考えたからである。
しかし導入を進める中では、操作方法への不安、既存業務との両立、情報管理に対する懸念など、様々な課題が浮かび上がった。また、事業所ごとに業務フローが異なるため、同じ説明でも受け止め方が違い、丁寧な調整が求められた。
実習を通じて私がもっとも強く実感したのは、日本社会が抱える課題は「人が足りない」ことそのものではなく、人が動かない、動けない構造にこそ根本原因があるということである。制度も働き方も固定化され、配置も役割も変わりにくい。こうした硬直性の積み重ねが、結果として社会全体の対応力を奪っている。
介護現場で特に印象的だったのは、職員構成の同質性である。長年にわたり同じ業務に携わってきた職員が多く、それ自体は現場の安定とケアの質に大きく寄与している。一方で、同じことができる人だけが残り、同じことができない人は入りにくく、職場の文化も業務のやり方も変わりにくいという側面もある。これは献身の結果生まれた強みであると同時に、外からの新しい視点や多様な経験が入りにくいという弱みでもある。
私はこの“同質性による硬直化”こそが、介護分野だけでなく日本社会に広く存在する構造的な制約だと感じた。人手不足が深刻化しているように見えても、実際には人が出入りしないことによる“流動性不足”が状況をより悪化させている面は否定できない。もし多様な人材が介護に関わり、必要な時期に入り、必要がなくなれば別の産業に移ることが自然に行われるなら、介護現場は変化に適応する力を得るはずだ。
私は今回の実習を通じて、社会の持続可能性を高める鍵は、特定の分野に人材を固定することではなく、人が往来できる環境を整えることにあると確信した。介護はその象徴的な現場であり、ここで得た経験は今後、人的資源の再配分や制度改革を考える上で、私にとって重要な指針となるだろう。
[1] 社会福祉法人ユーアイ村HP/社会福祉法人ユーアイ村/
最終閲覧:2025/12/12
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Taiyo Katayama
第45期生
かたやま・たいよう
Mission
人的資源の再配分を軸にした経済大国の実現