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100kmという距離 -山と谷に考えたこと-

 十年ほど前何かの雑誌にこんなことが書いてあった。

 「14歳で金メダルを取った体操選手は、その後の人生を、老いてゆく自分と共に歩いていく。高校で抜群の成績を取った陸上選手の多くは、ほんの一握りを除いて、その後の人生をごくごく普通に送ってゆく。そこでふと考える。人生にはピークというものがあるのではないか。自分の人生、いったいどこでピークを迎えるのであろうか」

 この文章が私の心の中に印象深く残っている。自分の人生を考えるとき、果たしてどこでピークを迎えるか。いや、どこでピークを迎えるように努力を重ねていくのか。今もそれを日々考えている。

 100キロを歩いていく。正午に茅ヶ崎をスタートして、鎌倉、逗子を経て、午後6時過ぎに30キロ地点の横須賀。それからあくる日の朝まで暗闇の中を黙々と歩く。いったいどこまでこの暗闇を歩けばよいのか、先が見えない不安が頭をよぎる。坂を上り、そして下り、カーブを抜け、ひたすら歩く。

 そんな中で、私は、自分がなぜ今歩いているか、この100キロ行軍はなぜ私に課せられたのかを考えていた。思い返せば、この4月に政経塾に来てから、日々の忙しさに追われ、失っていたのは“考える時間”だった。先の先を考え、自分の良心に照らして何をしていくべきか、自分は何をしていかなければならないか、日々の予定を消化することに追われて、そんな重要な時間を持てなかった自分を反省せねばならなかった。暗闇の中、ただひたすらに自分の足を前に運ぶ。そんな中で、これまで考えていられなかった様々なことを考えた。なぜか涙が出る。100キロの辛さではなく、暗闇の中の100キロが与えてくれた「素」な気持ち。それが100キロ行軍が私に与えてくれたもっとも大きなものであったように思う。

 「人生にはピークというものがあるのではないか。自分の人生、いったいどこでピークを迎えるのであろうか」

 下り坂を進んでいるときにこの一節が頭にうかんだ。下り坂では楽である。上り坂では足が重い。しかし、100キロのゴールはスタートと同じ茅ヶ崎の政経塾。上った分だけ下りがあり、下った分だけ上らなければならない。人生は100キロ行軍のようなものかもしれない。今の自分は果たして生まれたときより上っているのだろうか、下っているのだろうか。知識と引き換えに、生まれたときのような素直さを失っているのかもしれない。それを相殺したら、果たして上っていると胸を張っていえるだろうか。

 「素」な気持ち。それを持ち続けること、そして、振り返ってそれを考え直す時間を十二分に取れと、今は亡き、松下幸之助塾主が仰っておられるような気持ちになった。

 これから自分の研修を自分で考えていく時期に入る。それを前に100キロで学んだことはかけがえのないものになった。

 それを私が得られたのは、紛れもなく24時間サポートしてくれた諸先輩、職員の方、そして協力したチームのメンバーの存在のおかげ。本当にありがとうございました。

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福田達男の活動報告

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Tatsuo Fukuda

福田達男

第24期

福田 達男

ふくだ・たつお

VMware 株式会社 業務執行役員(公共政策)/公共政策本部本部長

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デジタル政策、 エネルギー安全保障政策、社会教育政策

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