論考

Thesis

寄付月間公式認定企画「GoToドネーション」に込めたメッセージ ~日本の寄付文化醸成には何が必要か?~

近年、自然災害の激甚化や社会課題の複雑化によりNPOへの社会的要請は高まっており、さらに新型コロナウイルスの流行によって「共助」の力がこれまで以上に求められている。「日本には寄付文化がない」とも言われる中で、本レポートでは寄付税制にフォーカスし、寄付文化醸成のために求められる施策を考察する。

はじめに

 認定NPO法人日本ファンドレイジング協会が発行している「寄付白書2017」によると、2016年に金銭による寄付を行なった人の割合は45.4%で、寄付金額の平均値は27,013円、中央値は4,000円である。東日本大震災が発生した2011年をきっかけに日本国内の寄付市場は拡大し、その前後で比較すると年間の個人寄付推計総額は約2,000億円増加している。しかし、個人寄付額の名目GDP比に着目すると、日本(名目GDP比0.14%)はアメリカ(同1.44%)の約10分の1、イギリス(同0.54%)や韓国(同0.50%)の約4分の1に留まり、国際的に見てかなり低い水準であることが分かる。


[画像1] 個人寄付推計総額・個人会費推計総額・金銭寄付者率の推移
(日本ファンドレイジング協会ウェブサイト「調査研究(寄付白書)」より https://jfra.jp/research , 2021年1月24日最終閲覧)

 宗教的背景や歴史的経緯から「日本には寄付文化がない」といった声も多く聞かれる。しかし、近年は自然災害の激甚化や社会課題の複雑化によりNPOへの社会的要請は高まっており、さらに新型コロナウイルスの流行によって「共助」の力がこれまで以上に求められている。日本社会は今後どのように「寄付をする側 / される側」双方のリテラシーを高め、より良い寄付文化を醸成し、社会課題解決の取り組みを推進する力を高めていけるのか。その一つの切り口として、本レポートでは日本の「寄付税制」に着目する。2020年12月に取り組んだ社会啓発キャンペーンの内容およびそれに対する反響を紹介し、日本の寄付文化醸成のために必要なものは何かを考察する。

日本の寄付税制の特徴と課題

 日本では、NPO法人への寄付を促すことによってその活動を支援するという目的で、税制上の優遇措置である「認定NPO法人制度」がスタートした。平成13(2001)年度の税制改正で、国税庁長官の認定を受けたNPO法人への寄付を寄付金控除等の対象とする特例措置が講じられた。その後累次の税制改正等により、認定要件の緩和、認定手続の簡素化、認定NPO法人へのみなし寄付金制度の導入などが行われ、平成24年4月からは所轄庁(都道府県の知事又は指定都市の長)が認定する新たな認定制度が開始した。 認定NPO法人になるためには、運営組織や経理の適切さや、事業内容の公益性の高さ、また法令違反がないことなどの8つの基準を満たす必要があり、加えて反社会的組織との関わりなどの欠格事由に該当しないことも要件となる。設立後5年以内のNPO法人については、認定要件の一つである「パブリック・サポート・テスト」[注1]が免除される形で税制上の優遇措置が認められる「特例認定」を1回に限り受けることができる。


[画像2] 認定・特例認定までの流れ
(内閣府NPOホームページ「認定制度について」より https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo-kisochishiki/ninteiseido , 2021年1月24日最終閲覧)

 個人が認定NPO法人等に対して寄付をすると、「所得控除」もしくは「税額控除」のいずれか[注2]を選択して確定申告を行うことにより、所得税の控除を受けることができる。これにより最大で寄付金額の約40%の所得税が返ってくる計算となり、また条例で個別に指定されている寄付についてはそれに加えて個人住民税の控除も受けることができる。 多くの人にとっては「税額控除」の方が税制優遇の効果が大きく、例えば5万円の寄付をすると、下記の算出式により所得税が19,200円安くなる。つまり、個人は実質30,800円の負担で団体側(認定NPO法人)は5万円の寄付を受け取ることができる。

