松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2001年5月

塾報

崩壊の序曲:日本は破綻を避けられるか
出川昌人/卒塾生

 日本の財政赤字はこの10年で「世界の非常識」の水準に達した。無責任体制による破綻の先送りは限界に来ている。残された破綻を避ける道は、一刻も早く新しい仕組み作りに取り組むことである。それにわれわれはどう対処すればいいのか。

 
 「財政」というと、一般の人々には縁の薄いことのように思われやすい。しかし、教育や社会の安定、景気といった身の回りの出来事は全て財政と直結しており、すぐにその影響を受ける。日本の財政は先進国の中で最悪かつ危機的な状態に達している。日本が世界有数の経済大国であること、海外市場で大活躍している企業を通して技術力が高く評価されていることは、紛れもない事実である。しかし、それは民間部門の話であって、もう一方の国・地方公共団体などの惨状は目に余るものがある。
 「景気は回復しつつある」という政府の発表があった一方、倒産は増加の一途を辿った。「バブルの処理は峠を越した」という発表が何度もなされながら、いまだに損失の拡大や新たな破綻が誌面を賑わしている。自分では体験したことはないが、これは敗戦に向かう過程での「大本営発表」と同じではないか。本当に知らされるべきことが知らされていないばかりか、それまでのやり方の限界が来ており、大きな転換点が眼前に迫っていることが隠されているのではないか、そんな思いが湧いてくる。現在の変化はこれまでの景気の山や谷とは違い、戦後の日本の成長を支えてきたやり方への決別となる可能性が高い。迫りつつある日本の大きな構造変化に焦点を当てることが危急である。

瀕死の国家財政

 国家財政がいかに悪化しているかは、すでに本誌でエコノミストの奥江勲二氏が指摘したとおりである(注1)。恐ろしいまでに膨れ上がった国や地方の借金や、これから先に発生することが予想される負担が、社会の屋台骨を大きく揺るがすばかりか、激痛を伴う構造変化を避けて通れないものにしつつある。では、どうなれば、それが国民の目に明らかになり、同時に生活を直撃することになるのだろうか。
 企業を例に見ると、これといった確実なものだけでなく、思いもしなかったようなことがきっかけとなって経営不振を招くことが度々ある。体力の弱りきった状態では風邪を引くことさえ危険なのと同じである。大切なのは、そういう境遇にあることを理解し、そういう状態では少しの変化や負担の増加にも対処できないばかりか、全体が激震に見舞われる危険があることを認識しておくことだろう。
 悪化した財政状況を国民の目に晒し、生活を直撃する引き金として「株価の急落」、「金利の高騰」が想定される。加えて「欧米の景気動向」も重要である。
●株価の急落
 注目すべき指標の一つは株価の水準である。一般に、大企業と呼ばれている上場会社への評価は、株価が端的に表す。またそれらの集大成である日経平均などの株価指数は経済全体の大切な先行指数である。
 バブルが崩壊して株価は暴落した。株価とは「いくらならその企業に投資するか」という値だから、株価が下がるということは、投資する側から見ればその企業の価値が下がったことになる。したがって、そうした企業が資金を集めようといくら株券を印刷しても手にできる額はそう多くない。バブルに踊った日本の銀行や建設、不動産、リース、流通業の中には、借金が大き過ぎて株価が以前と比べ物にならないくらい下がったところが多い。今後もし景気が回復しなければ、さらに損失は膨らみ、資本金を食いつぶして債務超過、倒産するしかない。欧米では株価の高い企業はその株価を利用して他の会社を買収したり、さらなる成長を目指したりするが、全くその逆である。名の知れた大手企業が潰れると連鎖倒産や消費の落ち込みで、体力の弱いところは否応無く退場を余儀なくされ、深刻な不況が避けられなくなる。
●金利の高騰
 金利の動向からも目が離せない。日本はかつてない低金利状態が続いている。このおかげで、借金の多い国や企業も何とか生き長らえている。しかし、一方で運用によって資産を増やさなければならないところは大変である。生命保険会社の倒産が相次いでいるが、これはバブル時代の投資の失敗だけでなく、加入者に支払うのに十分な運用からの収益が取れていいない「逆ザヤ」という赤字が続いているからだ。この損失も一般企業の場合と同様、資本に当たる部分を食い潰すと倒産となる。
 しかし、金利について言えば、膨れ上がった財政赤字解消のために市場の通貨量を増やし、インフレを起こして金利の急騰を招く方がより恐ろしい。日本の財政赤字は膨大な額である。その残高が一向に減りそうにない状態で金利が上昇した場合、財政は一気に破綻に向かう。今は民間部門に潤沢にあるお金が国の借金の「貸し手」に回っているからよいものの、もしそのお金が安全性や高い収益を求めて海外へ流出し始めたら、国はより高い金利を提示しない限りそれを国内につなぎとめておくことはできない。高い金利はより大きな利払い負担を意味するから、巨額の借金を抱えた国・地方・企業は一気に追い詰められる。投資先がないから日本の金融機関が国債を買い続ける、と言われるが、こんな異常な状態が本当にずっと続くとは思わないほうが、余程正当な見方である。
●欧米の景気動向
 これまで未曾有の好景気に沸いてきたアメリカと、ヨーロッパの景気の減速も悪影響を与える。日本やアジアの国々にとって、欧米の好況は輸出の拡大を通して経済の支えになってきた。このプラス要因がなくなれば経済は冷え込む。そんな環境では税収という国の収入が伸びることは不可能である。
 以上、現状を簡単に説明した。それでは、今後どうすればよいのか。

