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2019年4月

塾生レポート

誰もが天分を活かせる社会の実現~社会的性役割を越えて~
松木香凜/卒塾生

生物に特性があるように、人間にも特性がある。そして、天分とは一人ひとりがもつ特性である。その天分は人種や国籍だけではなく、生まれ育った背景、土地など様々な違いによって作られており、その人ごとに異なり、多様なものがある。繁栄する社会においては、誰もが自分の持つ天分を生かすことが重要であると考える。

 

1.「誰もが天分を活かせる社会の実現」とは

 生物に特性があるように、人間にも特性がある。そして、天分とは一人ひとりがもつ特性である。その天分は人種や国籍だけではなく、生まれ育った背景、土地など様々な違いによって作られており、その人ごとに異なり、多様なものがある。繁栄する社会においては、誰もが自分の持つ天分を生かすことが重要であると考える。 

2.松下幸之助が考えた「天分」

 天分とは一人ひとりがもつ特性であり、それは人それぞれである。この誰もが持つ特性、すなわち天分を生かすことについて、松下幸之助は『人生談義』において次のように述べている[1]

成功というのは、この自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かし切ることではないでしょうか。それが人間として正しい生き方であり、自分も満足すると同時に働きの成果も高まって、周囲の人びとを喜ばすことにもなると思います。

 一人ひとりがそれぞれ異なる天分を持っていることを知り、認め合い、それを妨げられることなく生かすことが重要である。そして、その天分を最大限に生かすことがその人自身、さらには社会全体の幸福につながるということである。本来持つ天分をありのまま生かすことができれば、一人ひとり、日本の社会全体の幸福につながる。つまり、一人ひとりの幸せは、世界の幸せであると松下幸之助は主張しているのではないだろうか。
 また、松下幸之助は「天分を完全に生かしきることが成功である」とも述べている。そのためには、自分の能力を自らが正しく認識すること、そしてその上で生かす場を求め、生かそうとし続けることが必要である。それぞれの人々が、自分の天分を最大限に生かし合い、豊かな人生を一人ひとりが送ることによって、社会全体の豊かさも増していくだろう。

3.「社会的性役割」という見えない壁

 このような誰もが天分を生かせる社会において、それを実現するにあたり壁となるのが社会的性役割である。
 社会的性役割とは、性別という属性ごとにそれぞれ期待される特定の特性、行動、責務のことである[2]。「男は仕事、女は家庭」という言葉に表されるように、男性は社会に出て仕事に邁進し、女性はそれを支えつつ家事や育児などを担うという性別役割分業が挙げられる。また、社会的性役割はその言葉が示すように社会の変化に応じて、言葉の意味するそれぞれの性別の中身も常に変化してきた。実際に、かつて強く支持されてきた「男は仕事、女は家庭」という社会的性役割に対する意識も変化している。意識の変化について、下の図にて表す。


図1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に関する意識の変化
出典)厚生労働省(2016)『男女共同参画白書 平成28年度版』

 図1によれば、昭和54年(1979年)には男女ともに約7割の人びとが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成していた。それが平成26年(2014年)には約4割程度になっている。このような変化の背景には、日本の労働市場、経済状況の変化が挙げられる。少子高齢化の日本社会における労働力不足から女性の労働市場への参画が必要となり、男女雇用機会均等法などによって女性も外で仕事をする環境が整えられてきた。そのような中で、女性が家事や育児などの家庭内の労働に専従する「女は家庭」という状況も変化している。「男は仕事、女は家庭」の夫婦、男性雇用者と無業の妻すなわち専業主婦の世帯は年々減少しており、男女ともに働いている世帯が増加している。それぞれの数の推移について次の図2において示す。


図2 共働き世帯数の推移
出典)厚生労働省(2018)『男女共同参画白書 平成30年度版』

 図2より、共働き世帯は昭和55年(1970年)から増加し続け、平成9年(1997年)以降男性雇用者と無業の妻からなる世帯数を越え、平成27年(2015年)時点では約2倍の世帯数となっている。すなわち、状況的には、「男は仕事、女は家庭」から、「男は仕事、女も仕事」になりつつある。
 また、近年グローバル化に伴う社会の変化やテクノロジーの進歩によって、これまで考えられてきた性役割に対する意識の変化は続いている。意識が変化し、家庭外での仕事の状況についても徐々に変化が起きており、そのための法整備なども進められている。しかし、その一方で未だにかつての社会的性役割からの変化が鈍い部分もある。それが家事である。家事は炊事・掃除・洗濯など家庭を支える重要な仕事であり、誰にとっても必要である一方で、その多くを女性が担う役割であり、仕事であると理解され、実際にその大部分を女性が担ってきたのは周知のことである。これまでの女性は自分の人生の多くの時間はこの家事という仕事のための時間として消費されていた。もちろん、テクノロジーの進歩によって、その負担はこれまでに軽減されてはきた。しかし、その一方で軽減されることによってできた時間などが、女性の労働時間として充てられることになった。即ち、近代の女性の積極的な労働参加の背景には、家事労働時間を大幅に短縮した洗濯機をはじめとした家電製品の存在が不可欠であった。家電製品は女性の家事のパートナーとなって、働き方だけではなく、生活そのものを変えてきた。図2のとおり、共働き世帯が増加するなかで、それまで家事に専従していた女性が不在となり、その負担をどのように男女、つまり家族で分け合うのかが社会的性役割を変えるポイントとなると考えられていた。しかし、実際には「男は仕事、女も仕事」になっていても、全体の負担は減りつつも、男性と合わせてみると、未だに女性が主たる家事の担い手になっていることが分かる。かつての「女は家庭」という部分の実態はいまだになくなってはいないのである。次の表では家事の時間量を性別や年齢層別に表している。


