松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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国家観
2008年3月

塾生レポート

対談 日本に未来はあるか
宇都隆史/卒塾生

我が国の政治は未だかつてないほど低迷し、未来に期待の持てない国民の間には閉塞感が充満している。そこで今回、日本の未来のあるべき姿を探るべく、政治評論家:梁子寅(ヤン=チャイン)氏との対談に臨んだ。子寅氏は国家戦略論の専門家であり、講演活動を中心に各地で活躍中である。代表的著書に『サバイバル戦略論』がある。

 

1 国家観なき日本人

宇都: 「現在日本には、様々な問題が山積しています。しかし各々が何か一つの要因を有しているように思うのですが、如何でしょう。」
子寅: 「そうですね。個々の問題それぞれに解決すべき点は異なりますが、その根底には共通する問題点がありますね。私はそれが国民意識にあるとみています。」
宇都: 「国民意識の何が問題なのでしょうか。」
子寅: 「日本人は国家というものを正確に理解していないと思います。宇都さんは国家をどのように理解していますか。」
宇都: 「高校の公民の時間に習いました。国家とは、『一定の領域において社会の公共秩序を維持・管理するために作られる特殊な社会集団』という答えで宜しいでしょうか。」
子寅: 「さすが、政経塾生ですね、国家の定義としては模範的な解答だと思います。しかし、私が理解していないと言ったのは、『定義を知らない』という意味ではなく、国家というものの概念、つまりは『国家観』が欠如しているということです。よく、日本人は市民革命を経ていないから民主主義に根付かず、政治的に成熟していない国民であると言われます。だから、『国家』と聞くと、個人の自由を抑圧する権力機構のように批判的見方をする人が多い。だからメディアも含めて、日本人の多くは「国=政府」という言葉の使い方をする。しかし、国家とはそもそも、国民の集合体です。つまり国民がいるから国家があるのです。もっといえば、『国家』という概念は封建制度から脱却し、資本主義経済という国際社会の荒波に漕ぎ出すために必要となった一種のイデオロギーになのです。」
宇都: 「それは良く解ります。最近まで中国の人は、自分達のことを漢族であるとか福建省出身であるとかくらいの認識だったそうです。ところが、国という単位で国際社会の経済競争に参画するようになり、北京オリンピックも控え、『国家』というイデオロギーが民衆の間に急速に浸透し、ナショナリズムが高揚して『我々は中国人だ』という国民意識が芽生えてきていると聞いています。」
子寅: 「私は、『明治維新』は日本が誇れる市民革命であると言って良いと思っています。よって明治維新直後は、国家というイデオロギーが存在し、国民意識は高かった。あの時代に、今までチョンマゲをしていた東洋の一島国の国民が、列強相手に国際社会で良く頑張ったものだと感心いたします。当時は国民の間に統一した国家観が共有されていました。しかし、その国家観やイデオロギーは、敗戦後のアメリカの占領政策により粉々に打ち砕かれ、現在に至ったのです。」
宇都: 「アメリカの占領政策の是非はともかく、その失った『国家観』を今後いかにして取り戻すか、という具体的な話をしていきたいと思っています。」

