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外交・防衛
2018年11月

『国防の決意』としての自衛隊装備
小甲顕史/松下政経塾第37期生

本レポートでは、これからの自衛隊装備品(戦闘機、潜水艦など)の開発の在り方について提案する。(1)装備品に係る産業財産権を活用すること、(2)日本版FMSを創設することを主軸として、さらにそれぞれの産業が持つ”地域性”を追究するものである。

 

【目次】
Ⅰ はじめに
Ⅱ 『防衛産業』とは何か?
 1 特徴について
 2 近年の防衛産業が直面している課題
Ⅲ 自衛隊装備、防衛産業がなぜ『国防の決意』に関連するのか?
Ⅳ 自衛隊装備品開発の在り方の私案
 1 筆者が考える『国防の在り方』
 2 国防の在り方を受けての『自衛隊装備品開発の在り方』
 3 具体的な施策案
Ⅴ 筆者のこれまでの活動と今後の実践について
Ⅵ おわりに

Ⅰ はじめに

 “技術報国”という言葉をご存知だろうか?
 —この言葉は、大日本帝国海軍・都築伊七中将の遺した言葉である。現在は石碑となり、目黒区に存在した海軍技術研究所(現在の防衛装備庁・艦艇装備研究所)において、今も自衛隊の装備開発を見守っている(1)。周知の通り、日本は資源に乏しく物量で劣る現状を、人々の英知や努力で克服し、幾多の困難を乗り越えて来た。従って“技術報国”という言葉は、珠玉の明言であり未来永劫、日本が存在する限り色褪せる事はないであろう。
 技術については、日本のみならず、世界において正に指数関数的な速度で進化している。今日、AI/IoT、Society5.0、シンギュラリティ…など、技術に関わる言葉が日に新たに生まれ、人々の社会に浸透して行く。こうしたメガストリームは、あらゆる国、あらゆる技術・産業分野に押し寄せ、勿論、日本の自衛隊装備に関わる産業(本レポートでは、以下では『防衛産業』と呼ぶ。)においても例外ではない。自衛隊装備品(例えば、戦闘機や潜水艦など)は、高度な技術に立脚する事が多く、その生産を担う防衛産業は特にその波の影響を受けやすいのである。防衛産業が『技術により国に報いる』には、角逐すべき相手が日に日に強力になって行くことから、これまで以上の努力が求められる。

 その他にも日本の防衛産業を取り巻く、日本ならではの特殊な環境がある。言わずもがな、日本は先の大戦で敗北した。その結果、軍備など戦争に供する物質的な力を否定することから、戦後日本の再興は始った。先達の努力により、現在はそうした状況はかなり改善されて来ているが、やはり戦後のGHQによる徹底した武装解除、武器生産能力の収奪の後遺症は残っているところである。具体的には、日本の産業に武器(航空機等)の生産を禁じ、世界から分断し、生産力を削いだ上で国内のみに留まらせたのである。しかしながら、国内外の様々な事情により世界へ閉ざされていた門は近年開放されつつある。このことは、日本の防衛産業が世界へと漕ぎ出せるとともに、世界からも日本へと強大な船が入って来られることを意味する—言ってみれば21世紀版の黒船』が日本に押し寄せ、日本の防衛産業と相対する可能性が出て来たのである。

 防衛産業について、大別して、①防衛力そのもの、②いわゆる産業、③科学技術の3つの見方があると言われている。現代の国防は高度な科学技術力の結集である防衛装備に裏付けられていることは広く知られており、①と③の理解は進んで来ていると思われる(特に防衛力としての位置付け)。一方で、防衛産業も通常の産業と同じく、生産活動により企業の発展を追求して行く立場であることはあまり指摘されることはない。そのため、本レポートでは、防衛産業を②及び③(特に産業)の観点から捉え、考察して行くこととしたい。

 その上で、防衛産業に関する大きな2つのトピック、
  ①防衛産業がどの様に技術で国に報いるか、
  ②防衛産業がどの様に21世紀版の黒船と対峙するか、
 について、私案を述べ、その私案の実証に関する筆者の実践・方針について述べて参りたいと思う。そして、その活動をもって、自衛隊装備そのものが日本の『国防の決意』となることを示して行きたいと考える。

Ⅱ 『防衛産業』とは何か?

