論考

Thesis

第二次・第三次安倍政権の歴史認識の表明と日米関係の変容

第二次・第三次安倍政権が、米国との間に生じた歴史認識をめぐる問題に対していかに対処しようとしたのかを、総理自身による対外発信の視点を中心に明らかにする。

はじめに

 本稿は、第二次・第三次安倍政権が、米国との間に生じた歴史認識をめぐる問題に対していかに対処しようとしたのかを、総理自身による対外発信の視点を中心に明らかにするものである。

安倍政権に向けられた米国の厳しい論調

 第二次安倍政権開始後の日本は、その歴史認識に関して米国から懐疑的な目を向けられ続けていた。

 2013年2月7日、衆議院予算委員会で安倍は「第一次安倍内閣において靖国参拝できなかったことは痛恨の極みである[1]」と答弁した。また、2013年4月20日から21日にかけ、靖国神社の春の例大祭に際して、安倍内閣の閣僚の麻生太郎、新藤義孝、古谷圭司、官房副長官の加藤勝信が参拝し、安倍は参拝こそしなかったものの21日に真榊を奉納した。直後の23日には、安倍は、参議院予算委員会で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない[2]」との発言を行った。

これらの日本側の動向に対して、米国の主要紙は批判的な論調を展開した。ニューヨークタイムズ紙は4月23日付「日本の無用な国家主義[3]」との社説を、ワシントンポスト紙は26日付「歴史を直視できない安倍[4]」との社説をそれぞれ掲載している。

 5月8日に公表された米国議会調査局報告書は「安倍は日本の侵略やアジアの犠牲といった歴史を否定する修正主義者の見方を持っている」と言及し、「国粋主義的なことで知られる政治家や、時により極端に国粋主義的な主張を行う政治家を任用していることからも、安倍の閣僚人事にはこれらの歴史観が反映されている」、「多くの識者の間では、安倍の政権復帰は周辺国との問題を再燃させ、地域的な貿易統合の動きを乱し、合衆国との同盟国との安全保障上の関係を損ない、中国との関係をさらに悪化させる恐れがあると懸念されている[5]」と指摘した。

 更に、12月26日、安倍自身が靖国神社を参拝すると、駐日米国大使館は「日本は重要な同盟国であり友だが、米国政府は日本が隣国と関係を悪化させる行動をとったことに失望している[6]」との声明を発表し、米国国務省のハーフ副報道官も12月30日の記者会見で、「近隣国との緊張を高めるような行動をとったことに失望している[7]」と述べた。

 また、ニューヨークタイムズ紙は、26日付「日本のリスキーなナショナリズム[8]」、26日付「リーダーは平和主義と決別を断言した[9]」との社説を掲載し、ワシントンポスト紙も27日付「首相による戦争記念碑への訪問は挑発行為[10]」との社説を掲載し、批判を強めた。

 安倍政権下において進められていた武器輸出三原則の見直し、集団的自衛権の行使容認などの安全保障政策は、日米同盟に対する日本の貢献を拡大するものとして米国から歓迎されるものであったが、その一方で、歴史認識をめぐって米国は厳しい言説を日本に向け続け、日米の信頼関係を築く上での阻害要因となっていた。米国の東アジア専門家の間では、日本の安全保障政策における一連のプラグマティックな取り組みは、表面的には現実に対応するという装いをとっているが、実は根幹では『ナショナルな衝動』に突き動かされているのではないかとの疑念がくすぶるようになっていた[11]。

日韓の不和をアジア回帰政策の阻害要因と認識する米国

 2011年10月11日、ヒラリー・クリントン国務長官は、フォーリンポリシー誌に寄稿した「米国の太平洋の世紀」の中で、アジア太平洋地域への関与が米国にとって不可欠であり、米国のあらゆる「外交資産」をアジア太平洋地域のあらゆる国や地域へ今後も送り続ける「前方展開」外交を行い続ける必要があるとの認識を示した[12]。

 バラク・オバマ大統領が明確にアジア回帰政策を明確に打ち出したのは、その直後の11月である。オバマは11月17日に行った豪州議会での演説で、「注意をアジア太平洋地域の巨大な潜在力に向けつつある」とした上で、米国は太平洋国家としてこの地域及びその将来を形成するために、より大きくより長期的な役割を果たす意志を示した。また、アジア太平洋における米軍の実在及び任務を最高の優先課題にするよう指示しており、国防費の縮減がアジア太平洋を犠牲にして行われることはないとも述べた[13]。