2 独立国家として

宇都: 「国民意識を高めるためには、何が必要なのでしょう。つまり、今の日本には具体的に何が足りないとお考えですか。」
子寅: 「私は、日本は独立国家として重大な部分が欠落していると思っています。それは、日本に『国是』が存在しないということです。つまり、それは国としての基本方針です。例えば、明治時代には『富国強兵』という政府・国民が共に明確に認識できる国是が存在していたわけです。内容の是非はともかくですよ。」
宇都: 「松下幸之助も同じことを言っていました。『政府も国民も共に同意した国家経営の基本方針』が存在しないと。松下はこの国民共通の努力目標である『国是』を確立することが、日本にとって緊急最重要事の一つであると言っていました。」
子寅: 「しかし、ただのスローガンではいけないのです。それは国民の手で作り上げる目標であるべきなのです。その際、私が最も重要視したいのは、日本の歴史、伝統文化、国民性をしっかりと反映させるということ。どこの国にでも通用するようなものは国是とは言いません。」
宇都: 「松下は、国是に必要な三原則を、①人類共通の普遍性、②国家個性に相応する国民性、③時代変化に対応する時代性、であるとしています。先生のお話と非常に通じるところがありますね。」
子寅: 「国是の次に重要なものは憲法です。通常の市民革命は、人民が立ち上がり既存の権力を倒して、自分たちの法律つまり憲法を制定する形で終わるのです。つまり人民が制定した法律または制度により、自らを支配する体制をとる。これこそが本来の意味での民主政治『デモクラシー』です。英語のデモクラシーは、ギリシア語で人民という意味の『デモス』と、支配という意味の『クラチア』が語源なのです。ところが、日本は近代国家へと移行する際に、この体制を取れなかったのです。」
宇都:  「しかし、明治憲法はどうだったのでしょうか。明治の元勲達の手によって作られ立憲君主制をとっていたのでは。」
子寅: 「立憲政治をする以上は、憲法で天皇の権力を制限しなくてはいけません。つまりは天皇は憲法よりも下でなければならないのです。しかし、明治憲法はこの天皇機関説をとれず、天皇に大権を与え憲法の上に位置させてしまいました。つまり、人民を支配するのは憲法で、それを定めたのは天皇であるということです。」
宇都: 「なるほど、それじゃ本来の民主政治にはならない。戦後はその天皇の位置にそのままアメリカが収まったという風にも解釈できませんか。」
子寅: 「さすが宇都さん、鋭いですね。その通りなんです。しかし、アメリカが作った憲法ではあるけれど、日本国憲法の上にアメリカが位置するという図式には無理があります。そこで、アメリカは日本国憲法をそれ単独では機能しない欠陥品にした。それがかの悪名高き第9条です。立憲国家において憲法とはあらゆる事態を想定し、どのような場合でも合理的に国家運営を行えるようにできているのが当然です。だのに、国家の最大困難時である戦争に対処する内容を意図的に否定していること自体、まったくもっておかしなことです。つまり、日本国憲法は日米安全保障条約とセットになって初めて機能する欠陥品なのです。」
宇都: 「私は、早急に憲法改正をすべきだと思っています。しかし、改正へ向けたハードルが少し高すぎるように思うのですが。」
子寅: 「確かに、衆参議員の3分の2以上は少し高いようにも感じます。しかし、国民の過半数というのは必要でしょう。昨年5月14日に国民投票法が国会において可決されました。私は、国民投票が踏み絵になるべきだと思います。本当にこのままの体制でいいのかどうか国民に問い、その結果による政治責任を国民も同様に背負うべきなのです。政治は政治家に任せておけば良いという感覚では困ります。本来は直接民主主義が最も望ましい姿であると私は思うからです。」