1 特徴について
 先ほどから幾度も述べている、『防衛産業』の特徴について、本章で説明しておきたい。前章では、防衛産業を日本の自衛隊装備に関わる産業と述べたが、さらに具体的には“最終需要者が防衛省であり、自衛隊が使用する装備品や燃料、その他糧食を供給する産業”を指す。従って、電気通信産業や自動車産業の様に近い技術分野によって構成される産業ではなく、あらゆる技術分野を網羅的に包含する産業である。産業のうち、防衛産業だけが持つ特徴について、以下に列挙する。
①防衛産業の製品の供給先は、これまで武器輸出三原則(2)等の関係から、実質的に防衛省(旧防衛庁)に限られていた。そのため、他の産業に見られるコスト削減や輸出によるマーケット拡大が事実上図れないといった特徴がある。また、供給先が防衛省に限られていたため、仕様は調達数量が全て需要側により決定される特徴もある。
②自衛隊装備品に係る予算については、近年微増しているが、大幅な増加については今後も難しい状況である(3)
③米国、欧米諸国では企業全体の売上のうち防衛部門の売上の割合が8割を超える防衛専業メーカーが存在する。一方、我が国の防衛産業では、プライム企業の防衛部門の売上は数%~10%程度に留まり、防衛部門の事情は企業の経営判断に殆ど繋がらず、企業の統合・再編による業界における効率化などが難しい特徴がある。一方で、中小企業等のサプライヤー企業に関しては、売上の5割以上を防衛省が占めるものもあり、防衛産業における業界内においても差が顕著である。
④防衛省と大学、企業の間の産学官連携に対して、軍事研究を促進につながるとして日本学術会議が懸念を表明している(4)。そのため、防衛産業及び防衛省が関わる産学官連携は、その他産業の産学官連携よりもハードルが高いと考えられる。
 これらの特徴は、防衛産業にとって今後の課題となりえるものである。こうした課題を克服してゆくことが、将来にわたる防衛産業の発展の鍵となる。

2 近年の防衛産業が直面している課題
 前章では、防衛産業の一般的な特徴・課題について述べた。ここで具体例を示して、どのような課題があったかを述べたい。

(1)戦闘機に関して
 F-4戦闘機の後継機として、F-35A戦闘機が選択され、三沢基地をはじめとして、徐々に日本全体に配備されてゆく予定である。いずれの戦闘機も米国にて研究開発されたものであるが、F-4とF-35Aの生産方式は決定的に異なる。
F-4については、米国から設計図などを供用され、日本の各防衛産業が設計図に基づき生産している(ライセンス生産)。一方で、F-35Aは米国及び米国の共同開発国(英国など)が生産した完成品を直接購入するものである(対外有償軍事援助制度、FMS : Foreign Military Sales(5))。直接購入という取得の性質上、日本の防衛産業が、F-35Aの生産に携わることは殆どない(6)。F-35Aについて、日本の防衛産業の利益が無いFMSにせざるを得ない原因としては、2000年頃から開始されたF-35Aに関する国際共同開発のチームに初めから参画していないことにある。当時は、武器輸出三原則が華やからしき頃であり、日本が米国や英国などと戦闘機を共同で開発することなど、全く俎上にすら上がらなかった時代である。こうした事実を鑑みると、日本は時代に不適切となった武器輸出三原則によって自縄自縛し、自ら国際的に不利な側面を作り上げてしまったのである。こうした過去の反省を鑑み、政府は新たに防衛装備移転三原則(7)を策定し、F-2戦闘機の後継機である『将来戦闘機』については、他国との共同で開発出来る可能性を担保したのである。
 このことは、航空自衛隊は、これまでハイスペック(F-15)及びミドルスペック(F-4)の2機種の外国製戦闘機と、国内開発戦闘機(F-2)を同時並行で運用し、作戦運用の多様性・抗たん性を担保する『3機種態勢』を採用しており、F-2後継機である将来戦闘機は国内開発又は日本主導の国際共同開発を採用することが原則だからである。
 しかしながら、平成20年頃から将来戦闘機の研究開発の在り方について議論がなされているが、未だ具体的な方針が定まらず、同時に戦闘機に関わる防衛産業にとっても経営判断をするのに材料がない状況が継続している。そうした中において、政府はF-35BについてもFMS購入を決定した。そのため、国内防衛産業に投資される防衛予算はさらに縮小され、状況はさらに困難になることが予想され、戦闘機分野から撤退する産業すら見込まれるところである。国内産業の衰退は生産力低下に直結し、空自が採用している国内開発戦闘機を含む3機種態勢の維持が困難になることが予想されるところである。
 さらに言えば、国際共同開発による生産を採用したとしても、共同開発国が当該戦闘機を運用しない場合は日本の防衛産業の市場拡大に繋がらず、販売・運用までを含める“実質的”な共同開発とはならないと考えられる。政府が掲げる、いわゆる“日本主導”の国際共同開発についての定義が曖昧であり、この点においても後に述べる防衛装備移転三原則の運用を含め、産業の経営判断には具体的に供しない課題がある。