 米国にとって、北東アジアにおける重要なパートナーは日本と韓国である。国防総省が発表した2010年「4年毎の国防計画の見直し(QDR)[14]」にも示されているように、米国は日米同盟と米韓同盟によって集団的抑止と防衛能力を高めたいと考えており、この頃から3か国の安全保障協力を強化しようとする動きが強まっていた。また、2011年2月8日に出された米国統合参謀本部の「国家軍事戦略(NMS)」は、米国とアジア各国の二国間同盟が多国間同盟になりつつあるという認識を示し、日韓の安全保障関係改善、軍事協力強化、地域安全寄与のために助力すると言及した[15]。

 更に、2012年8月、リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイによって書かれた戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書(第三次アーミテージ・ナイ・レポート)は、「機微な歴史問題に判断を示すのは米国政府の立場ではないが、米国は緊張を緩和し、同盟国が核心的な国家安全保障上の利益と将来に注意を戻すように十分な外交的努力を行う必要がある」、「日韓は、現実政治のレンズを通して2国間の結びつきを再検証するべきである」として、日韓双方に関係改善を促しながら米国もその仲介者としての役割を担うことによって、日韓の防衛協力の阻害要因を除去し、日米韓の効果的運用を目指すことを提言している[16]。

 このように、米国では、アジア太平洋地域におけるハブアンドスポークスをいかにネットワーク化していくのかという問題意識の下、「日韓」・「米韓」という2つのスポークスを日米韓のトライアングルへと変化させていく必要性と方策とが説かれるようになっていた。日本と韓国の間での軍事情報包括保護協定、物品役務総合提供協定など、具体的な関係強化に向けた取り組みも進みつつあった。

 しかし、李明博大統領の竹島上陸を機に日韓関係は一気に冷却化し、これらの取り組みは頓挫する。朴槿恵政権になっても日韓関係は悪化の一途をたどり、それに加え、韓国による歴史認識や経済分野を通じて中国への接近の姿勢が目立つようになった。歴史認識問題をめぐって韓国が中国と共闘し関係を深めることを避けたい米国は、韓国によるロビー活動への対応や日韓の仲介者としての助力をコストとして受け入れざるをえなくなり、日韓の不和が米国の安全保障政策の阻害要因として認識されるようになった[17]。日韓間で感情を刺激する言動に米国が敏感になっている中で行われた安倍政権の様々な発言や行動は、米国の安全保障にもつながる問題と認識されて厳しい非難を呼ぶことになった。

 この時期の対日批判の特徴は、米国のリベラル層からの批判のみならず、日米同盟を強く支持し中国に批判的な保守派からも懸念の声が示された点である[18]。例えば、2013年7月22日、保守系シンクタンクのヘリテージ財団から出されたレポート「日本は過去を修正するよりも将来の政策を優先するべき」は、米国政府が日本政府に促すべき4項目を挙げており、「防衛政策の転換の履行」、「防衛予算の拡大」などを掲げる一方で、「逆効果となる歴史修正主義の放棄」を挙げ、安倍を「近隣諸国の反応に無感覚である」と批判した[19]。同盟国韓国が中国寄りになることを防ぎたい米国保守派が、女性の人権を重視して慰安婦を問題視するリベラル派とは異なる現実主義的観点から日本の歴史認識を批判した事実は、日韓の歴史をめぐる問題が米国の安全保障問題にもつながると理解されていたことを示している。

米国に受容された安倍の歴史認識

 軍事力の増強を続ける中国に加え、中国へ接近する韓国の存在もクローズアップされる中で、日米両国は、韓国が主張する歴史認識問題に配慮しつつ、日米相互の信頼を確認し両国関係をより強固なものにする必要に迫られていた。

