松下政経塾 The Matsushita Institute of
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日本の伝統精神
2009年3月

研修レポート

日本の伝統精神レポート
冨岡慎一/卒塾生

 

 長年世界を股にかけてビジネスをされてきた関淳前理事長が最後の理事長講話でこのような表現をされた。「様々な海外の国に行ってみて初めて、日本は独自に完成されている国であると分かった」私自身も関前理事長に比べれば実に僅少な経験でしかないが、十数ヶ国海外の国々を旅したことから、この言葉の真実味を感じることができる。日本はなぜ独自に完成された国として、その成長を遂げることができたのだろうか。

 そこには日本人の伝統精神を形作ったいくつかの根本的な要因があると思う。私は1年間の松下政経塾の研修の中で、その要因は次の5つであろうという仮説を立てた。

(1)自然災害
(2)四季の変化
(3)島国
(4)農耕民族
(5)天皇制

 日本の民族性を形成した確実に大きな要因は、まず日本の気候風土であろう。気候風土とは、具体的には台風や地震、火山活動などの天変地異とも呼ばれる自然災害や四季の変化、そして島国であることである。日本の気候は常に変化を続けている。四季の変化は一年という単位を分かりやすく人々に伝えると同時に、寒い冬の次には必ず暖かい春がくること、汗ばむ夏もいずれ終わりを告げることを教えてくれる。このような四季の変化や多発する自然災害が平家物語に代表される日本人の無常観を生みだし、死生観を醸成したものと考えられる。

 また島国であることは他民族の大規模な侵入を防ぐ天然の防塁ともなり、一国一民族という基本的な日本の骨格形成に重大な意味を残している。そして同時に過去2000年間天皇制を守り続けることができた一因ともなっている。建国以来これほど長い間ひとつの家系を中心に国家経営を行っている国は世界でも他に例がなく、日本の強い独自性の象徴ともいえる。そして、島国であるが故に狩猟よりも採集が中心となり、弥生時代には稲作が普及して日本人の集団志向や勤勉性を形作る要因ともなった。

 独自に完成されていると言っても、どのように完成されているのか。塾主の言葉を借りれば日本の伝統精神とは結局の所3つのキーワードに集約されるとのことである。その3つとは、1)衆知を集める2)主座を保つ3)和を貴ぶである。日本はそのように完成されていると言えよう。

 現代の日本ではそういった伝統精神がどのような形で息づいているのだろうか。例えば産業界に目を向けてみると、現在の日本の強みのひとつは技術力であると言えよう。その背景にはもちろん日本が資源小国であり、輸入した資源を技術力をもって加工し、立派な製品に仕上げることで勝負するしかないという過去があったとはいえ、今や電化製品や、特に自動車産業では世界を牽引する立場であるといえる。

 この自動車産業は、日本の伝統精神という観点から考えたならば、まさに日本に最適な産業であると言えよう。というのは先程述べたように、日本の民族性には稲作による集団志向や勤勉性が滲みついており、たとえて言えば「複雑な連立方程式をみんなで解く」といった形態が得意といえるからである。自動車産業は、大手メーカーが部品の下請け工場を多く抱えており、非常に裾野が広い産業である。衆知を集めるように部品を集め、ひとつの車を組み立てる。また近年ハイブリッドカーの開発も進んでいるが、ハイブリッドカーはモーター、電池、エンジンの微妙で複雑な設計条件が必要とされ、和を貴ぶ日本の民族性だからこそ、生まれた車であると言っても過言ではない。

 1年間を通して茶道や剣道、そして書道といった日本の伝統精神を学ぶ実技から始まり、伊勢神宮や明治神宮、裏千家訪問、曹洞宗総本山總持寺など、日本の伝統精神を今も守り続けている多くの人々ともお会いして、直接お話を伺う機会を頂いた。日本はこれからも激動の時代の波を超える中で常に変わり続けるべきであると思う。しかし、同時に日本人にとって今まで精神的支柱となり続けてきた伝統精神を継承し、守り続ける人達にももっと光が当てられ、彼らの声にももっと耳を傾けなければ、いつの日か日本の根底が揺さぶられ大ケガをしてしまう可能性さえ考えられる。

参考文献

『日本と日本人について』 松下幸之助

2009年3月 執筆
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