Activity Archives
7月。本研修を始めて早2か月(研修期間:5月中旬~11月中旬)が過ぎた。初夏真っただ中のデイサービスでの入浴介助は熱気と湯煙に包まれ、汗が吹きでる。体力的な厳しさを感じながらも、現場の皆様と利用者の皆様に励ましをいただきながら大変充実した研修になっている。以下に私の経営実践研修の中間報告を記す。
私が研修を行う社会福祉法人ユーアイ村(以下、「ユーアイ村」と記述)は「自分でできること、ひとつでも多く」を理念に、利用者も職員も自立や主体性を大切にし、多様性を尊重した支援を行っている。また、「いろんなハート、あっていいよね」という言葉のもと、違いを認め合い、誰もが自己決定できる環境づくりを目指している。[1]
そしてユーアイ村は、現場の声から様々な事業を展開してきた。障害者が地域で自立して暮らせるグループホーム(ユーアイホーム)、働く場としての就労支援施設(ユーアイキッチン)、重い障害がある方のための生活介護施設(ユーアイファクトリー)、高齢者が安心して暮らせる特別養護老人ホーム(ユーアイの家)を運営しています。さらに、福祉×デザインで新たな価値を生み出すユーアイデザイン、子どもたちの成長と地域交流を支える認可保育所(ユーアイほいくえん)、そして障害・高齢・子育てなど多様な悩みに応えられる「まるごとカフェ」を通じて、地域に根ざした包括的な福祉サービスを展開している。[2]
本研修は「経営実践研修」と位置づけられており、第一の目的は「経営の要諦を掴むこと」だ。自分自身も現場での実習に携わりながら、社会福祉法人ユーアイ村の理事長である藤澤利枝さん(第14期塾員)が日々どのように意思決定し、現場と向き合っているかを間近で見て、社会福祉法人の現実を肌で学んでいる。
また、もう一つの目的は「人手不足の現場を自分の目で見て、その実態と課題を深く考察すること」にある。介護をはじめとする福祉業界は、少子高齢化の進行や働き手の減少により、日本の中でも特に人手不足が深刻な分野だ。厚生労働省の推計では、介護分野だけでも2040年には約57万人もの人材が不足するとされている。[3]こうした危機的状況に対し、外国人材の受け入れ拡大、ICTやロボット技術の導入、処遇改善加算など多様な対策が国や自治体レベルで講じられている。こうした内容は調べれば出てくることであるが、私の中ではまだ机上論でしかなかった。現場で直接話を聞き、実際の働き方や課題を自分の目で確かめることで、制度や施策の限界や、現場が本当に必要としている支援が何なのかを見極めたい。こうした実地の体験と考察を通じて、最終的には「人手不足」という社会全体の構造課題にどのような具体的な打ち手があり得るのかを、現場感覚と経営視点の両面から探っていきたいと考えた。
研修を始めてまず特別養護老人ホームやデイサービスでの実習に入った。そこで私はいくつもの「できない」に直面した。たとえば、利用者の方に服を着せることや、椅子から椅子へ移乗させることも難しい。力を入れなければ利用者の体は動かないが、逆に力を入れすぎれば体に痣ができてしまう。私は介護を無意識に「力技」だと思っていたのかもしれない。実際にやってみると決して一方的なものではなく、利用者の方と息を合わせた“コンビネーション”だということが分かってきた。実際に食事介助をやってみて、最初はスプーンがなかなか口に入らなかったが、利用者の咀嚼のタイミングや呼吸のリズムを少しずつつかみ、最初よりもスムーズにできるようになったときは素直に嬉しかった。
現場を経験して強く感じた経営の要諦は「理念の浸透」だ。介助にはいくつもの方法があるなかで、職員の方々は「今できることは、できるだけ本人にやってもらう」という考え方を徹底している。たとえば排泄介助であれば、オムツを使えば職員の手間はたしかに減る。トイレでのサポートも必要なく、定期的にオムツを変えるだけでいい。しかし想像してみてほしい。ベッドの上で失禁することがどれだけ本人にとって不快かを。今までできていたことができないと知る絶望感がいかほどかを。ユーアイ村の職員の方々は利用者がトイレで排泄できるならそのサポートを第一に考える。それはその人の自尊心と「自分でできること」を最大限守ろうとするユーアイ村の理念が、日々の現場で実践されている証拠なのだ。
また、人手不足の解消策として介護業界全体で機械化やICT活用が進められている。ユーアイ村でも介護用リフトや見守りセンサー、職員同士の連絡に使うスマートフォンが数年前から導入されている。現場の職員の方々に聞くと、こうした機器のおかげで業務が楽になったと実感しているとの声が多かった。一方で、機械も万能ではなく、使い方を誤ると利用者に不安を与えてしまうこともある。たとえば介護用リフトは移乗時に便利だが、持ち上げるときに利用者の体が揺れてしまうため、支え方には注意しなければならない。機械を上手く使いこなすため、そして利用者との息を合わせる「コンビネーション」のためには現場の工夫と配慮が欠かせない。機械化には想像以上に現場の努力と工夫が要求されているのかもしれない。
実習を始めて、私にも友達ができた。彼は1年ほど前からユーアイ村で働いているネパール出身の職員だ。ユーアイ村には、彼を含めて6名の外国籍従業員が在籍しており、現場では国籍や文化の壁を越えて多様なスタッフが活躍している。7月に行われた参議院選挙でも、外国人労働者の受け入れ拡大が社会的な議論の的となっていたが、現場の実際を知ることで、その課題や可能性についてより深く考えたい。
さらに、私は今現場のICT化にも取り組ませてもらっている。業務の効率化や負担軽減を目指すべく、日々の地道な作業を通じて現場の課題や改善点を発見し、その解決策を模索している。これらの経験を通じて得られた気づきや成果についても、今後の報告でまとめていきたいと考えている。
[1] 社会福祉法人ユーアイ村ホームページ(参照2025-07-24, 社会福祉法人ユーアイ村)
[2] 同上
[3] 厚生労働省, 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
(参照2025-08-04,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41379.html?utm_source=chatgpt.com)
Activity Archives
Taiyo Katayama
第45期生
かたやま・たいよう
Mission
人的資源の再配分を軸にした経済大国の実現