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女性の自己責任論にならない議論のために

 2022年7月に世界経済フォーラムが公表した「The Global Gender Gap Report 2022」において、日本は男女格差を測るジェンダーギャップ指数が116位であった。これは韓国、中国、ASEAN諸国よりも低い順位である。
 実際、日本では、賃金をはじめ、雇用形態、家事労働の負担、学問領域、セクハラ等、女性の活躍を阻むさまざまな障壁、すなわちジェンダー上の課題が存在する。しかし、すでに日本は少子高齢化の状況が深刻であり、労働力確保の観点からいっても、女性の就業機会の拡大や女性への差別的な扱いの撤廃に早急に取り組む必要がある。さらには、性差を含む多様性がイノベーションを生むと指摘されている中で、企業の収益拡大やマクロ的な経済成長のためにも、女性の登用や活躍の必要性が求められている。 
 つまりは、女性の活躍を阻むジェンダーギャップの解消は、日本にとって喫緊の課題である。

 私はここで、あることを指摘しておきたいと思う。それは「女性活躍」という言葉の使われ方だ。この言葉が用いられる文脈やシチュエーションで、この数年、「違和感」を感じるようになったのだ。
初めてそれを感じたのは、ある会合におけるジェンダーギャップ解消に関する議論の中で、途中からある人が、「女性活躍」という言葉を強調し、「女性の意欲」に焦点を当てた発言を繰り返すのを見たときである。そこで覚えた違和感とは何か? その後、関連文献を読んだり、自らの考えを整理したりするうちに、違和感の正体がわかるようになった。

 「女性活躍」のために、女性自身が「意欲」を持ったり、それを引き出すための施策が必要なのはいうまでもない。しかし、「意欲」に焦点を絞りすぎると、意欲を持てない原因を、女性個人の生き方やキャラクターに求めてしまう危険性に気づいた。複数の人が参加する議論の場でも、女性が活躍できない理由を個人の意欲に還元してしまうと、参加者が言葉少なになって、議論が盛り上がらなくなることを、実際に体験したことがある。

 「なぜ女性が活躍できていないのか」を考える際に「この社会に何が必要か」という視点ではなく、「女性に何が必要か」という女性に足りない素養や努力の視点になってしまうことで、「女性活躍」が社会課題から一個人の問題にすり替わってしまい、仕組みや構造でどう解決するかという議論につながらないという現象が起こっているのである。

 確かに、女性活躍のための施策において、女性の昇進意欲の不足は頻繁に指摘される問題点[1]である。しかし、なぜ女性が昇進意欲を持つことができないのか、という点に目を向けなければ根本的な解決にはならない。例えば、女性がキャリアアップを渋る原因の一つに家庭と仕事の両立の困難さがある[2]。特に育児を見据えた女性は「時間の確保」が管理職意欲に大きな影響を及ぼすことがわかっているが、現在主流になっているノー残業デーなどの労務管理的な対策では、時間を確保したい女性にとって残業が換算されない管理職につくメリットがなく、女性の昇進意欲向上にはつながらない[3]。必要なのは時間で見た残業を減らすことではなく、そもそも残業が発生してしまう原因を解消することである。
 また、家庭においても無償労働時間の男女比(男性を1とした場合の女性の比率)が5.5[4]と比較国中で圧倒的トップである日本社会において、家庭での男性パートナーとの役割分担の見直しも必要である。 

 男性パートナーとの歩み寄り、と言うのは簡単だが、現実問題として男性の有償労働時間も世界でいちばん長い。職場で長い時間働いたあとに、家事労働に従事するのは心身共に大きな負担であり、職場での労働環境の改善なくして家事労働分担の改善は望めない。つまり、家庭での役割分担の見直しと、企業における働き方の変革を両輪で考えることが、女性の昇進意欲向上に必要であるということである。

 他にも、男性1人当たり報酬に対する女性1人当たり報酬について、G7構成国の平均が82.2%であるのに対し日本は59%と男女賃金格差が大きいこと、非正規雇用労働者の割合が女性は54.4%であるのに対し男性は22.2%であることなど、雇用に関して男女の待遇差は大きい。こうした個人が抱えるには大きすぎる社会的な課題に対して、解決を女性の側に求めるのではなく、制度の改善に意思決定権を持っている側、つまり男性たちがそれを課題として認識しなければ解決には至らない。

 もちろん、女性が社会で活躍していくためには、女性自身の意思や覚悟、主体性が、現在とは違った形で求められることは間違いない。しかし、そういった女性の意欲促進や能力開発は、女性が活躍していくために必要な1つの要素にすぎない。問題の原因を女性に限定し、女性だけが解決するべき女性の課題、という観点で「女性活躍」を使うことは問題の根本的な解決にならず、「女性活躍」を考えるにあたって、女性自身に目の前の壁を乗り越えることを求めるのではなく、女性が直面する壁を認識しそれを壊す方法を共に考えることが必要である。

注釈

[1]『男女共同参画白書 平成25年度版』「コラム6 女性は昇進を望まない?」内閣府男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/column/clm_06.html

[2]『「男性正社員のキャリアと両立支援に関する調査」結果』独立行政法人 労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/press/documents/20130312.pdf

[3]『女性活躍推進に関する定量調査 報告書』パーソル総合研究所 シンクタンク本部
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/female-manager.pdf

[4]『男女共同参画白書 令和2年度版』「コラム1 生活時間の国際比較」内閣府男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html

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