論考

Thesis

72時間ネットワークの試み

阪神淡路大震災では、様々な団体が精力的な救援活動を見せ、人々のボランティア活動への関心も高まった。そんななか、救援団体同士を結びつけた「72時間ネットワーク」が誕生した。ネット設立の目的や過程について報告する。

昨年の阪神淡路大地震には、松下政経塾からも2人の塾生が救援と調査のため現地へ入ったが、このとき2人は、長田区役所内に設置されたAMDA(アジア医師連絡協議会)の現地事務所を利用させてもらった。

 この縁がきっかけとなって、昨年4月に東京で行われた「阪神大震災総括フォーラム」に松下政経塾も参加した。このフォーラムは阪神大震災で救援活動にあたった団体が集まって開いたものである。フォーラムでは、「災害発生から72時間以内は地方自治体や国に比べて、民間団体がより効果的に活動できることがわかった」(サンフランシスコ地震以降、災害発生から72時間までは民間が絶対優位、72時間から2週間は、民間の相対的優位、であることが常識となったと言われている)という意見や、「緊急事態に対する準備が十分に行われていれば、各NGOやボランティアが、相互の専門性、特徴を活かして、より効果的で円滑な救援活動を行える」など活発な意見交換が行われた。

 さらに席上で、「この経験を活かし、今後、日本国内で大災害や緊急事態が発生した場合に備え、より効果的な救援活動が行える、各団体の専門や特徴を活かしたNGOのネットワークを構築しよう」という案が出された。

 そこで、この提案を受け、昨年9月、AMDAやカンボジアの子どもに学校を作る会(JHP)など4団体が中心となって、72時間以内に救援活動に赴くことを目的とした「72時間ネットワーク(略称72ネット)」を発足させた。96年4月現在では、松下政経塾を含め5団体が運営団体として参加している。

 参加の条件は、緊急事態が起きた場合、72時間以内に日本全国どこへでも出動できる意志と能力を持っていることである。しかし、ネットワークに参加したからといって、常に救援活動に加わらなくてはならないという制約はない。出動するかどうかの判断は各団体に任せられている。各団体の合意を得て動き出したのでは遅すぎるからである。参加条件にはこの他、地方自治体や自衛隊等関係行政機関と連携をとりながら緊急救援活動に参加できることなどがある。

 とはいえ、各団体がそれぞれ救援活動を行ったのではネットの意味がなく、活動も非効率になる恐れがある。そこで「72時間ネットワーク」では、平常時から中心的な役割を果たす運営団体、緊急時の協力を中心とする参加団体、賛助団体と、役割を分けている(図参照)。ネットワークの意志決定は、各運営団体から出された運営委員が組織する運営委員会によって行われる。

 活動内容は平常時と緊急時で違うが、ここでは平常時も緊急時同様に重視している。救援経験の豊富なAMDAの提案によるものである。「ボランティアであっても、プロフェッショナルとして活動すべきである」。平常時の教育や研究があってこそ、緊急時に迅速で的確な対応が可能となる。

 緊急時の活動は、原則として72時間以内に活動を開始し、2週間で収束させることになっている。活動の中心を医療や物資補給など緊急救援に置いているからである。したがって生活支援型の活動は行わない。これらの基本原則に加えて、現在、より具体的なレベルでの合意事項づくりと基本装備の充実を進めている。

 基本装備とは、たとえば通信インフラの整備などである。阪神淡路大震災で明らかになったように、緊急時には連絡網の確保が欠かせない。そこで、災害に強いインターネットやパソコン通信を各団体間の連絡調整の基本インフラとして整備しようというのである。ただこれにはお金が集まりにくいという問題点がある。事業費など目に見える活動に対しては協力を得やすいが、事務費など地味な分野には、なかなか協力が得られないのが実状である。

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桑畠健也の論考

Thesis

Kenya Kuwahata

桑畠健也

第9期

桑畠 健也

くわはた・けんや

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)本部NARO開発戦略センター 主席研究員

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