日本がとるべき対策

 まずなすべきことは、日本の現状をもっとわかりやすく国民に知らせることである。これまでのやり方を見ていると、財政に関しては仕組みが複雑な上に、問題を個々に取り上げたりと、全体像を明確に示さなかったために、現状の深刻さが一般の人々に全くと言っていいほど伝わっていない。財政破綻を回避するための方策は、尋常でない痛みを伴うと予想されるだけに、何より先に事態の深刻さを国民に理解してもらうことが先決である。日本の置かれている状況、それに至った経緯を説明する。その上で、財政を立て直すにはどうすればよいのか、借金を減らすにはどうすればよいのかを提示する。つまり歳入をどうやって増やすか、歳出をどこまで減らすかということである。具体的には税金や社会保障費などの負担を増やし、公共工事、社会保障など公的なサービスをカットするということになる。
 次に行うべきは、その痛みはどのようなもので、それはどれくらいの期間続くのかを明らかにすることである。負担の程度と期間をはっきりと示す。破綻の危険を想定しての再建策だけに、これまでの予算の枠組みや税制をご破算にして、白紙から作成するぐらいのことをしなければ、有効な政策とはなり得ない。
 日本の仕組みを見ると、赤字を計上する企業があまりに多く、きちんと税金を納めている企業や個人に税の負担が重くのしかかっている。加えて、税金は一旦納められれば納税者のチェックを受けずに使われる。極めて不公平かつ不透明な仕組みである。今の体制に大ナタを振るう以上、本当に援助が必要な人々へ配慮した上で、国民に納得してもらえる再建策を提示することが、今後の日本の方向性を決定することになる。
 日本がこのような大変な試練に堪えられるかどうかについては、私は楽観的である。日本には、世界が羨む優れた企業や人材、技術力がある。そうした競争力のある分野をさらに伸ばすこと、逆にいえば競争力のない分野を不必要なまでに国民の負担で支えることや、税金の無駄遣いをしないことで、財政の立て直しは可能と考える。バブル崩壊以後の10年間が示すように、これまでのやり方では財政破綻は避けられない。痛みを先送りする余裕がもはやないことを、国民全体が事実として認識することが、日本をこの危機から救う唯一の方策の第一歩である。

政府負債残高(対GDP比)
 
プライマリーバランス(基礎的財政収支)
出典: OECD

(注1)『塾報』2000年11月・12月号

2001年5月 執筆
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