松下政経塾 The Matsushita Institute of
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100km行軍
2007年10月

研修レポート

【100km行軍レポート】「あなたがいてくれたから」
宮川典子/卒塾生

 

 早朝ランニングの後、お風呂に入っている時、寝る前、自分の左足を眺める。思わず漏れる溜め息。「ちゃんと最後までもってくれるの?」と左足に語りかけた。もちろん応答は、ない。一週間後に一大行事を控え、私は今までに経験したことがないくらい、緊張していた。

 入塾以来、最も大きな試練になるだろうと思っていた、松下政経塾恒例の過酷な行事「100km行軍」。私が左足を異常に気にしたのは、もう15年以上くすぶっている脱臼癖を抱えていたからだ。自分の思い通りにならない左足、「こんな足・・・!」と自棄になることもあるのだが、どうしたってうまく付き合っていくしかない。危険な“爆弾”のことを考えると100kmという数字はかなりのプレッシャーだったが、反面、自分の真の姿を知るいい機会になるとも感じていた。

 そして、行軍を間近に控えたある日のこと。 目を凝らしてレントゲン写真を覗きこむ。真剣な表情のお医者様と、私。

 「う~ん・・・宮川さん、ここ見て。縦に亀裂が入ってます・・・ね」
 「・・・そうですねぇ。入ってますね」
 「ねぇ、困っちゃいましたねぇ。ところで、100km行軍はいつでしたっけ?」
 「一週間後です。あははっ」

 笑っている場合ではなかった。ちょっとしたことから痛めた左足の小指が、見事に骨折していたのだ。また左足? 脱臼癖のみならず、こんな大切な時に人生初の骨折だなんて―。と、普通なら肩を落とすところだが、負けず嫌いな私には「棄権」という文字はまったく浮かばなかった。たかが骨折くらい気合いで乗り越えてみせる! 自分の精神力を信じ、骨折のことなど自分の内だけにしまっておこう・・・。

 しかし、100km行軍の真の目的が頭をかすめる。「チーム全員の完歩」「28期生全員の完歩」「感謝協力の真髄を知る」。100km行軍は個人競技ではない。私の驕りが皆の足を引っ張る結果になるのではないか、このことをどうやって伝えるべきかと思い悩んだ。そんな中、私の骨折情報は思いがけず同期の知るところとなったのだが、皆が「誰か一人でも歩けなかったら、1月にもう一度全員で歩こう」と言ってくれた。私のケガは彼らに相当な不安を抱かせたに違いない。それでも「歩くな」とは言わない同期の、無言の励ましと理解に心底感謝した。

 いよいよ、100kmに足を踏み出す時が来た。秋晴れの澄んだ空の下、力強く歩き出す外部参加者の方たち、おそろいのオレンジTシャツを着て意気揚々とした同期の姿、たのもしいイ組の仲間たち。そんな顔々を見ていると、それまで抱えていたさまざまな不安から自分がすうっと解き放たれていくのを感じた。どうせ歩くなら、最高に楽しく、笑顔でゴールする100kmにしよう―。同じ目標に向かう仲間がいることが、私に笑顔とパワーを与え、骨折の痛みさえ心地よく感じさせてくれた。

 道中、左足をかばう右足には無数の肉刺ができた。骨折と脱臼癖を抱える左足は限界ギリギリだった。途中、冷たい雨や異常な眠気にも襲われた。でも、サポートポイントや伴走の車から最強の声援を送ってくださる職員の皆様や先輩方の顔を見たら、うれしくてありがたくて笑顔にならずにはいられなかった。数ヶ月も前からずっと心配してくださっていた先輩、数日前に「これから30km練習するか?」と声をかけてくださった先輩、「あなたならできるから!」と励ましてくださった先輩、前日に余りあるほどの激励をくださった先輩、時間内ゴールが危ぶまれる私を常に元気よく送り出してくださった先輩方。いつもに増して素敵な笑顔で私たちを迎えてくださった古山塾頭、職員の皆様。あのお一人お一人の顔が今でも思い出される。たくさんの人が私の背中を押してくれていた。

 ついに100kmの終わりが近づく。塾近くでイ組とロ組が合流し、何一つ口に出さなくてもお互いの気持ちがわかり合える絆を感じた時は、胸が熱くなった。最後は28期らしく、全員がっちり手をつなぎあって笑顔でゴール! つないだ手から、それぞれの想いが伝わってくるようだった。あの時の気持ちを的確に表現できる言葉なんて見つからない。それでも、あえて言葉にするとしたら・・・「大好きな同期と歩ききった100kmは最高に楽しかった!」

 左足がもたらした緊張と不安、試練が続いた24時間の旅。そこでわかったのは、「骨折していても完歩した私って、やっぱり“伝説の女”じゃない?」と豪語したい、愚かな私を支えてくれる人がたくさんいるということ。そんな人たちに囲まれている私はとっても幸せ者だということだ。私一人の力では到底歩けなかった、秋の三浦路。塾長や塾頭をはじめとする全職員の皆様、檄を飛ばしてくださった平野先生・上坂先生、外部参加者の皆様、塾員の皆様、先輩方、同期、そしてイ組。ゴールまで導いてくれたすべての人に、私のありったけの感謝の気持ちをこめて伝えたい。

 あなたがいてくれたから、私は最後まで笑って歩けた。本当に、本当にありがとう。

2007年10月 執筆
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