松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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2000年1月

塾報

21世紀の繁栄譜
原口一博/卒塾生

「松下政経塾出身国会議員の会」が、21世紀の日本のありかたを考えた『21世紀の繁栄譜』(PHP研究所 1400円)を発行した。その中から高市早苗衆議院議員(松下政経塾第5期生)と一緒に同書のまとめ役をつとめた原口一博衆議院議員(松下政経塾第4期生)の論説を紹介する。

 
 松下幸之助塾主はかつてPHP運動(PEACE AND HAPPINESS THROUGH PROSPERITY)を提唱した。この運動は、繁栄を通して平和と幸福を願うものであり、自由主義市場に基づく経済活動が保障されることによって、人類の平和と幸福を追求していく資本民主主義の原型を見ることができる。これに対して社会民主主義は、むしろ皆が平等であるという幸せを通して繁栄と平和を築くという点が異なっている(PEACE AND PROSPERITY THROUGH HAPPINESS)。自由主義が、人間の努力や競争という本質から発しているのに対して、社会主義は、水平性とか人間の平等でありたいという願いから発している。この2つは、ともに人間の基本的欲求を思想化したもので本来ならば対立概念ではないはずだが、不幸なことに冷戦時代には東西対立の根拠とされてきた。

 私は、次の時代を導くキーワードは「THROUGH PEACE」という言葉で集約できるのではないかと考えている。すなわち「平和」「生きるための地球環境」「お互いが支えあうための内面の環境」、この3つのPEACEを実現することに主眼を置いた民主主義(PROSPERITY AND HAPPINESS THROUGH PEACE)。繁栄も地球環境あっての繁栄であるし、経済成長も人々の心の安定を前提としたものでなければ意味がない。ましてや資源の分配等を巡って争うなどという発想は、このPEACEに主眼を置く考え方からは出てこない。資本民主主義でも社会民主主義でもない民主主義の萌芽を平和民主主義・環境民主主義とよんでいいかもしれない。それは突き詰めていくと「人が人であるための」政策にいきつく。

 昨年夏、スウェーデンの社会福祉事業団SAMHALLを訪れた。人口890万人のスウェーデンで、社員数3万人、その90%が「チャレンジド」(神から挑戦すべき課題を与えられた人々、つまり障害者)である。体だけでなく、心や知能に障害のある人たちが同じ職場で互いを支える。所得は、一般的なスウェーデンの労働者の85%で年間売上は5千億円を越える。生み出している製品やサービスもさまざまだ。国内800カ所の事業所で雇用形態は多様性に満ちている。
 ストックホルム郊外の事業所の作業場で人々の生き生きとした表情に出会った。製品詰めを担当する者、宛名を書く者などいくつかのチームで作業を行っている。「企業が中心にあるのではありません。人が中心です」「できないことを着目するのではありません。それぞれの人のできることが大切」「仮に全身が動かなくても目線さえ動かせれば、それはチャンスです」。あくまで中心は一人一人の人なのだ。それぞれの人の可能性に応じて仕事が組み立てられていく。
 この「温かな人間中心主義」のなせる奇跡に松下幸之助塾主の面影が重なる。そして人が人であることの意味を考えさせられる。福祉は与えられるだけのものではない。自らが就労して、納税者になる。その喜びがこのサムハルには満ちている。さまざまな逆境を跳ね返し無限の可能性を示し、どんな苦境でも「人間」を大切にした松下さん。可能性に挑戦する人たちの偉大さに触れるとき松下さんから手渡された「温かな力」がふくらんでいくのを感じる。

2000年1月 執筆
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