(2)潜水艦に関して
 日本における海自潜水艦は、通常動力の潜水艦としては世界最高水準を誇るとされており、多くの国が注目するところである。実際に2015年には、オーストラリアへの移転(輸出)が検討された。結果としては、入札においてフランスの潜水艦が採用されたが、この案件により様々な課題が発見されたといえる。
 最たるものとして、装備を移転することによる、技術流出の可能性である。技術流出を予防する方法としては、①ブラックボックス化(装備の重要部分に係る技術を秘匿すること)、②ダウングレーディング化(自国で用いる装備品よりも能力的に劣後した装備品を生産すること)などが挙げられる。いずれの方法についても、武器輸出をする上では必須の手段であり、もちろん日本の同盟国である米国についても、日本に武器輸出をする際には、必ずこれを講じた上で移転している。一方で日本の防衛産業においては、こうした手段を講じたことも、制度設計もなされていない。したがって、仮にオーストラリアに潜水艦を移転したならば、機微技術が流出していた可能性が否定できないのである。
 また、潜水艦といった大型の防衛装備品は、維持管理において、巨額の資金や多くの技術者を必要とし、潜水艦の生産及び維持管理に関しては、1つの企業・国家の範囲を超越した、産業システムと考えることが妥当である。(※事実、豪国では潜水艦を製造する専門企業を創設している(ASC Pty Ltd)。この会社は、スウェーデン等の海外系企業を含む合弁会社であり、国内外の企業を広く含む。また、今回の潜水艦の入札案件では、入札国に豪国にて潜水艦製造工場を建設し、豪国人を製造者として採用することを要求している。)
 これまで、武器輸出三原則の制約があった日本の防衛産業は国内のみの装備品の維持管理のみを予想して、人員・予算配分をしている。そのため、本案件を仮に日本が落札したとしても、移転後のオーストラリアの潜水艦の修補などのアフターケアの実施は困難を極めていたであろう。
 政府が防衛装備移転三原則を採用し、日本の防衛産業を世界に開かれたものとする方針を打ち立てたとしても、その具体的方法や政府としての産業へのバックアップを明確にしない限り、それは画餅に等しく、仮に移転が実現したとしても、新たな売り上げに対して投資するべき資源が無いという、生産数・需要者が限られていたという現状とは異なる困難に日本の防衛産業は直面する可能性がある。

Ⅲ 自衛隊装備、防衛産業がなぜ『国防の決意』に関連するのか?