3 国家存続のための三戦略

宇都: 「後半は、日本のあるべき姿について、子寅先生の提唱するサバイバル戦略論についてお聞かせください。」
子寅: 「まず、これからの世の中は、これまでの先進諸国が歩んできた様な物質的繁栄を基盤とした大量消費主義では、社会が成り立たなくなるということです。BRICSと呼ばれる国々(ブラジル、ロシア、インド、中国)や他の後進国が、今ものすごい勢いで経済発展を推進し、それと同じかそれ以上のスピードで地球の自然環境は破壊されていっています。人類はあまりに物質的繁栄を推し進めたように思えてなりません。」
宇都: 「松下は、物質面と精神面がバランスよく成長する姿、いわゆる『物心一如』の繁栄が望ましい姿であると言っていました。」
子寅: 「その考えには疑問があります。そもそも物質的繁栄と心の豊かさは両立するものでしょうか。松下幸之助さんは極端に物資のない戦後を経験なさったから、水道哲学なるものを樹立させましたが、物質的繁栄を目標にした時代は終わったと思います。私は個人的に、人間は物資に充ち足りないくらいのほうが、互いに分け合ったり、少ないながらも感謝したりして、心の豊かさを育くむことができるのではないかと思っています。」
宇都: 「これからの世の中はどのように推移するとお考えですか。」
子寅: 「あまり、楽観視しないほうが良いでしょう。あくまで推測の域を出ない話ですが、私は近未来において必ず『食糧』と『水』をめぐって争う時代が来るような気がしています。そのために、『如何にして次世代を生き残るか』という観点から国家戦略を組み立てる。それが私の提唱している『サバイバル戦略論』です。」
宇都: 「どうぞ、詳しい内容をお聞かせください」
子寅: 「マクロの安全保障という風に捉えると解りやすいかもしれません。人間が生きてゆくには、まず『食べる』という行為が基本です。よって、第一の戦略は『食糧戦略』です。ご存じのように日本の食糧自給率は先進諸国でも最低の39%。しかもこれはカロリーベースですから、穀物ベースにすると28%しかありません。これは極端に言えば、もし日本に対して外国からの食糧輸入がストップすると、たちまち5人に3人が食べられずに餓死するということです。これが、何を意味するかといいますと、外交カードとしての政治的・軍事的圧力を使わずとも、その代わりに小麦や大豆といった食糧の輸出制限で日本を意のままに操ることができるということです。日本の農業をここまで衰退させたのは、輸出を中心とした製造業への極端な依存と、過保護な農業政策にあるのは周知の事実。守るべきは『農家』ではなく、『農』つまり食の生産体系なのです。この農業問題に関しては様々な議論がなされる中、現在の政権与党である自民党は、大規模農法を進めていますが、規模で外国と争っても勝ち目はないでしょう。国土のおよそ70%を山野が占める日本においては、そもそも大規模農法自体が適さないのです。民主党のいう補助金政策も全く効果なし。ただのバラマキ政治となることは必至です。私の提唱する食糧戦略は、地産地消型の生産体系。生産者と消費者を地域の中で連結させるのです。そのための核となるのが、土地を保有する地主たちの共同経営による農業経営者育成学校の設立です。これからの農業後継者はただの農業従事者であってはいけません。しっかりとした農業理念と経営感覚を持ち、志に燃える次世代の『農士』を育てるための仕組みが必要なのです。この育成機関に対し、行政は資金面も含めた支援をします。食糧税の導入や生産者の減税を行うことで、生産者の保護を厚くしたり、週末など時折農業を手伝う生産協力者、又は地産地消を推進するため地元産農産品の購入を支援する生産援護者も段階的な減税を行ったりすることで、消費者を積極的に生産者へと近づけるようにすべきでしょう。耕作放棄地にされた大切な田畑をもう一度実のなる土地へと変えてゆく、『未来型の農村』を再生させていこうというものです。」
宇都: 「なるほど食糧戦略については解りました。では第二の戦略は何ですか。」