 ● 税額控除算出式の例: (50,000円 – 2,000円) × 40% = 19,200円

 日本の認定NPO法人制度は、その団体が広く市民から支援されていることを認定基準の一つにしている点(つまり公益性を政府だけでなく市民が判断する制度設計)がユニークであり、また寄付金額に対する税制優遇の割合も諸外国に比べて大きく、非常に先進的な制度であると言えよう。しかし、この寄付の税制優遇は広く認知されているとは言えず、内閣府が行った調査[注3]によると、寄付をしたが所得税の控除制度を利用しなかった理由のトップは「寄付金控除制度について知らなかったから」であり、実に4割以上の回答者が理由に挙げている。 ますます寄付の重要性が高まる日本社会において、その文化醸成を推し進めていくためには、これまで約20年にわたり制度面で整備が進められてきた「寄付の税制優遇」を広く普及させることは一つの大きなカギになると考える。

[注1] パブリック・サポート・テスト(PST)とは、広く市民からの支援を受けているかどうかを判断するための基準。PSTの判定には「相対値基準」「絶対値基準」「条例個別指定」のいずれかの基準を選択できる。-「相対値基準」・・・経常収入のうち寄付収入の占める割合が5分の1以上。-「絶対値基準」・・・3,000円以上の寄付者数が年平均100人以上。-「条例個別指定」・・・事務所のある都道府県又は市区町村の条例により、 個人住民税の控除対象法人として個別に指定を受けている。
[注2] 「所得控除」を選択すると、寄付金額から2,000円を差し引いた金額をその年分の総所得金額から控除でき、「税額控除」を選択すると、寄付金額から2,000円を差し引いた金額の40%相当額をその年分の所得税額から控除できる。
[注3] 令和元年度「市民の社会貢献に関する実態調査」
( https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/shiminkouken-chousa/2019shiminkouken-chousa , 2021年2月28日最終閲覧)

寄付月間公式認定企画「GoToドネーション」

(1) 寄付月間とは 毎年12月を「寄付月間(Giving December)」とし、寄付文化の醸成に向けた取り組みを推進する試みが2015年から始まっている。寄付月間は、複数のNPOや企業に加え、内閣府や東京大学などによって構成される推進委員会(委員長:小宮山宏氏 三菱総合研究所理事長、事務局長:鵜尾雅隆氏 日本ファンドレイジング協会代表理事)が企画運営を行なっている。その中心となる取り組みとして、寄付月間の趣旨に合致するイベントやシンポジウム、講演会、キャンペーンを募り「公式認定企画」として認定し、当該企画についてロゴの提供、寄付月間HP上での告知、プレスリリースなどのサポートをしている。

(2) 企画実施内容 筆者は、2020年12月の寄付月間公式認定企画に認定された「GoToドネーション」という社会啓発キャンペーンに携わった。本キャンペーンは、筆者がマネジメント統括として参画しているソーシャルアクションカンパニー株式会社の試みである。


[画像3] GoToドネーション特設サイト トップ画面

 「GoToドネーション」は、政府が主導するGoToトラベルやGoToイートなどの「GoToキャンペーン」を踏まえたパロディ施策であるが、認定NPO法人の寄付税額控除を広く、そして正しく周知するために非常に作り込んだキャンペーンである。”本家”であるGoToトラベルの公式サイトなどのデザインや構成を意識した特設サイト( https://goto-donation.org/ )を作成し、認定NPO法人の認定基準や寄付の税額控除などについて分かりやすいデザインと共に説明している。


[画像4] 認定NPO法人についての説明(GoToドネーション特設サイト内)


[画像5] 寄付の税制優遇についての説明(GoToドネーション特設サイト内)


[画像6] 税額控除を受ける手順についての説明(GoToドネーション特設サイト内)


[画像7] 「よくあるご質問」として補足情報を掲載(GoToドネーション特設サイト内)