 前章では防衛産業の特徴、課題について述べた。
 一方で、自衛隊の作戦遂行の成否は装備品の充実如何によって決することが多い。先述の通り、防衛産業とは自衛隊が運用する装備品を一手に担う産業である。従って、どの様な生産を行うかについては自衛隊の作戦そのものであり、さらに言えば、①どの様に国を守るか、②日本がどの様に世界の平和に貢献するか、といった我が国の国防に関する意思をそのまま反映させるものである。
 従って、『国防の決意』に基づく、強固かつ具体的な安全保障に関する理念やビジョンが無いことには、数多の防衛産業の振興策を講じても効果は表層的に留まるか、むしろ逆効果である。例えば、集団安全保障体制により日本周辺の安全保障環境を安定化させ、日本の安全を確保するならば、世界の平和を希求する上で価値観を共有する同盟を結んだ上で、その同盟国と装備品を共同開発することが最適であると考える。何故ならば、同盟を最も強固にするためには、装備の共有でありこれにより同盟国の相互運用性 (interoperability) が格段に向上するからである(8)。一方で、日本の固有の戦闘力を担保したい場合は、予算の多寡に関わらず自国生産を目指さなければならない。他国に兵器生産を依存していると、国防の遂行にあたり、第一義にその相手国との関係を考慮しなければならず、国防政策の独自性が失われるからである。
 前章において、将来戦闘機の研究開発コンセプトが10年以上も定まらないのは、どの様に日本の空を守るかについて、日本としての決意が定まらないからであろう。どの様に国を守るかについて決意し、装備開発のロードマップを策定することにより、それに携わる防衛産業も経営・事業戦略を作成することが出来、政府においてもその経営・事業を支援する施策を講じることが出来るのではないかと思う。

Ⅳ 自衛隊装備品開発の在り方の私案

1 筆者が考える『国防の在り方』
 前章で述べた通り、自衛隊装備開発の在り方、防衛産業の支援策を講じるためにも国防の在り方が必要であると述べた。ここで私案であるが、今後の日本の国防の在り方について述べたいと思う。筆者は、“日米同盟を基軸として、さらに発展させた太平洋地域の広域安全保障体制を確立”することが将来の我が国の国防の在り方であると考える。
戦後、世界に最も強い軍事的影響力を持つ米国と軍事同盟を締結することにより、軽装備で自国の安全を保持して来た日本であるが現在の世界と北東アジアの軍事情勢を鑑みるに、最早そのような国防理念は通用しないことは明らかであり(9)、永久に形を変えずに続く軍事同盟など想定出来ないからである。そのためには、日本は独自の国防力を保持しつつ、米国以外の太平洋諸国との同盟などの安全保障協力がなせる状態にしておく必要があると考える。いわば“太平洋版NATO体制”を構築することが将来のあるべき日本の国防体制であると考える。

2 国防の在り方を受けての『自衛隊装備品開発の在り方』
 “独自の国防力を保持しつつ、米国以外の太平洋諸国との同盟などの安全保障協力がなせる状態”とは、装備品開発の観点からするとどの様な状況かを考えると、“装備品の独自開発をしつつ、同盟国間での共同開発をし得る状態”になると考える。
 別の言葉で言い換えると、広域安全保障体制を前提に自衛隊が作戦を遂行するにあたり、必要な装備を考察し、装備ごと・技術ごと独自開発か国際共同開発かを選定し得る状況が『自衛隊装備品開発の在り方』に関する私案である。
 この場合について、言葉の意味を正確に把握する必要があると考える。例えば、国際共同開発による装備品については、完成品は必ず同盟国がそれぞれ運用しなければならない。仮に、日本と米国の技術を結集させ装備品を完成させたとしても、その装備品を日本のみが運用する様であっては、国際共同開発と呼称することは不適当と考えられるからである。一方で、自国で保有するべきコアな技術と、他国の汎用的な技術を組み合わせて完成させた場合については、自国生産と考えても差し支えないと考える。
 結論としては、自衛隊装備開発においては、日本が国の独立を維持する上で不可欠な技術を選別することから始まると考えられる。

