論考

Thesis

15代韓国大統領選挙の行方

文民政権・金泳三政権が発足してから5年。21世紀へと韓国を導く次期大統領が、今月、誕生する。韓国政治・経済・社会を概観しながら大統領選挙の行方を追う。

◆定着した民主主義

 韓国では、この12月18日(木)に、15代大統領選挙が行われる。主な立候補者は与党が李会昌(イ・フェチャン)氏(62 )、第1野党の新政治国民会議が金大中(キム・デジュン)氏(71)、そして前京畿道知事で国民新党を結成した李仁済(イ・インジェ)氏(48)の3氏である。

 金泳三大統領が3代、30年続いた軍部独裁政治を精算するために、95年に元、前大統領の逮捕に踏み切ったことは比較的記憶に新しい。韓国の民主化が具体化してくるのは、民主化運動に抗しきれずに87年に民主化宣言が出されて以後のことであり、金泳三政権の役割は文民色を前面に出すことであった。文民統制の徹底と政治腐敗の根絶を政策の柱にした金泳三政権下、文民統制は徹底化され、民主化に関しては総論の次元から各論の次元へと移った。

 今年の7月に行われた新韓国党の全党大会でも、各論次元の問題として初めて与党内で大統領候補者を選出する選挙が行われた。6人が立候補し、権謀術数はあったものの、最高裁判事を務め、清新なイメージをもつ法曹界出身の李会昌氏が選出された。ただ、この時は韓宝不正融資事件による次男の逮捕と92年の大統領選挙資金疑惑から、金詠三大統領が後継指名を断念せざるを得なかったという経緯があり、政治腐敗に関しては今後の課題となっている。

◆政治腐敗を招きやすい現行制度

 韓国の政治腐敗に関しては大統領制という制度のためであるという見方がある。つまり、大統領個人に権力が過度に集中しているために、政治腐敗が起こりやすいという考え方である。この点について、以前から議院内閣制の必要性を訴えていたのが2回目の挑戦であった自由民主連合の金鐘泌(キム・ジョンピル)氏(71)である。彼は、議員内閣制に移行するために憲法改正を問う国民投票の実施を主張していた。これに対し、政権交代の必要性を声高に訴え、4回目の悲願達成をめざす金大中氏が内閣制改憲に歩み寄りを見せ、自身による野党候補の一本化を実現した(10月28日)。

 また、大統領制度の弊害として考えられているのが地域主義の助長である。選挙戦の加熱による地域間の軋轢が発展の不均衡につながっている。ちなみに前回の選挙では4人が立候補したが、金泳三大統領が大邱市(58.9%)、釜山市(72.6%)、慶尚北道(63.6%)、慶尚南道(71.5%)の得票をしたのに対し、金大中氏が光州市(95.1%)、全羅北道(88.0%)、全羅南道(91.1%)の得票をしている。今回の選挙では過去4人の大統領を出した慶尚道地域出身の候補者はおらず、地域主義も新たな様相を見せると思われる。

◆リードする野党候補

 韓国は、96年12月にOECD( 経済協力開発機構)に加盟し、先進国入りを果たした。今年7月には、韓国銀行(中央銀行)と民間経済研究所が、97年度の実質経済成長率を上半期5.6%、下半期6.3%と予測、年間成長率を6.0%と発表している。しかし、これらの好数値の背景には、円高や国内外における経済環境の一時的な好転が関係しており、基盤が脆弱な国内企業の構造調整や競争力強化のためではないという分析がなされている。今年になって韓宝、三美といった中堅財閥が倒産したのをはじめとして、最近では十大財閥の一つである起亜グループが経営危機に瀕している。

 大統領選挙で経済が主要争点に浮上した場合、有利とみられていたのが、韓国銀行総裁を務めた経歴をもつ民主党の趙淳氏(69 前ソウル市長)であったが、同党、同氏は新韓国党との合党を宣言、統一候補を李会昌氏とし反三金勢力の結集、きれいな政治、確かな経済を目指すと約束した。

 前京幾道知事の李仁済氏は、韓国経済発展のレールを敷いた朴正煕大統領に風貌が似ており人気を博している。48歳と最年少の候補者であり、世代交代を訴えて選挙戦を戦える強みをもっている。

 以上、韓国の政治、経済、社会を概括しながら各候補者の主要政策、経歴に触れた。今回の大統領選挙では、初めて候補者のテレビ討論会が開催されている。大統領選挙に多額の資金がかかりすぎるため、韓国テレビ局三社(KBS、SBS、MBC)が実施しているものである。本稿執筆時(11月10日)までに7回行われ残すところ1回となっている。色々と新しい容貌を見せている今回の韓国大統領選挙であるが、野党候補が事前世論調査で与党候補をリードしているのも初めてのことである。国民会議の金大中氏が8月以降の各世論調査で軒並み好成績を収めている。新韓国党が金大中氏の秘密資金を暴露し攻勢をかけているにもかかわらず好調である。11月8日に朝鮮日報社、MBC放送、ギャラップ・コリア社が実施した世論調査では、支持率が金大中可能性があるかとの問いには52.7%、つまり半分以上の人が金大中氏が勝つと答えている。しかし、韓国政治の現状をよく知る人の中には、この様相をプロレスのバトルロイヤルにたとえる人もおり、最後の最後までわからないのというのが正直なところである。


(せきぐちひろき 1970年東京都田無市生まれ。早稲田大学卒業後、松下政経塾に入塾。現在、「未来志向」の日韓関係をテーマに韓国で研修中。)

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関口博喜の論考

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