 日本の歴史認識に関する米国の疑念払拭に大きな役割を果たしたのは、2015年4月29日に行われた安倍の米国上下両院合同演説であった。近年、戦略的な広報外交の重要性が認識される中、安倍は総理就任以降、海外情報発信力の強化に力を注いできた[20]。その中でも安倍の取り組みの特徴の1つは、国際会議や各国議会等における演説を積極的に行ってきたことである。安倍は対米関係を自らの演説を通して良好なものとしようと考え、2015年のゴールデンウィーク期間における米国議会での演説を模索し、イスラエル訪問中の2015年1月19日、ジョン・マケインなどの米国上院議員7人にその旨を要請したと言われている[21]。安倍にとって重要であったのは、演説を通して、歴史認識で地域を不安定化させているのは日本であるとする主張が米国で浸透するのを防ぐことであった[22]。

 約45分間、英語で約2800語に及ぶ演説の中で、安倍がその歴史認識を端的に示したのは「戦後の日本は、先の大戦に対する痛切な反省を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません[23]」の箇所であった。安倍は、「反省」には言及したが「お詫び」に言及することはなかった。

 戦後50年にあたる1995年8月15日、当時の総理であった村山富市は、閣議決定を経た上で「戦後50周年の終戦記念日にあたって」と題した談話を発表した。この「村山談話」は日本政府の歴史認識を示す声明として、歴代内閣はこの談話を継承してきた。

 村山談話の中でも、第5段落にあたる「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。(中略)ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします[24]」の部分は、先の大戦に対する日本の認識を最も顕著に表す箇所として注目されてきた。

 とりわけ、村山談話に盛り込まれた「反省」・「お詫び」・「侵略」・「植民地支配」は4つのキーワードとして重視されるようになり、歴代政権は演説・文書等においてこれらのキーワードを全て入れ込むことによって、その歴史認識が過去の内閣が有していたものと相違ないことを示してきた。2015年初頭、戦後70年を迎えるにあたって、果たして安倍はこれらのキーワードを引き継ぐのかに注目が集まるようになった。

 米国議会演説の前年の2014年7月8日、安倍は豪州議会での演説に臨んだ。「皆様、戦後を、それ以前の時代に対する痛切な反省とともに始めた日本人は、平和をひたぶるに、ただひたぶるに願って、今日まで歩んできました。20世紀の惨禍を、二度と繰り返させまい。日本が立てた戦後の誓いはいまに生き、今後も変わるところがなく、かつその点に、一切疑問の余地はありません」と述べて「反省」に言及した。また、事前に提示された外務省案に入っていた「お詫び」については削除し[25]、日豪和解のために努力した人々への感謝を前面にする内容にした。

 演説は豪州政府やメディアに好意的に受け止められた。演説後に行われた日豪合同記者会見の場で、トニー・アボット首相は、産経新聞の記者からの質問に対し、「日本をフェアに扱おう、日本をフェアに扱おう」と繰り返したうえで、「日本は今日の行動によって判断されるべきであり、70数年前の行動によって判断されるべきではない。戦後の日本は、模範的な模範的な〔ママ〕国際市民である[26]」と述べた。2014年7月9日付の豪紙ザ・オーストラリアンは「新しい日本を歓迎 首相の歴史的訪問は貿易と安定に寄与」との社説を掲載し、「安倍首相の演説は、日本政府と豪州政府との豊かで深く広い関係を示した[27]」と言及した。

 2015年3月17日には、国連大学にて国連創設70周年記念シンポジウムが行われ、安倍は「日本にとって国連とは何か」と題したスピーチを行い、「戦後、日本は、先の大戦に対する深い反省の上に、自由で、民主的で、人権を守り、法の支配を尊ぶ国づくりに励みました」と述べて「反省」のみに言及し、「お詫び」・「侵略」・「植民地支配」には言及しなかった[28]。

 米国議会演説直前の2015年4月22日には、インドネシアで開かれたアジア・アフリカ会議60周年記念首脳会議に安倍は出席し、「Unity in diversity~共に平和と繁栄を築く」と題したスピーチを行った。安倍は「『侵略または侵略の脅威、武力行使によって、他国の領土保全や政治的独立を侵さない。国際紛争は平和的手段によって解決する』。バンドンで確認されたこの原則を、日本は、先の大戦の深い反省と共に、いかなる時でも守り抜く国であろう、と誓いました」と述べ、バンドン会議の平和十原則を引用する形で「侵略」に言及したうえで、「反省」に言及した[29]。2005年の50周年時には当時の総理であった小泉が出席し、「反省」・「お詫び」・「侵略」・「植民地支配」のすべてを含んだスピーチ[30]を発表しているが、安倍は「お詫び」と「植民地支配」には言及しなかった。安倍のスピーチは、参加国首脳に好意的に受け止められた[31]。

