松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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製造実習
2007年9月

研修レポート

経営理念レポート
宮川典子/卒塾生

 

 色彩の落ち着いた街。焼き杉で覆われ、屋根のちょっと下の両側から飛び出した家紋。きれいに、でも自然でゆったりとした時間が流れる近江商人町並。焼き杉の黒と茶色が混ざりあっている壁の古めかしさがかえって新鮮で、私は少しの間、心を奪われた。

 私にとって「住宅」とは、ふと見入ってしまったり、なぜか不思議と落ち着ける魅力的なものだ。例えば、築100年以上経つ祖父母の家で感じる、古いけれどもどっしりと落ち着いた雰囲気がたまらなく好きで、集う人たちの気のようなものが集結してくる「住宅」という空間が心地よい。一言に「住宅」といっても、外見も構造もデザインもそれぞれで、そこには住人の夢や希望や家族形成の根幹が眠っている。「住宅」とは、なんと夢のある場所なのだろうか。そんな思いを抱きつつ、今回、第二次産業と経営理念を学ぶというテーマのもと、私は滋賀県にあるパナホーム湖東工場で製造実習に臨むこととなった。実際に家をつくっている工場の中は常に戦争だ。いくつもの建物に分かれている湖東工場、大きくて高性能な機械がラインを形成し、忙しく躍動的な音が響く中を住宅を形づくるいろいろなパーツが着実に流れていく―。そして、その中で社員・派遣社員・請負社員が汗を流しながら働いていた。

 現在の住宅産業を顧みるに、経済産業省からも答申があったように「少子高齢化、需要の多様化、『住み継ぎ』の発想、住宅の資産的価値の向上」など、問題や改革の波は確実にきている。少子高齢化が進む現代において、新築に対する需要は停滞し、受注がままならない現実がある。需要の多様化の面からみれば、これまでの画一的で比較的安価な住宅に対する住まい手のニーズが低くなり、自分たちの趣味趣向に合わせた外観や内装を求める動きが強い。これは「住み継ぎ」の発想にも関わるところがあるが、安価ゆえに品質に不安が残る住宅よりも、費用が多くかかっても良質で丈夫な、いわば250年ほども状態を保てるような住宅を後世に受け継がせたいという、本来の日本の「家」に対する価値観の復活ともいうべき現象も起こっている。また、住み継ぎをすることによって住宅を資産化し、財政不安を抱える将来への担保とする住まい手が出てきていることも、また事実である。この流れは省庁の政策にも影響を与え、住宅産業は今、新たな世代への一歩を歩み出そうとしている。

 では、工場はどのような様子なのか。そこには、自らの仕事に誇りをもち、品質にこだわり、提供できる精一杯の技術をお客様の希望あふれる家に注ぐ人たちの姿がある。パナホームでは工場の経済資源を「4M」と表しているが、それぞれMan(人)Machine(設備)Material(材料)Method(方法)を指し示す。この4Mの効率性をいかに引き出し、組み合わせてどのような付加価値をつけていくかが大切であり、どれかが一つ欠けてもいい商品は作れないとのことだ。特にMan(人)については最も重きが置かれていて、人間の安全を確保し、人間と設備が一体となった仕事をしてこそ真の生産性が生まれてくるという共通認識も強い。また、派遣社員や請負などの社外工率が5割という中でも、社員たちは仕事の一体感を大切にし、彼らに対する技術的・精神的ケアにも十分に気を遣っている。私はその懸命な姿こそ、松下幸之助が生前よく言っていた「物を作る前に人を創る」という信念が形になったものだと感銘を受けたのだが、しかし一方では先述のような厳しい現実に晒されている彼らの心中を察しずにはいられなかった。最も重要な経営資源であるManをどのように生かして、どのようにサポートしていくのか。パナホームの真の力が発揮される時がやってきたのかもしれない。

 そんなことを考えながら、私はふと思い出していた。近江で見かけた、焼き杉の色が印象的な街並みを。経済状況や買い手のニーズが日々変わっていくことは致し方ないことである。しかし、経営に携わる者はみなそれに敏感でなければならない。住宅産業の実情が変わっていこうとしている今、もしかしたらあの焼き杉の家々も何らかのアイディアを与えてくれるかもしれない。住宅とは人々に豊かさを与え、また街という空間を彩っていくもの―。すばらしい文化を近くに感じながら、今日も「家をつくる」という夢のある方法で明日を育んでいる人たちがいることを、私は胸の中で噛み締めるのである。

2007年9月 執筆
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