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「経営理念を確立」し、「人をつくる」経営
~株式会社マザーハウス~

 本レポートは、2025年5月12日から11月14日までの約半年間にわたり継続中の経営実践研修の中間報告である。私は株式会社マザーハウス[i]
(以下、マザーハウス)をインターン先として希望した。目的は「①社会的な事業で持続的に働くにはどうすればいいか」「②社会的な話題を興味のない人にも伝わるようにするには何が必要か」という2つの問いに答えることだ。まずはマザーハウスの概要説明とともに希望した理由から述べていきたい。

【株式会社マザーハウス】

 マザーハウスはバッグをはじめ、アパレル、ジュエリー、ストールといったファッションアイテムに加えて、フードも手掛ける企業だ。製販一体で、生産地はバングラデシュ、インド、インドネシア、ネパール、スリランカ、ミャンマーといったいわゆる途上国6ヵ国であり、販売も日本に限らず台湾、シンガポール、アメリカ(ECサイトのみ)に進出している。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念[ii]のもと、途上国で現地職人とモノづくりを行い、世界で販売しているのだ。一見「フェアトレード」を売りにしたソーシャルビジネスに見えるが、店舗数もコロナ禍関係なく伸ばし続け、業績も上がり続けている。社会性と経済性の両輪がきれいに回っているのは何故なのかを探ることで①が、「ストーリーテラー」と呼ばれる店員たちが顧客にどのように生産国や理念について伝えているかを学び実践することで②が達成されると考えた。今回のレポートでは①について報告する。

【なぜビジネスである必要があるのか】

 そもそもなぜ、マザーハウスは企業である必要があったのか。途上国の可能性を証明するには数字を出すことが必要だからだ。多くのNPOのように、貧困層に資金提供をし、製品を作り販売することで支援をする方法もある。しかし、それでは支援・被支援の関係性のもとでしか成り立たず、製品の買い手も「支援をした」という満足感で終わってしまう。しかしマザーハウスは製品の機能性やデザイン性といった品質の良さで買う客が大半を占める。そのため、リピーターも多く新規顧客も増え続けている。その結果、途上国のモノづくりのクオリティは上がり、それに見合った給料をもらえており、会社としての業績も上がり続けている。明らかに「途上国だってやれる」ことを数字で証明している。

【なぜ社会性と経済性の両輪がきれいに回っているのか】

 数字を大切にしているが、社会的側面も忘れてはいない。以下に一部を紹介する。
 ・購入時に付与されるポイントは使用される際、一部が災害支援などに使われる
 ・コロナ禍でも誰一人解雇せず国内外全スタッフに給料を支払い続けた
 ・バッグの修理やケアなど販売後のフォローを怠らない上に、使われなくなったバッグは回収し、解体して新しい商品(デザイン重視)としてよみがえらせる
 サンクスイベント」として顧客に感謝するイベントも年に一度行われ、そこでは職人を呼ぶことで、職人と消費者の交流が行われる。消費者は職人の顔が見えることで安心感が生まれ、ブランドへの愛が深まる。職人も消費者の顔を見て生の声を聴けることで、自身のモノづくりに対して誇りを感じ、それによる品質向上にもつながる。これらの社会性を保ち続けることで、数字にとらわれ、利益重視になることを防いでいるのだと考える。

【何のために会社は存在するのか】

 「マザーハウス」という名は、マザーテレサへの尊敬の意と「第2の家」という意味が込められている。途上国にいる職人、日本国内外にいる消費者やスタッフ、みんながそれぞれに家を持ちつつも、第二の帰る場所であり安心する場所となることをマザーハウスは目指している。実際にそうなっているケースも少なくないはずだ。上下関係なく、一人一人が対等に関われる「箱」として会社が存在している様に感じる。
 また、「マザーハウス」という一つの運動体でもあるように思う。この運動体は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という光に向かって突き進んでいる。

【なぜ経営理念が浸透しているのか】

 マザーハウスには、山口絵理子社長と山崎大祐副社長が掲げた上述の理念のみで、ミッション[iii]・バリュー[iv]はない。しかし、アルバイトを含む店舗のスタッフ一人一人にまでこのミッションは浸透し、実践されている。理由は勿論、社長・副社長のメディアへの露出や講演会の多さによって、聞く機会が多いことも含まれる。しかし言葉としてだけでなく、体に染み込んで日々の業務にあたる人が多いと感じる。それは何故か。
 私が見つけた理由は大きく2つだ。
 一つ目は、Whyを常に考える会社風土だ。様々な業務の引継ぎ時やそこで使われる資料には必ず「なぜやるのか」が明記されており、「Why」を重視したコミュニケーションがなされる。その結果、社員が自ら「マザーハウスとは」を常に考え、議論する場をつくったり発信したりしている。その結果生まれたのが「MH語」だ。MH語とは、マザーハウスを表す言葉やマザーハウスらしい言葉とされる言葉群を指す。社長や副社長が作成したものではなく、社員がチームを作り生まれてきた文化の一つだ。共通言語として、日々の業務やものの考え方を説明する際によく使われている。明確な定義はなく、各MH語について研究するための議論の場も設けられている。共通言語と理解のための議論の場や発信を通して、実践に移していっているのだ。
 二つ目は、代表取締役社長である山口絵理子さんがデザイナーでもあり、プロダクトを通してメッセージを伝えていることだ。マザーハウスの商品の大半は山口さんによって開発されている。そこにはいつも、機能性と同時に山口さんの伝えたいメッセージが込められている。そのため、新商品発表の際には必ず、動画や会議、商品企画書で丁寧な説明がなされる。スタッフはその商品に日々触れ、お客様に伝えることで、理念を実感していくのだ。

【経営とは(まとめ)】

 マザーハウスは理念が強く掲げられている会社という印象を持っていたが、インターンとして関わる中で、それが日々の業務に深く根付いていることを実感している。スタッフ一人一人が「なぜこの仕事をするのか」を自ら考え語る文化が根付いているのだ。それによって、国外も含む会社全体が一つの目標に向かう運動体となっており、迷ったときに立ち返る軸を持つことができているように感じられる。単なる経営理念の掲示にとどまらず、日々の会話や議論、商品を通したコミュニケーションによって蓄積され磨かれている。実際、山崎副社長は「社員には伝えられることのすべてを伝えている。いつか自分たちが退陣する際にもなるようになる」と話していた。
 スタッフはこうした理念を日々の業務を通じて言語化し、ストーリーテラーとしてお客様に伝えていくことが求められる。次回のレポートでは、「『伝えたい』ことを伝えて『伝わる』には」をテーマに報告し、経営実践研修をまとめていきたい。

引用・参考文献

[i] 公式HP,https://www.motherhouse.co.jp/?srsltid=AfmBOoqZYi2NmCvCfGVbrf8ZyzrXI6gnmYSI-GIE6ZLsxiY9WTnrrarO%20, (最終閲覧:2025年8月4日)

[ii] 企業・組織の理想像、中長期的な目標を表す言葉。ミッションを実現するために、企業・組織はどのような状況になるべきか、どのような志であるべきか。

[iii] 企業・組織が果たすべき使命や存在意義を表す言葉。なぜこの企業・組織が存在するのか、社会にどのような価値を体現するのかなど。

[iv] ミッションやビジョンを達成するための具体的な行動指針、行動基準を表す言葉。企業・組織の構成員の行動や判断の基準となる価値観。

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