子寅: 「それは教育戦略です。国民は生まれるものではなく育てるものです。現代日本の空虚感は共有できる社会的価値観の喪失に他なりません。これが未来に希望の持てない若者を生み出し続ける原因です。日本青少年研究所が一昨年10月から12月までの間に4カ国全域の計65校、約5700人を対象にした意識調査によると、アメリカ、中国、韓国の高校生に比べ、日本の高校生は『責任が重くなる』などとして出世を倦厭する傾向にあることがわかりました。つまり、日本人の美徳とされた勤勉性さえもすでに過去のものなのです。これまでの戦後の日本の教育は日教組の悪影響で、知識詰め込み型一辺倒に偏り、道徳教育などの心の育成を怠ってきました。そのツケがまさに今、日本の社会全体を覆っている。私が提唱する教育戦略は、地域社会総がかり教育法の普及です。『しつけ教育などは家庭教育の範疇である』という人もいますけど、私はそうは思いません。これまであいまいであった、家庭・学校・地域・行政の教育に携わる役割を明確にし、地域社会が総力を出し合って子ども達を育む地域社会環境を構築するのです。それは地域活性化にもつながりますし、子ども達の郷土愛を醸成し、それは国家観を構築するうえでの精神的土壌となります。また、義務教育機関においては社会的価値観の基礎ともいうべき道徳規範を徹底して教え込むことを重視します。それはニート、フリーター、引き籠りといった人種を作らない効果もあるでしょう。」
宇都: 「3つ目の戦略は軍事戦略でしたね。」
子寅: 「その通りです。軍備の拡充は安全保障の基礎です。日本人はとかく軍事面に弱く、その方面の話題に異常なまでのアレルギー反応をおこします。何も軍事費を増額せよとか、世界一の軍隊を作れとか言っているわけじゃありません。宇都さんは自衛隊は軍隊であるとお思いですか。」
宇都: 「法律的には軍隊であるとは言い切れませんが、能力は他国の軍隊と同等の装備を保有しているので、軍隊とも言えると思います。」
子寅: 「私はそうは思いません。自衛隊は軍隊ではない。あえて言えば軍事装備を与えられた警察のようなものです。宇都さん、自衛隊はいざという時に戦争は出来ますか。もちろん他国からの侵略を受けた場合の自衛のための戦争です。いかがでしょう。」
宇都: 「法律的に拘束が多く、例えばアメリカ軍のような軽快な活動は望めないと思われます。それから、策源地攻撃能力は保有してないので、北朝鮮が保有するような弾道ミサイルの攻撃に関しては、現在のところなすすべはないと思います。」
子寅: 「そのとおりです。問題は自衛隊法が警職法と同様のポジリスト方式であるということ。世界各国の通常の軍法はネガリスト方式です。つまり、法律の中に軍隊が行ってはならないことだけが書いてあり、その他のことは全て実施できるのです。究極の環境下で行動する軍隊の行動選択肢を極力広げるための知恵なのです。もしそうでなければ、兵隊は自国の法律に縛られて無駄死にを強いられます。通常、作戦中の軍隊の行動は、軍法に抵触するかどうかに照らし合わせ、一般の司法とは異なる軍法会議において裁かれます。自衛隊の場合この独立した司法機関を持たないため、有事の際の行動についても特別扱いされない。例えば戦闘行動中に誤って日本国民を死傷させた場合、刑法の業務上過失致死で罪に問われることも可能性としてあるわけです。そこで、私の提唱する軍事戦略は、憲法改正による軍隊保有の明記と、その後の自衛隊法の軍法化。また、軍事裁判所の設立です。現行の法体系では、国民の生命と財産を担保できない。毎年GNPの1%もの防衛予算をかけても、彼らにしっかりと仕事のできる環境を与え、国民全体が支持してあげなくては、望んでいる成果は得られないのです。私は日本サバイバル戦略で取り上げている3要素、『農業』『教育』『軍事』こそが、国家存続のための最低限の基盤であると信じて止みません。」

おわりに

 「日本に未来はあるか」と題して子寅氏との対談を終え、次世代への生き残りをかけたサバイバル戦略論に、学ぶべきものが多々見い出せた。低迷を続ける日本ではあるが、私は日本人の能力の高さと底力を信じています。次世代において、日本が再び『日の出ずる国』として隆盛するか、あるいは『かつての大国』として没落するかは、まさに現代を生きる我々の双肩に掛かっています。明日を活きる子ども達の笑顔を守るため、一人一人の国民が最善を尽くし、国家の繁栄に一肌脱ごうではありませんか。

※文中の梁子寅氏とは架空の人物です。

参考文献

遺論 繁栄の哲学 松下幸之助 PHP研究所
政治を見直そう 松下幸之助 松下政経塾特別限定版
民主主義は人類が生み出した最高の政治制度である 橋爪大三郎 現代書館
政治の教室 橋爪大三郎 PHP新書
人間にとって法とは何か 橋爪大三郎 PHP新書
学問のすすめ 福沢諭吉 (伊藤正雄 校注) 講談社学術文庫

2008年3月 執筆
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