松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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2016年2月

塾生レポート

共存共栄による国家の生成発展と民主主義の成熟
恵飛須圭二/卒塾生

実践活動を進める中で新たな問題意識が生まれてきました。政治の役割としての、国と地方、公的機関と民間それぞれの役割の明確化とバランスを機能させ、各々のアクターの力量を最大化することを探求していきます。

 

1. 私の志と原点

松下幸之助イズムに惹かれる

 私と松下政経塾との出会いは現在から10年前、当時大学生だった頃に入塾説明会に参加したことにあります。私は、物心がついた時から両親の教育方針もあり、まだ世の中のこともよくわかっておらず明確な判断がつかない年頃から、常に自分自身で進路や将来を決断することを求められてきました。そして決断したことについては、責任をもってやり遂げるということを信条としてきました。決められたレールはなく、当たり前のことを当たり前に疑うことが基本思考として定着すると、社会規範やルールに対しても誰が何の為に定めているのかについて常に疑問を抱くようになりました。例えば、偏差値の高い世間で評判の高い学校を卒業することが、何故その人にとって幸せな人生を保証するのかということ、決められた制度(税の徴収と分配や目に見えない社会規範)が何故永遠に変わることなく守られなければいけないか等々にある非常に身近なことです。私にとって、松下政経塾の研修理念である「自修自得」や松下幸之助氏の「教えようにも教えられないことを掴め」という理念は、私の生き方や問題意識に明快に答えたものであり、感激したのは記憶に新しいものです。
 大学を卒業後には、憧れた松下幸之助氏が創業した電気メーカーで働かせてもらいました。「モノをつくる前にヒトをつくる」という企業精神に感銘を受け、採用面談時から人事部にて人材育成に携わること、会社の経営に関わり経営者を支えていく仕事にやり甲斐を感じ、創業精神に育まれた、温かい社内風土に包まれ懸命に仕事に向き合ったのです。

構造改革の経験による使命感の芽生え

 前職において、もっとも大きな衝撃を与えた出来事が2009年のリーマンショックとその煽りを受ける日本経済、日本企業です。多くの企業が経営改善の改革を求められ再編に奔走しました。私も国内工場の適正化、人員の最適化を推進し、事業の存続のために自分に与えられたミッションを我武者羅に逐行しました。特に、地方工場の再編、縮小については強い問題意識と危機感を覚えたのです。日本の製造メーカーの地方工場は、高度経済成長期に隆盛を極め各地方において集団就職をし、地域の雇用の受け皿として大きな役割を果たしてきたという背景があります。構造改革事業においては、こうした役割を果たしてきた雇用先が1000人以上の単位で失われていくことになります。事業経営にとっては、一面仕方のないことでもあります。グローバル経済への対応や業績悪化に伴う事業再編は経営に不可欠なものです。私が大きなショックを受けたのは、残された地域を誰が再生するのかということと、地域が自力で生き残っていく力を蓄えていないことによる混乱と閉塞感が全国各地に見られたことです。こうした光景に、故郷の広島を思い出し、地域コミュニティの再生に人生をかけて取り組みたいと考えるようになりました。方法も術もありませんでしたが確かな志を感じ、松下政経塾の門を叩きました。生まれ育った街に恩返しがしたい、広島で持続可能な自力のある地域を創りたいという一心です。

2. 基礎課程を通じた学び

 基礎課程では、塾の基本理念である「現地現場」「自修自得」「徳知体三位一体」の意味を深く理解することに努め、実践課程とそれ以降の生涯続く研修の学びの基本を体得することに専念しました。松下幸之助氏の生き方考え方を集中的に学び、日々現場に出る中で自問自答を繰り返しました。松下幸之助氏の生き方考え方を得ることは、自分自身の「思考の座標軸を掴む」ことであり、ものの考え方が格段に広がったと考えています。
 一年目は、現場実習に専心し、これまでに取り組んだことのない分野、業界での仕事に従事しました。例えば、農業実習での田植えの体験や被災地現場での畜産農家への住み込み、販売店や海外の製造現場での工員としての実習があります。それぞれの現場で、人が仕事とともに生きていくことの厳しさや喜び、自身の人間観を養うことに注力しました。
 二年目は、共同研究において「憲法草案」を起案することで、国家の統治機構のあり方、現行制度の改善提案にフォーラム開催等を通じて取り組み、松下幸之助氏の考えにある“世に問う”ことにこだわりをもって推進しました。共同研究では、研究テーマが異なる同期の四名が各々の知見と知恵を持ち寄り、昼夜を問わず白熱した議論を重ねました。この取り組みは、学術的な成果だけではなく、同志性の涵養に大きな役割を果たしました。同志性の涵養とは、ただ単に意見を持ち寄りすり合わせることではなく、解決が困難な問題に対してお互いに敬意を払いつつも異なる意見の衝突を恐れずぶつけ合うことによって
 生まれる、それまでよりも高次の敬意のことを指すのだと考えています。これも同期の四名に松下幸之助氏が提唱した「新しい人間観・人間道」という共有の学びがあったからこそ達成できたものではないかと思います。