3 具体的施策案
 これまでの『自衛隊装備開発の在り方』を考察した上で、日本が取るべき具体的な施策に関する私案を述べたいと思う。

(1)防衛装備品に係る知的財産管理方法についての調査及び研究を実施すること
産業財産権とは、産業の研究開発活動により創出される知的所有権等を指し、例えば特許権などが挙げられる。下記の理由から、防衛産業が研究開発する防衛装備品に係る産業財産権について管理する方法を調査及び研究する必要があると考える。
 ①産業財産権は、産業の創作活動において重要な位置を占めている。この点は、創作活動を実施する以上、防衛産業においても他の分野の産業と相違はない。しかしながら、防衛装備品とはミサイルや戦闘機等の国家の安全に直接関連するものであり、それを構成する技術については、産業財産権による保護が必ずしも適切でない場合もある(10)。先行研究では、その様な安全保障等の国家の存立に影響を及ぼす可能性のある技術について、産業財産権制度が対応出来ていないことについて指摘するものもあり(11)、防衛装備品に係る技術情報を適切に管理(12)した上で、防衛産業の創作活動を活性化するためには、他の技術分野に係る産業財産権とは異なり、公開と利用を原則とするのではなく、一部公開を控え機密性を保持するなどといった、特段の取扱いをする必要があるといえるであろう。
 ②防衛装備品に係る産業財産権の管理の必要性について、国際調和及び国際信義の観点からの理由を挙げる。既に日本は米国との間で、『防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(いわゆる日米技術協定)』が締結されており、これに対応する国内法が求められる(13)が、条約を履行するための具体的な産業財産権制度に関する法律等が米国に比して乏しい(14)といえる。また先述の通り、日本は防衛装備移転三原則に基づきF35A戦闘機に関する国際後方支援システムに参入していることや、オーストラリアへの海上自衛隊潜水艦の移転検討などの事実、太平洋版NATO体制を構築する上で、今後は米国以外の国家との防衛装備品の移転についても増加して行くことは確実視出来る。そのため、防衛装備品に係る産業財産権を適切に管理することは、我が国の防衛産業が国際的に信頼を得て(15)、国際共同開発に参入するためにも必要であると考えられる。
 ③第3には、我が国の技術革新を促進するためのより有用な手段を構築する必要性の観点からの理由を挙げる。先述の防衛省が発表した、『将来戦闘機に関する研究開発ビジョン』にある通り、戦闘機に係る技術の他の民生技術への転用(いわゆるスピン・オフ)や、民生技術の防衛装備への転用(いわゆるスピン・オン)が促進されてくると考えられる。実際に、現代社会において生活や産業の根幹となっているインターネット、GPS等については軍事目的で発明されたものの民生分野の応用である。このことから、防衛・民生分野の技術の相互移転は、爆発的な経済・技術革新を生む可能性を孕み、いわゆるパラダイムシフトの可能性を示唆するものである。そうした、スピン・オフ又はオンを促進させるためにも産業財産権制度(16)を活用するべきであると考えられる。
 以上の理由から、『防衛装備品に係る産業財産権の管理方法についての調査及び研究を実施すること』が我が国の防衛装備の基盤強化に関する方策を検討する上での指針になると考えられる。

(2)日本版FMSの創設
 前項の防衛装備品に係る産業財産権の管理方法についての調査及び研究を実施との関連から述べたいと考える。
 ①経団連による日本版FMS創設の理由として、日本が海外に装備移転する場合において、移転後の維持・管理、装備品の運用者の教育訓練から、相手国の契約制度や知財制度に関する情報を収集する必要があるところ、こうした仕組み作りは民間企業のみで実施することが難しく、官民が連携して対外援助支援体制や情報保全体制を構築する必要を挙げている。
 ②日本が既にアジア地域に防衛装備品を供用した例としては、フィリピンへの海自練習機TC-90が挙げられる。また、移転が実現するかについては未定であるがインドへの海自救難機US-2の移転も検討されている。いずれの航空機も練習機や救難機であることから、防衛装備品の中では、非攻撃的に類するものであり、移転に関わる障壁(技術流出のほか、レピュテーションリスクなども含む)については戦闘機等に比べて低いと考えられる。そのため、日本版FMSを実施して行くためには非攻撃的装備から実施して行く必要があると考えられる。
 ③一方で先述した通り、豪国への海自潜水艦の移転が検討された事実があることから、今後については非攻撃的装備に限らず作戦運用の中枢をなす装備についても、移転が為されて行くことが考えられる。先述の通り、作戦運用に供する装備を共有することは、同盟国が共同で作戦をするにあたり、最も緊密に連携できる手段の1つといえ、同盟国間の平時からの連携を強化することは事実である。したがって、我が国においての作戦運用の中枢をなす装備を同盟国である米国、又は準同盟国といわれる国家と共有することは、連携の強化の観点からするとメリットが大きいといえるであろう。
 ④一方で装備を移転することは、技術流出の可能性も孕んでおり、その危険性を指摘する例もある(17)。したがって、技術流出を予防する仕組みと併せた日本版FMSを創設する必要があると考えられる。技術流出を予防する方法としては、先述の通り、ブラックボックス化やダウングレーディング化などが挙げられる、③産業財産権制度による機微情報の管理などが挙げられる。産業財産権制度に関しては、戦前整備されており、現在においても日本以外の主要国(欧米諸国、豪国等)に整備されている秘密特許制度を復活させる方法などが挙げられ、本制度に関する先行研究も存在する(18)。この制度を検討するには、前項で述べた『防衛装備品に係る産業財産権の管理方法』と併せて行うことが必要である(19)

