論考

Thesis

日本一のエビで地域おこし

元気のない日本だが、21世紀を目前にひかえ、再生の芽はあちこちで生まれようとしている。中でも過疎に悩む地域から活性化を図る「地域おこし」は、一極集中で頭でっかちな”もろい日本”の体質改善を促す大きな役割を期待される。郷里・天草に帰ってエビ養殖一筋に16年――。地域おこしの最前線に立つ松中祐二塾員に、その”走りっぷり”を語ってもらった。

九州最西端の熊本県天草で車エビの養殖を始めたのは16年前。私の生涯のテーマ「地域おこし」を政経塾で追求した結果、地形、水温と豊富なプランクトンに恵まれた郷里天草の海で、産直ギフトとして需要拡大が予測された車エビの養殖というプランができあがったのだ。しかし、いざ実践となると、苦労の連続。工事の資金をやっと工面して5000平方メートルの池を作り、稚魚の飼育を始めたが、生き物なので神経は使うし、覚悟していたが長い休みは取れない。夜行性のため、餌をやるのは夕方と夜の11時ごろ。夏場の取り入れは早朝4時半になることもあり、日中と合わせるとかなりの長時間労働となる。細心の注意で育てても、雷による停電で水車が止まり、酸欠で半分のエビが死んだこともある。7年前には中国から買いいれた稚魚がウィルスにやられてほとんど死滅、目の前が真っ暗になった。在庫の判断も難しい。創業当初、注文を取りすぎてエビが不足し、買い付けに走り回った。振り返れば、バブル崩壊、消費低迷、外国の参入、O-157問題など危機の連続だった。しかし、逃げずに改善を重ねて乗り切った。運が良かったこともある。おかげで今では、少々のことには動じない気構えも出てきた。

 「エビがわかるようになるには一朝一夕ではいかない。10年はかかる」と、走り続けてきて、着実に成果は上がってきた。当初、2トン足らずだった年間出荷量は、昨年は8トンを上回り、約1万5,000箱を全国の産直会員、大手デパート、スーパーに送り出した。高級ギフトとして好評をいただいている。養殖池も合計5面、9000平方メートルに広げた。地域おこしとしても、過疎の町で、数十人の雇用を生み出し、町の特産品となり、後発企業も2社生まれた。
 私は社名を「幸福堂」と付けた。おいしさは万人共通の幸福の源である。多くの人の幸せのために、車エビでの経験を元にして、タイ、トラフグなど高級魚の養殖、さらにはその観光化など第二第三の夢に挑戦したいと意欲をもやしている。

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松中祐二の論考

Thesis

Yuji Matsunaka

松下政経塾 本館

第2期

松中 祐二

まつなか・ゆうじ

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