表1 性別・年代別の平均家事時間量
出典)NHK放送文化研究所(2016)『2015年国民生活時間調査報告書』

 表1では1995年から2015年までの家事の時間量の推移であり、この家事時間には炊事・掃除・洗濯・子どもの世話・介護を含んでいる[3]。男性の時間量は全体としては1995年から20年で32分から54分にまで伸びているが、女性に比べると少ない。特に30~50代の男性の時間量の推移は少ない。その背景には、社会的性役割だけではなく、長時間労働があるとされる。労働時間が長いために、家事を担う時間がなく、さらには体力的に難しくなっているということである。しかしながら、女性も仕事に出ることで労働時間が増えている。それなのにも関わらず、1995年から有職女性の家事時間はそれほど変化していない。参考として、表1と同調査における労働時間の推移について示す。


表2 性別・年代別の労働時間の推移
出典)NHK放送文化研究所(2016)『2015年国民生活時間調査報告書』

 テクノロジーによって、これまで身体的な理由によって男性の職業とされていたものが、女性にも広く門戸が、開かれるようになった。また、テレワークの技術なども進み、制度も整えられてきている。育児をしながら働くことも可能となり、女性だけではなく男性も、新たな働き方や生き方を選択できるようになりつつある。その一方で、今後育児と介護が同時に発生するダブルケアに直面する人々が増えるという予想もあり、家事について家族でチームとして、どのように家庭生活全体をマネジメントするのかを考えることが必要になる。
 社会的性役割は無意識のうちに反応しているが故に、問題視されない、意識されないということも多いのは事実である。「男だから家族を養わなければならない」や「女だから育児も家事も完璧にやらなければならない」と気づかないうちに私たちはその視界を塞ぎ、いつの間にか心の中に染み付き、社会的性役割という見えない壁にふさがれ、自分自身の道を狭め、方向付けているのではないだろうか。

4.社会的性役割を越えて誰もが天分を活かせる社会の実現に向けて

 重要なことは誰もが自らの天分を自覚し生かすことを考えること、そして、それを社会的性役割にとらわれることなく探り、生かせる環境を作ることである。人の多様性が生かされることなく、それぞれが持つ能力の幅もむしろ狭められていることも多い。その中でも強い力で私たちに影響を及ぼしているのが「社会的性役割」と呼ばれるものではないだろうか。元来の常識であった「男は仕事、女は家庭」という言葉の表わすような性役割は、変わっているようで変わっていないところも多い。この性役割の意識によって、天分を生かす機会を失ってしまっていることは多々あるのではないだろうか。自分たちで狭めてしまった人生の選択肢の幅を広げ、より豊かに幸せな人生を追及するためにも、性役割にとらわれることなく、性別という枠を越えて自らの人生を考えることが、必要となるのである。その上でそれぞれの人が自身の持つ力、すなわち天分を活かすことで真に繁栄する社会になると私は考える。
 社会では、それぞれの人びとが自らの天分を最大限生かすためのサポートが求められる。少子高齢化をはじめ社会情勢が変化する中、変わっていくのは人のライフプランも同様である。継ぎ目なくそれぞれの時期に必要なサポートを続けていくことが求められる。
 一方で、個人にもそれぞれ天分を探し、生かすための努力が必要である。自らの人生を考え、そのために必要なことを自らやっていくということである。そのようになれば、誰もが自立した人生を送り、様々な形でその功績を社会に還元できるのではないだろうか。
 誰もが天分を生かせる社会の実現のためにそれぞれの人びとの人生において性別によってコースが規定されることなく、またそれが障害となることのないように、それぞれの人生かせるような環境を整え、それを応援するような仕組みを作っていきたい。その中でも、必要不可欠であり、かつ負担が減らない家事の分野について、それぞれの人びとにあった家事負担の解決策を提供していきたいと考える。

 
参考資料
厚生労働省(2016)『男女共同参画白書 平成28年度版』
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h28/gaiyou/html/honpen/b1_s00_01.html (最終閲覧日:2018年12月24日)
厚生労働省(2018)『男女共同参画白書 平成30年度版』
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s03.html (最終閲覧日:2018年12月24日)
内閣府男女共同参画局HP「共同参画 2018年1月号」
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2017/201801/201801_04.html (最終閲覧日:2018年10月31日)
松下幸之助(1990)『人生談義』PHP研究所
ILO HP「Domestic Worker」
http://www.ilo.org/global/topics/domestic-workers/lang--en/index.htm (最終閲覧日:2018年11月20日)
NHK放送文化研究所(2016)『2015年国民生活時間調査報告書』
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf (入手日:2018年12月25日)

[1] 松下幸之助(1990)『人生談義』PHP研究所 p.132
[2] 小学館『日本大百科全書』より「性役割」の項を参照。
[3] NHK放送文化研究所(2016)『2015年国民生活時間調査報告書』
  http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf (入手日:2018年12月25日)

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