 本キャンペーンのそもそもの出発点は、クーポン券や割引が適用される各種GoToキャンペーンが国民の一大関心事となる一方で、それよりもはるか前から制度として整備されてきた寄付の税制優遇が非常に低い認知度に留まっていることへの問題意識である。すなわち、「旅行代金が国の制度で35%安くなる」という新しい情報に飛びつくだけでなく、「寄付をしたら国の制度で税金が約40%安くなる」という情報を、同様に日本社会を支える大切なメッセージとして社会に啓発していかねばならないという想いを形にしたキャンペーンである。 特設サイトには、本キャンペーンの趣旨に賛同してくださる認定NPO法人の情報を掲載し、そこから実際に寄付の決済もできるように設計した。サイト公開時には、子どもへの支援を行うキッズドア基金やPIECES、国際協力NGOのテラ・ルネッサンス、地球市民の会、e-Education、そして障害者福祉に取り組む静岡市障害者協会の6団体が掲載団体となり、プレスリリースも行なった。

(3) 反響と今後の展望 特設サイト公開後にはSNSを中心にキャンペーンの広報活動を行なったが、多くの人から「わかりやすい、勉強になった」「寄付控除はなんとなく聞いたことがあったが、内容については初めて知った」といったポジティブな声が集まった。 また、特設サイトの作成に加えて、掲載団体の一つであるテラ・ルネッサンスの栗田佳典氏をゲストに迎えてfacebook LIVEの配信も行ない、筆者はそのモデレーターを務めた。LIVEのトークセッションでは認定取得時および取得後のリアルに迫り、その中で「認定NPO同士の横のつながりが弱い」「認定取得を考えているNPOが先輩NPOに相談しやすい環境になっていない」といった課題も浮かび上がってきた。寄付月間終了後も、GoToドネーションのキャンペーンページは常設公開することを決定したが、浮かび上がった現場課題の解決にも取り組むため、認定NPOおよび認定取得希望のNPOの繋がりを生み出し、組織基盤の強化を推進できるプラットフォーム事業へと発展させていくことを計画している。 特設サイトの掲載団体には、ページ公開後1週間で複数の寄付申し込みが生まれており、団体へのファンドレイジング協力という形でもより貢献をしていきたい。寄付月間終了後に新たな団体から掲載希望の問い合わせもきており、一過性の打ち上げ花火のようなキャンペーンにさせることなく、あくまでキャンペーンを「出発点」として寄付文化醸成に資する取り組みへと発展させていきたい。

おわりに

 本レポートでは、日本の「寄付税制」に着目し、GoToドネーションの取り組みを交えながら、日本の寄付文化醸成のために必要なものは何かを検討した。 前出の各種データを踏まえても、世界第3位の経済大国日本において、寄付市場拡大を通じたNPOの事業発展や基盤強化の可能性は大きい。そのためには、日本の先進的な寄付税制に関する知識の普及啓発をさらに推し進め、寄付行為をより身近なアクションへとシフトさせていく必要がある。 しかし、GoToドネーションの準備を進める中でネガティブな状況も見えてきた。複数の認定および特例認定NPO法人のスタッフとやりとりを重ねたが、寄付の税額控除について正しく理解していない方や、場合によっては自団体が税制優遇の対象団体であることを認識していないケースも存在した。 各団体が厳しい財政状況の中、限られた人員で組織を運営しているため、事務局機能を1人のスタッフが担っていたり、新規採用したスタッフの研修にリソースを避けなかったりという情報は多く耳にする。こうした状況を踏まえ、NPOセクターの組織課題を解決するための外部環境整備も重要であり、筆者もこの領域で積極的に活動を行なっていきたいと考えている。より多くの人に税額控除を有効活用してもらうと共に、寄付を受け取る団体側のリテラシー向上や人材育成、そして団体同士のネットワーキングや協働施策の推進に貢献していきたい。

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薄井大地の論考

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Daichi Usui

薄井大地

第39期

薄井 大地

うすい・だいち

ソーシャルアクションカンパニー株式会社 取締役 COO

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