 これらを総合すると、安倍の演説は、先の大戦の「反省」は変わらないことを示す一方、「お詫び」はしていない。韓国と中国を除けば、米国と同様に第二次世界大戦の交戦国であった豪州をはじめとして、基本的には国際社会から好意的に受け止められたことから、安倍は米国議会演説においても「お詫び」への言及は必要がないと判断したと推測される。

 安倍の議会演説後の5月1日、ジェフリー・ラトケ報道官は、米国国務省のプレスブリーフィングにて、「(慰安婦問題に関して)安倍総理が率直な言及をしなかったことについて米国に失望はあるか」との韓国人記者の質問に対し、「4月28日のホワイトハウスでの記者会見で、安倍首相は、安倍内閣が河野談話を引継ぎ、それを改訂する意思がないことを再確認した。私たちは、その点に注目をしている。彼は歴代総理の見解を堅持しており、私はそれに付け加えるものを持たない」と述べた[32]。この発言を初めとして、安倍の議会演説は、米国社会において好意的に受け止められたと言える。

 村山談話以降の日本社会においては総理談話に「反省」・「お詫び」・「侵略」・「植民地支配」のキーワードが盛り込まれるかどうかに注目が集まりがちであるが、中国・韓国を除けば、国際的には日本国内ほどの関心は持たれていないのが実情である。これらのキーワードの有無を持って、日本の総理大臣の歴史認識が歴代政権と異なったものになったとは判断されない。

 2015年4月7日、ピュー・リサーチ・センターが、2015年2月12日から15日にかけて米国人1000人を対象に行った世論調査では、「日本は第二次世界大戦中の行為について謝罪をしたか」との質問に対して、「はい、日本は十分に謝罪した」37%、「謝罪する必要はない」24%となり、「いいえ、日本は十分に謝罪していない」29%を大きく上回った。調査結果は「多数派の米国人にとって、第二次世界大戦中の日本の行為は過去のものとなっている」と結論付けた[33]。米国世論の中で日本に謝罪を求めているのは多数ではなく、「お詫び」が含まれるか否かは問題にはならない。

 そもそも、安倍が「お詫び」に言及しなかったからといって、その演説内容に「お詫び」の要素が含まれていないと決めつけることはできない。「先の大戦に対する認識は歴代政権と全く変わらない」という表明を、歴代政権の「侵略」・「植民地支配」に対する「反省」・「お詫び」をそのまま引き継いだと解釈することも可能だからである。

 米国は、日本が村山談話の主旨を全体として踏襲し続ける限りにおいて、それ以上を日本に求めることはない。米国議会演説は、「先の大戦に対する痛切な反省は歴代総理と全く変わるものではない」との明確なメッセージに加え、演説前に訪問した「第二次世界大戦記念碑」での「深い悔悟」の念の表明や、硫黄島で戦ったローレンス・スノーデン元中将と栗林忠道中将の孫である新藤義孝前総務大臣の握手の演出を織り込んだことにより、少なくとも米国の期待値との関係においては十分な内容の演説になった[34]。

保守政治家安倍は歴史認識を変えたのか

 第二次安倍政権開始後約1年間の日米関係は、安全保障分野における関係は密接になっていく一方、安倍政権の歴史認識に対する米国政府・議会やメディアの懸念は強まった時期であった。しかし、2015年4月の安倍総理の訪米を通して、安倍政権に対する米国の懸念は払拭され日米関係は大きく前進した。中でもハイライトは米国議会での安倍の演説であり、安倍による演出は両国間の和解の1ページとして人々の記憶に刻まれた。また、その後の2015年8月14日の「内閣総理大臣談話(70年談話)」に対する米国の肯定的評価や2016年5月のオバマの広島訪問での新たな和解の演出も両国の関係強化を明らかにした。

 外交評論家の岡崎久彦は、2013年3月8日に寄稿した論文の中で、日本の保守主義には2つの課題があると述べている。1つは戦後史観の脱却、もう1つは防衛・安全保障問題の戦後体制からの脱却である。後者は米国の国益とも合致するものであり米国から批判される余地はない。一方、前者については、敗戦国である日本としては国際問題となるのを避けるべき課題である。日本としては2つの問題に同時に取り組むことは避けて、まずは後者の問題に取り組むべきであると岡崎は主張した[35]。安倍は、基本的には、岡崎の指摘した通り、戦後史観の脱却よりも防衛・安全保障問題の戦後体制からの脱却の問題に注力してきたと言える。