Ⅴ 筆者のこれまでの活動と今後の実践について

1 これまでの活動
 筆者のこれまでの主な活動は、前章で述べた『自衛隊装備品開発の在り方の私案』を抱きつつ、防衛装備に係る産業、省庁、議員に対するヒアリング・インターン等の実施であった。そうした活動の中で印象的であったことは、前記3者については立場こそ異なるが、抱いている問題意識・課題意識は共通であり、将来の日本の向かうべき自衛隊装備品開発の在り方については、方針としても認識は一致していたことである。しかしながら、杳としてこの問題が根本的解決に向かわないのは、やはり解決に進むべき原動力が欠如しているからであると考える。従って、筆者が今後取り組むべき活動は、この原動力になるための活動であると考えている。

2 今後の活動
 これまでの活動は、地域・業態を問わず防衛産業全般(例えば、戦闘機関連産業や潜水艦関連産業など)に足を運んでいた。しかしながら、今後の活動に関しては、特に“地域性”を重視したいと考えている。産業は、その技術分野によって分布する地域(地方及び都道府県、市町村など)が大きく異なり、防衛産業に関しても、その性質が当てはまる。例えば、防衛産業における航空宇宙分野については、愛知県・岐阜県を主とする中京地区はもとより、福島県、群馬県、茨城県及び長野県などが地方行政として、産業クラスターや工業団地を形成し推進している例が見られる。このため、戦闘機、ミサイルという装備から防衛力強化を見込むためには、当該地域の産業政策や産業振興が必要である。筆者は、空自技術部門出身であることから、特に航空宇宙産業振興の観点から、防衛力強化に貢献して行きたいと考えている。従って、今後の塾生期間においては、それら地域に入り、立場を今後検討しつつ、産業振興に邁進して行きたいと考える。
 また、これまでの活動の小括として、防衛産業の“防衛部門”の固有の課題(FMSの拡大による国内需要減、防衛省以外の顧客が望めないなど)にのみ着目した活動をしていた。目指すべきは企業体として防衛産業を活性させるところを、一部の部門のみに着目していたため、企業全体としての成長を目的とすべき視点が欠けていたと顧みている。多くの防衛産業は事業の一部門として自衛隊装備に携わっており、専業メーカーは殆どない。そのため、防衛部門の発展と企業体の発展を両立させる施策を政府及び自治体は講じる必要があると考えられる。このことについては、政府の国防の方針(防衛大綱や中期防衛力整備計画など)のみならず、産業現場の実情に即する必要があると考える。この観点からも、地域・産業現場に深く入って参りたいと考えている。

 以上のことから、前章では、防衛産業を強化する方策として、①防衛装備品に係る産業財産権の管理方法についての調査及び研究を実施すること、②日本版FMSを創設することを提案したところであるが、今後はさらに“地域の事情(最低でも都道府県単位、可能であれば市町村単位)”を加えた施策を講じる必要があると考える。

Ⅵ おわりに

 今後、どの様に自己が『技術報国』に貢献し、
   ①防衛産業がどの様に技術で国に報いるか、
   ②防衛産業がどの様に21世紀版の黒船と対峙するか、
 かについて検討し、仮説を提案した。
 21世紀版の黒船は既に目前まで来ており、対処するための猶予もあまりない。さらに取り組むべき命題についても遥かなる規模である。こうした状況にこそ、中央と地域、政府と産業が連携し、一致団結した政策をとり、日本全体で対応して行かねばならない。
 筆者としては、そのための礎となることを目的として、今後も全身全霊で取り組む所存である。

