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2025年5月12日から11月14日までの約半年間、株式会社マザーハウス(以下、マザーハウス)にて経営実践研修を実施した。本研修の目的は「経営の要諦」をつかみ志の達成に活かすこと、そして「良いリーダー」像について理解を深める事であった。また「ソーシャルとビジネスの両輪を回すには」と「伝えたことが『伝わる』方法」についても個人テーマとして掲げた。このレポートでは、これら4つの問いに対して、研修で得た学びをもとに考察していきたい。
マザーハウスについての説明は中間報告で行っているため割愛する
(参考:https://www.mskj.or.jp/archives/46334.html)。
業務内容は広報チーム所属として、ブログの作成や店舗での勤務(SNS運営含む)を担当した。
経営とは、administrationとmanagementの2つの意味をもち、「組織(企業)を工夫しながら運営し、継続させていくこと」である。松下幸之助(以下、塾主)は企業を「社会の公器」と位置づけ(1,p40)、「社会全体のためになるある目的を達成するためにモノやサービスを通して経済を回していくこと」を存在意義としている(1,pp38-41)。また、経営理念については「この会社は何の為に存在しているのか」と定義づけている(1,p22)。つまり「社会全体のためになるある目的」とは「経営理念」と言い換えることができる。経営理念を達成するために企業は存在し、その達成のために動き続けているのだ。そしてこの理念は変わる事のない企業の軸でもある。
マザーハウスに置き換えると、「マザーハウスは『途上国から世界に通用するブランドをつくる』ために存在し経営されている」と言える。この理念を達成するために、素材選びから製造・販売、修理、発信までが一貫して行われ、組織全体が同じ方向を向ける仕組みとなっている。マザーハウスの強みの一つは上述の製販一体であることだが、「信頼」も大きな鍵となっていると研修を通して実感した。マザーハウスはリピーターやファンの多い会社である。「マザーハウスなら間違いない」と思うからこそ再度お店に行き、ブランドのファンになるのだ。信頼を生むのは以下のような取り組みがあるからだと考える。
①「ストーリーテラー」と呼ばれる店舗スタッフによる「この人から買いたい」と思える接客
②現地の職人の顔が見える・作る様子を見ることができる
③商品の質の高さ、修理・メンテナンスを自社で行う
④製販一体で情報がクリアかつ顧客の声が反映されやすい
⑤メディア出演や発信が多く、人柄や考え、経営に関するデータがクリア
塾主の言葉で「雨が降ったら傘をさす」とある(2,p153)が、マザーハウスの経営はまさにそれを実践していることが分かるだろう。一つ一つは特別な行動ではないが、当たり前のことを当たり前に継続することで、顧客に正直なものづくりと商売をしているのだ。
また、経営には変革も必要だ。変化がないと時代に取り残され、ニーズに合わなくなる。その点においてもマザーハウスは変化し続けようとする意志が強い組織だと感じた。ある社員いわく「山口絵理子社長(以下、社長)は自分がどれだけ時間をかけて考えた案でも、それよりいいと思う案があれば潔く自分の考えを捨てて、新しい選択肢を選ぶ」という。また「会話の内容ややっていることを見れば日々小さな変化が起きている。その小さな変化に気づけるからこそチャンスが巡ってくるし大きなチャレンジをすることができる」と社長自身も話していた。この変化を恐れない姿勢がマザーハウスの柔軟性を生み出しているのだ。
チーフデザイナーでもある社長は、素材が本来もつ美しさや魅力を最大限に引き出し、商品を生み出してきた。その「素材に向き合う」姿勢は人に向き合うときにも共通している。6の途上国の職人と、時には半年かけて、一緒にものづくりをしたり対話を重ねたりしながら、職人との関係性を築いてきた。一人ひとりを個として尊重し、対等に向き合っているのだ。また、社長の衣装やヘアメイクはその時々によって大きく変わる。それはTPOに加えて、相手にとってどんなスタイルが適しているか、安心できるかを毎度考えているからこそできることだ。
私の勤務店舗であった「最後の一品店。」の店主は周囲への配慮を最大限行う。社内外の連絡事項をいつどのように伝えるか相手の状況に合わせて行い、誰よりも働いていながら常に笑顔で明るく、何か相談があればいつでも対応する。また、相手の立場は関係なく意見を伺い、もらった指摘はすぐに行動に移していた。
社長と店主に共通しているのは「この人を助けたい、この人の為に何かしてあげたい」と周囲に思わせる存在であることだ。相手を尊重し配慮すること、また周囲の助けやサポートに対し誠実に前向きに対応するために「この人ならやってくれる」という信頼が生まれ、更に助けが集まるのだ。これはまさに、塾主も大事にしていた「愛嬌」だと考えられる。組織を運営する最大のメリットは一人ではできないことを可能にすることだ。あらゆる人を適切な場面で巻き込み、鼓舞し、同時に一緒にやりたいと思ってもらえることがリーダーには求められる。
マザーハウスではお店で直接顧客と会話し販売することを重視している。直営店での販売によって、顧客にそこでしか得られない買い物体験や「出会い」を付加価値として提供するのだ。それが可能な空間づくりをすべく意識していた点と、広報担当として指摘をいただいた点は共通していると感じた。それをまとめたのが以下の表だ。

いずれも「事前準備→受け取り手の想像と配慮→最後まで責任を持つ」という流れで共通している。また、「アットホーム(at home)」な空間づくりも重要である。家のように安心できる空気は人によって異なる。ホテルのような畏まった接客を受けて安心する人もいれば、大衆居酒屋のようにラフに会話のできる接客を好む人もいる。相手の様子を、五感を使って観察し、安心できる空間づくりができれば商売の鍵である信頼も増す。
また、相手が受け取りやすい形に変える翻訳作業をするときのキーワードとして「『可哀そう』や『環境にいい』ではなく『可愛い』『おしゃれ』『機能性が高い』から買う」がある。これはマザーハウスで商品を作るとき・売るときに大切にしている考え方だ。マザーハウスのソーシャルとビジネスを繋ぐ鍵であり、持続している理由でもあると考えている。
接客を通して「伝わるための方法」を知り、広報物や企画に取り組んだが、なかなか承認を得ることができなかった。そこから明確になった自身の課題は以下の通りである。
①伝える相手を想像できていない
②伝える相手が求めているものではない・受け取りやすい形になっていない
③主語が誰なのか明確ではない
④事前準備の不足
これらは、発信に限らずあらゆるコミュニケーションに共通する本質的な課題だ。これらができて初めて自分のやりたいこともできる(伝えたいことも伝わる)と同時に、相手のためになり、仲間が増えていく。何事にも相手がいて、仲間がいる。その全ての「コミュニケーション」において、当たり前のことを素直にやり、相手を知り配慮し、信頼を積み重ねていくことが、重要であると実感した。
1.松下幸之助, 実践経営哲学/経営のコツここなりと気づいた価値は百万両, PHP出版
2.松下幸之助, 指導者の条件, PHP出版
3.松下幸之助, 商売心得帖・経営心得帖, PHP出版
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Reiya Noda
第45期生
のだ・れいや
Mission
問題解決の際に、人を攻撃し争いを生むのではなく赦し協力しあえる社会