 米国との強固な関係を継続し拡大していくことは、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中において極めて重要である。先の大戦に対する歴史観を日米が完全に共有することは困難であり、原子爆弾投下に対する認識をはじめ両国の間に齟齬があることは否めない。そのような中にあって、日米双方が納得できる歴史認識を示し、両国の和解を進め、関係強化を実現したことは安倍政権の巧みな外交であった。それと同時に、歴代政権が続けてきた「お詫び」に言及しなかったことは、安倍支持者の一部にとっては戦後史観からの脱却の一歩として肯定的に捉えられる出来事であった。「お詫び」という言葉を使わずとも、間接的に「お詫び」をしたとも解釈できる安倍演説は、極めてレトリックに優れたものであったと言える。

 安倍は自らも認めるように保守の政治家である[36]。安倍は、著書『新しい国へ 美しい国へ』の中で、「百年、千年という、日本の長い歴史のなかで育まれ、紡がれてきた伝統がなぜ守られてきたのかについて、プルーデントな認識をつねにもち続けること」が「保守の精神」であると述べている[37]。また、安倍の歴史観の原点の1つは、大学時代に「歴史を単純に善悪の二元論でかたづけることができるのか」との疑問を持ったところにあり、先の大戦については、その責任は軍部の独走だけにあるのではなく、指導者、マスコミ、民意と多岐にわたるとの考えを示している[38]。安倍の歴史に対する姿勢は、あくまでも多角的な視野から慎重に過去を捉えようとするものであり、先の大戦を自衛戦争と決めつけ日本の行動を正当化しようとするような類のものではない。

 米国議会での演説内容も、そこに至るまでの他の演説内容も、もともと安倍が有していた歴史認識との間に齟齬はない。戦前、日本が国際秩序に対する挑戦者となったことに真摯に反省する姿こそが、現在、新たな挑戦者となろうとしている中国に対する牽制にもなっており、これは安倍外交の基本的な方向性とも一致している。第二次・第三次安倍政権での日本の歴史認識に対する米国の反応の変遷は、安倍の歴史認識の変節によるものではなく、もともと安倍が有していた歴史認識が米国や国際社会に理解されやすいような形で発信された結果、それが米国の大勢に受容されたということができる。

[1] 衆議院予算委員会会議録 第183回国会予算委員会 第2号 2013年2月7日http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001818320130207002.htm

[2] 参議院予算委員会会議録 第183回国会予算委員会 第10号 2013年4月23日http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/183/0014/main.html

[3] “Japan’s Unnecessary Nationalism”, April 23, 2013, New York Times http://www.nytimes.com/2013/04/24/opinion/japans-unnecessary-nationalism.html?_r=0

[4] “Shinzo Abe’s Inability to Face History”, April 26, 2013, Washington Post

https://www.washingtonpost.com/opinions/shinzo-abes-inability-to-face-history/2013/04/26/90f5549c-ae87-11e2-a986-eec837b1888b_story.html?tid=a_inl

[5] “Japan-U.S. Relations: Issues for Congress,” May 1, 2013, Congressional Research Service Reports, http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf

[6] “Statement on Prime Minister Abe’s Visit to Yasukuni Shrine” December 26, 2013, US embassy of Japan  http://japan.usembassy.gov/e/p/tp-20131226-01.html

[7] http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/12/219160.htm

[8] “Risky Nationalism in Japan”, December 26, 2013, New York Times

http://www.nytimes.com/2013/12/27/opinion/risky-nationalism-in-japan.html

[9] “With Shrine Visit, Leader Asserts Japan’s Track From Pacifism”, December 26, 2013, New York Times  http://www.nytimes.com/2013/12/27/world/asia/japanese-premier-visits-contentious-war-shrine.html

[10] “Japanese Prime Minister’s Visit to War Memorial Was Provocative Act”, December 27, 2013, Washington Post  https://www.washingtonpost.com/opinions/japanese-prime-ministers-visit-to-war-memorial-was-provocative-act/2013/12/27/622bfe48-6f18-11e3-aecc-85cb037b7236_story.html