【脚注】
 (1)艦艇装備研究所に遺された石碑『技術報国』、今も色褪せることなく、基地に鎮座している。(筆者撮影)


(2) 武器輸出三原則:当初、1967年に佐藤栄作内閣が採用した我が国の武器輸出に関する方針であり、1976年に三木武夫内閣において要件が追加された。内容としては、①三原則対象地域(共産圏諸国、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国及び国際紛争の当事国又はそのおそれのある国)については「武器」の輸出を認めない、②三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする、③武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする、とされ実質的に我が国の武器輸出を全面禁止するもであった。本原則における「武器」とは、①軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの、②本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなものを指す。新たに政府が採用した、防衛装備移転三原則については本原則を見直し、武器輸出の移転を可能とするものといえる。

(3) 防衛省HP(https://www.mod.go.jp/j/publication/shiritai/budget_h26/index.html)には、“防衛関係費は、近年減少傾向が続いておりましたが、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、平成25年度および26年度は対前年度増額となりました。しかし、一般会計予算全体で見ると、厳しい財政事情の下、歳出の伸びの大半を社会保障関係費が占めており、防衛関係費等他の経費は抑制される傾向にあります。現下の安全保障環境に対応するためには、27年度以降も継続した防衛予算の確保が必要です”との記載がある。

(4) 日本学術会議は、第243幹事会(平成29年3月24日)において、『軍事的安全保障研究に関する声明』を発表し、“…近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し…”と述べている。

(5) 米国が日本に対するFMSは、戦後米国が日本の再軍備を援助させるため、当初無償で実施した軍事援助計画(MAP:Military Assistance Program)を起源としており、今日まで継続しているものである。今日では終戦直後に比べ、高度に技術が進歩し、かつ日本は米国に比肩するほど経済大国へ成長しているため、有償かつ高額になることが多い。米国からは、価格の根拠が示されることはほとんどなく、先払いが原則であり、納期も明確に示されないこともある。

(6)F35-Aの取得決定後、米国等との交渉によりALGS (Automatic Logistics Global Sustainment,  F-35Aの維持整備に関わる新しいシステムであり、本全ての同機の使用国家が、世界中にいくつかの在庫をストックする倉庫を設置し、ストックする在庫を共通の在庫プールから部品等の供給を受けるものであり、各国が独自に持つ在庫等を最小限に抑制するなどの新たな効果を持つものである使用国へ融通する特徴がある。)における、FACO (Final Assembly and Checkout, 機体の最終組み立て及び検査を実施する工場) に日本の一部の防衛産業が米国により指定され、限定的であるが部品の生産の一部には参加することが出来る事となった。しかしながら、ライセンス国産に比べて日本の防衛産業が参加出来る余地は殆どない。

(7) 防衛装備移転三原則:2016年4月1日、政府は、2015年12月に定められた「国家安全保障戦略」に基づき、防衛装備の海外移転に関して、武器輸出三原則等に代わる新たな原則である。具体的には、移転を禁止する場合の明確化(第一原則)、移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開(第二原則)、目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保(第三原則)からなり、政府は本原則を履行することにより、国際社会の平和と安定のために積極的に寄与し、防衛装備並びに機微な汎用品及び汎用技術の管理の分野において、武器貿易条約の早期発効及び国際輸出管理レジームの更なる強化に向けて、一層積極的に取り組んでいく考えを表明している。

(8) 例えば、日米同盟を例示すると、海・空自と米軍に関しては、平時から(共同訓練など)通信する際にLINK-16というデータリンクを用いている。また、LINK-16はNATO諸国でも用いられており、自衛隊が米国以外のNATO諸国と訓練等する際にも用いることができることにより運用面においての、物理的な連携を可能とする。

(9) 冷戦終結後の約30年間において世界の総計は増加する一方であり、2017年では最高値(約1兆7890億ドル、前年比1.1%増)を記録した。特筆すべきは、世界の中でもアジア・太平洋地域の伸び率が世界の中でも3.6%増と比較的高い水準にあることである。(ストックホルム平和研究所の調査による。)