3. 実践活動での学び

 経営観の養成=PPP/PFI事業経営の研究
 人口減少、少子高齢化を迎え、今後の自治体財政は非常に厳しい状況にあります。一方で、増大しつづける社会保障費や老朽化した社会資本の再整備は市民の安全、安心の生活に不可欠なものであり、それらへの対応は一刻の猶予をも許さない状況にあります。そうした背景から、今後は公的機関と民間企業、市民団体等々のまちづくに関わるアクターが垣根なく活動を活発化させることが重要であり、「民間主導の公民連携によるまちづくり」というテーマを掲げ研究を進めて参りました。そして実現可能な手法としてのPPP(public–private partnership)/PFI(Private Finance Initiative)に着目し、生きた素材として自治運営に取り入れていくことが必要だと考えています。
 特にPFIについては、「公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法」(内閣府)と説明されるものですが、その公民連携手法は1980年代の英国のサッチャー首相時代に政府の財政急迫状況に講じられたものであり、目新しいものではありません。日本における現状は、1999年にPFI法が制定されて以降、2014年までの実績は、事業件数418件、契約金額で約4兆1千億円。現状は、その約75%を行政機関が払い延べで支払う方式の案件であり、実質は税財源以外で費用回収できているのはわずか21件とされています。これまでのPPP/PFI事業は民活による効率的な社会資本整備と低廉良好なサービスの提供という本来の目的を十分に達成できているとは言い難い、とされています。(平成25年6月6日 民間資金等活用事業推進会議資料)そうした状況を踏まえて、机上の論理に学ぶことだけではなく、実際に事業を実施している企業の一員として事業経営に関わることで、公民連携の中身、実際についての理解を深めてきました。
インターン実習での気づきを、以下のようにまとめております。

 『実践活動の研究テーマ「民間主導の公民連携によるまちづくり」の舞台として、PPP/PFIを生業としている地元企業へ、10月よりインターンを開始しました。当社は独立系マンション管理をメイン事業としておりますが、蓄積された管理ノウハウを生かして30件近くのPPP/PFI事業を手掛け、代表企業としても各方面の事業者と提携して実績を上げています。 一例を挙げると、「スポパーク松森」は、清掃工場の余熱を活用した温浴施設付きのスポーツジムを併設し、地域のにぎわいを創出し、環境負荷軽減を実現させました。「島根あさひ社会復帰センター」は、社会復帰センター(旧刑務所)の維持管理・運営を国やSPC(特別目的会社)、近隣の地域と連携して行い、地域に開かれた新しいモデルとしての施設の維持管理、運営に取り組んでいます。事業毎に異なる運営体制や事業の仕組みを学びつつも、現場に足を運び現場管理者と話をする中で、その実態について学び、日々新しい気づきを得られます。 本テーマの核心は「連携」というキラーワードの存在です。何故キラーワードと当てはめたかというと、「連携」という言葉は日常的に安易に使われているため、重要な性質を持っている反面、「連携」は必ずしも上手くいくものではないからです。環境や人、体制が都度変化する中で持続的に関係するアクターの利害を調整しながら「連携」することの難しさは、事業に身を投じることによって痛感します。実際は公民の二者間だけではなく、市場の利害を分け合う民民連携(競争)の性質上の困難さが現実として立ちはだかるためです。さらに、PPP/PFIでの公的機関の役割の明確化についても課題意識が芽生えてきました。どうしても個別最適になりがちな民間主導の事業展開において、しっかりとした公益性の確保や全体最適の視点を仕組みとしてどのように取り入れていくか、「住民の充実した生活実現」を第一に考えた行政の役割、まちづくりの仕組みについての理解と研究を深めていきたいと考えています。』(2015.11月度)

4. 今後の取り組みと決意

 このように三カ年を通じて、人間観、経営観、国家観を醸成する中で新たな課題認識と想いが芽生えてきました。それは、「政治の役割としての、国と地方、行政と民間それぞれの役割の明確化とバランスを機能させ、各々のアクターの力量を最大化することを探求していきたい」ということです。「対立と調和の中にいかにしてバランスの良い秩序をもたらす」ことができるかは、松下幸之助氏が私たち塾生に課された大きな宿題です。私は、研修活動を通じて下記のように考えるようになりました。

 『相対し異なる利害関係にある人格は、それぞれの利益を最優先に考えてしまいがちである。このことは、性質的に抗うことが難しく、思想、権力、恣意等の私的事由により本来の持つ能力の発揮が妨げられる場合が見られるように思う。そうした局面では、状況や環境をまずはあるがままに受け入れ、国家、国民や各々のアクターが長期に渡って繁栄していくための最適解を見出し、勇気を持って逐行していくことが国家や地方、国民それぞれの生成発展に重要である。』

 前述したような、まちづくりにおける公的機関と民間企業、民間企業同士の利害の引き合いによる個別最適を追求する構図は国と地方、国家観でも見られるものであり、ここに政治のリーダーシップが発揮されるべきではないでしょうか。私はこれらのことを考えるにあたり、今後の活動の理念を次のように定義します。

活動理念:「共存共栄による国家の生成発展と民主主義の成熟」

 翻って考えてみると、現在の政治は党利党略に陥り、国家国民の為のものになっていないように感じます。若者の政治離れだけではなく、政治への関心が低いのも現在の政治にさらなる飛躍が期待されていることの裏返しであると思います。本来、与党、野党ともにそれぞれの役割を全うし、国の方向性を奪い合うのではく一致させていくことに民主主義の原点があり、国民の望むところであると考えます。そうした意味において、私の考える政治のあるべき姿を松下幸之助氏の憲法の三原則に照らして、次のようにまとめてみました。

政治の三原則
<普遍性>
国民は法の基に平等であり、常に法治によって国家運営が行われること。
<国民性>
最大多数の最大幸福のあくなき追求を衆議によって逐行すること。
<時代性>
時代の変化に柔軟に対応し、常に国民の幸福と生活に目を向け、長期的な戦略の上に優先順位をつけて将来の為の投資を行うこと。

この定義については、今後も自身とともに生成発展させていかなければならいものだと考えています。志は清く崇高なものだと信じて、今後も生涯に渡る研修活動を真摯に続けて参ります。

2016年2月 執筆
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