[11] 中山俊宏「大きな成果あった安倍訪米 国際秩序づくりで共同歩調示す」nippon.com 2015年5月21日 http://www.nippon.com/ja/currents/d00180/

[12] “America’s Pacific Century”, October 11, 2011, Foreign Policy http://foreignpolicy.com/node/1002667?page=full

[13] “Remarks By President Obama to the Australian Parliament”, November 17, 2011

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/17/remarks-president-obama-australian-parliament

[14] “Quadrennial Defense Review Report” United States Department of Defense February, 2010, p.59

[15] ”National Military Strategy 2011”, Joint Chiefs of Staff, February, 2011

[16] Richard L. Armitage and Joseph S. Nye “The U.S.-Japan Alliance anchoring stability in Asia”, CSIS, August, 2012, p.7-8 https://www.ciaonet.org/attachments/21712/uploads

[17] 木宮正史「構造変容に直面し漂流する日韓関係」木宮正史・李元徳『日韓関係史1965-2015Ⅰ政治』東京大学出版会、2015年、p.6

[18] 渡部恒雄「オバマ政権のアジア回帰政策―韓国の役割と日本の歴史認識―」谷内正太郎『日本の安全保障と防衛政策』ウェッジ、2013年、p.55-59

[19] Bruce Klingner and Derek Scissors “Japan Should Prioritize Future Policies over Revising the Past”, the Heritage Foundation, July 22, 2013 http://www.heritage.org/research/reports/2013/07/japan-elections-security-and-economic-reforms-after-ldp-s-landslide-victory

[20] 中村登志哉「広報外交の組織的強化とその課題―第2次安倍政権を中心に―」名古屋大学大学院国際言語文化研究科『言語文化論集』36(1) 、2014年、p.95-110

[21] 読売新聞政治部『安倍官邸vs習近平 激化する日中外交戦争』新潮社、2015年、p.152

[22] 宮家邦彦「安倍首相の米議会演説に沈黙の中国、孤立する韓国」Japan Business Press

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43686

[23] 米国連邦議会上下両院合同会議における安倍総理大臣演説「希望の同盟へ」外務省http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page4_001149.html

[24] 村山内閣総理大臣談話「戦後50周年の終戦記念日にあたって」外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/07/dmu_0815.html

[25] 読売新聞政治部『安倍官邸vs習近平 激化する日中外交戦争』新潮社、2015年、p.141

[26] Joint Press Conference, Australia Embassy of Japan, July 8, 2015 http://australia.or.jp/en/speeches/?id=102

[27] “Welcoming the new Japan The Prime Minister’s historic visit aids trade and stability” THE AUSTRALIAN, July 9, 2014 http://www.mofa.go.jp/p_pd/ip/page4e_000107.html

[28] 国連創設70周年記念シンポジウムにおける安倍総理スピーチ「日本にとって国連とは何か」外務省http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp_a/page3_001135.html

[29] アジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議における安倍総理大臣スピーチ「Unity in diversity~共に平和と繁栄を築く」外務省http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page3_001191.html

[30] アジア・アフリカ首脳会議における小泉総理大臣スピーチ 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/17/ekoi_0422.html

[31] 櫻田淳「新局面開く首相のバンドン演説」産経新聞 2015年4月27日http://www.sankei.com/column/news/150427/clm1504270001-n1.html

[32] Daily Press Briefing, U.S. Department of State, May 1, 2015 http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2015/05/241412.htm#JAPAN2

[33] Bruce Stokes “Americans, Japanese: Mutual Respect 70 Years After the End of WWII” Pew Research Center, April 7, 2015

[34] 中山俊宏「大きな成果あった安倍訪米 国際秩序づくりで共同歩調示す」nippon.com 2015年5月21日 http://www.nippon.com/ja/currents/d00180/

[35] 岡崎久彦「訪米から見えた保守の優先課題」産経新聞、2013年3月8日

[36] 安倍晋三『新しい国へ 美しい国へ 完全版(Amazon kindle版)』文春新書、2012年、No.163

[37] 同上、No.266

[38] 同上、No.255

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佐野裕太の論考

Thesis

Yuta Sano

松下政経塾 本館

第34期

佐野 裕太

さの・ゆうた

Mission

日本の広報文化外交、アジア太平洋地域の国際関係

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