(10) 特許法64条の規定により、特許出願された発明は技術分野に関わらず、出願日から1年6月後に公開される。発明(高度な技術的思想)を法律上保護する方法としては、特許権以外には不正競争防止法による保護が考えられるが、その発明が保護に値するかの判断が難しく、仮にその判断を裁判所に委ねる場合には訴訟は公開され得るため、衆目に付される可能性がある。

(11) 例えば、“核不拡散と特許制度に関する研究”、年報危機管理研究第19号(2012)、八木雅浩他などが挙げられる。

(12) 例えば、“デュアルユース政策の誕生と展開‐米国の事例を中心に‐”、冷戦後の科学技術政策の変容:科学技術に関する調査プロジェクト報告書(2017)、吉永大祐、においては、高度に発達した情報社会においては技術情報の拡散が容易であり、装備本体ではなく技術の輸出こそが安全保障上の問題であると指摘しており、情報管理の重要性を説いている。

(13) 日本国憲法第98条2項では、日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とすると規定するとともに、本条約第3条には、一方の政府が合意される手続に従って防衛目的のため他方の政府に提供した技術上の知識が、提供国で秘密に保持されている特許出願の対象たる発明をあらわすものであるときは,その特許出願に相当する他方の国でされた特許出願は、類似の取扱を受けるものとする、との規定がある。

(14) 日本国特許法で、本条約に対応する条文としては、第26条の条約の効力に関する規定があるに留まり、一方で米国特許法においては、第181~183条では一定の発明についての秘密保持及び特許付与の留保に関してなどを規定し、国家の安全保障に関する発明の取扱いに関する具体的規定が存在する。

(15) 国家の安全保障に影響がある発明(例えば、核濃縮技術など)について、他の発明から特段の取扱い(例えば、特許を公開しない等)をする国家は、米国や英国をはじめとする国連安保理常任理事国はもとより、ドイツ、イタリア、スペイン等ほとんどの主要国が挙げられ、何ら区別しない日本はむしろ例外的な国である。そうした機微技術に対する感度の低さは、例えば、防衛装備品の国際共同開発をする場合においては、パートナー国との信頼関係に影響を及ぼす可能性があると思われる。

(16) 特許法の保護対象は『技術的思想の創作』であり、即ちアイディアにも及ぶ。アイディアを同じくすれば、それに基づく物が、防衛又は民生のいずれの用に供される場合においても保護が可能であることから、特許権は装備品についての、スピンオン・オフの際には極めて有用な権利となる。例えば、“オーストラリアへの潜水艦技術移転を考える”

(17)No.164 CISTEC Journal (2016.7)、山内敏秀などが挙げられる。

(18) 例えば、“日本における「秘密特許制度」‐その現実と課題‐”、日本工業所有権法学会年報 Vol.28 、山名美加などが挙げられる。

(19) 前掲(12)において、装備品本体に加え装備品に係る技術情報の輸出が安全保障に大なる影響を及ぼす旨を指摘している。日本版FMSを実施するにあたり、我が国の防衛装備品が海外に移転することに加え、その維持管理を行う上では、その移転先の国民をスタッフとして雇用する可能性もある。この場合は、本分にて記載した、ブラックボックス化やダウングレーディング化などの手段を講じることで意図すべき技術流出を防ぐとともに、流出した場合の対処を容易にするべく、保護するべき技術について産業財産権を取得する等の法益を与えることも併せて検討する必要があると考えられる。

【参考文献】
1 “武器輸出だけでは防衛産業は守れない”,桜林美佐,並木書房, 2013.
2 “防衛産業を巡る問題の本質”,廣瀬泰輔,松下政経塾HP“https://www.mskj.or.jp/report/3309.html”, 2013.
3 “武器輸出三原則はどうして見直されたのか”,森本敏編著,海竜社, 2014.
4 “航空機産業と日本”,中村洋明,中央公論新社, 2017.
5 “防衛装備庁と装備行政の解説”,田村重信他,内外出版,2016.
6 “日本の防衛産業”,衆議院調査局安全保障調査室, 2013.

2018年11月 執筆
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