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アメリカは遠く、戦火は近い。
〜日本の覚悟が試されるアジアの平和構築〜

 私の志は「100年後に生き残れる主権国家日本の実現」である。しかし残念ながら、政治体制を異にする3つの核保有国に囲まれた日本は、独力で平和を構築することが極めて困難だ。だからこそ、日本が平和国家としての道を歩み続ける為には、同盟国である米国はもちろん、同志国たるインド太平洋の国々との連帯が欠かせない。現実的安全保障観に基づく平和構築のために何が必要か。私はその答えを探るために、米国ワシントンD.C.に渡航し、外交安全保障、日米関係、経済安保の専門家や実務家との対話を重ねた。そこで感じたことは、米国とアジアの「距離」である。本稿では私がワシントンで感じた危機感と、日本の覚悟について述べたいと思う。

 ワシントンにおいて私は、これまでの自身の米国観が日本を主語とした「日米関係」の中でのみ考えていたことを痛感する毎日であった。同盟国米国は、世界最大の軍事力を保有する圧倒的強者だ。しかし同時にその軍事力は、地球のあらゆる場所に投射されていることに目を覆っていたのである。そして何より米国は、自由と民主主義を掲げる以前に、まず米国と米国民を守る国であるという当たり前の事実に、私自身が十分に向き合えていなかった。ワシントンで会う米国人は皆、私にこう問いかけた。「それは米国の利益になるのか?米国人の豊かさに繋がるのか?」。悲しい現実が私の前に無言で立ち塞がる。米軍は日本の為だけには動いてくれない。米国の利益と合致し、かつ優先順位が高いことが、コミットメントの条件であると。そして米国は私の予想を遥かに超える資本主義国家であった。それは政治ですら「ディール(取引)」の世界で、根本には経済的繁栄に勝る価値は無いと考えている節すらある。(例外的に国家の為に命を捧げる軍人を始めとする奉仕者に対しては、国家の経済的負担を度外視して丁重に扱うのもまた米国の特徴だ。)米国がまず自国の利益を基軸に考える国である以上、「日米関係」は常に「米日関係」と表裏一体であるという気付きを得たことが、今回の米国訪問の成果のひとつである。

 米国から見たアジアはどのように映るか。私が米国国民からのヒアリングを通じて率直に感じた印象は、地球儀をエリア分けした一地域に過ぎないという事実だ。しかも太平洋という皮肉にも「平和の海」が空間的・心理的な安心感に繋がり、アジアの危機はどこか「対岸の火事」とすら捉えている米国世論の現実を突きつけられた。台湾有事は抑止しなければならない。南シナ海問題に対しては同盟国及び友好国と共同歩調を取る。しかしそれは米国にとって、中国の海洋進出が米国の国益に反するからであり、何もアジアの平和と安定を求めたからではない。今回の米国訪問では、CSIS、ハドソン研究所、ランド研究所、米国笹川平和財団などの研究員らと対話する機会を得たが、彼らの主語は米国であり、米国の国益のための日本、”米日”同盟だという文脈を外れることは無かった。彼らの語る日本を含むアジアの危機は、どこか一歩引いているところもあった。アジアの危機は、在日米軍にとっては喫緊の危機でも、米国にとっての最大の試練ではない。彼らの試練は、既に発生している中東での紛争対応、及び新たに発生したウクライナ戦争への対応であり、そして何より米国本土の防衛である。(彼らは本土を「マザーランド」と呼称し、そのことからも本土防衛の重要性を伺い知ることができる。)米国は近年、社会問題化する麻薬対策のための対中南米政策に本腰が上がり、アジアの危機はやはり劣後になる。私は1万キロ離れたワシントンから日本を想った。アジアの中心的存在として、平和国家として、日本の覚悟が問われているのだと。

 では日本に迫る危機とは何か。中国による不透明な軍備増強、北朝鮮による国連決議違反の核ミサイル開発、ロシアによる極東の軍事活動の活発化。いずれも地域の軍事的均衡を揺るがし、平和と安定を脅かしている。それと同時に、私は米国に過度に依拠した我が国を含む自由主義国の安全保障体制にも課題があると考える。日本人にとって米国は、唯一の同盟国であり、世界の平和の擁護者として、有事には日米安保条約に基づき米軍を必要かつ十分な派遣をしてもらえるものだと、何か「安全神話」のようなものに捉われていないだろうか。米国のトランプ政権は「アメリカファースト」を掲げ、米国民の利益を第一に行動することを明言している。従って米国が必ず日本有事に十分なコミットメントをしてもらえるというのは幻想だ。日米安全保障条約第5条は、日本への武力攻撃に対し米国が「必要な行動」をとると明記している。しかし、その「行動」がいつ、どれほどの規模で開始されるかについては、条文上も、共同声明や政府答弁でも明確には示されていない。これは作戦計画の秘匿性と、米軍部隊運用の柔軟性を確保するための構造的な性質だ。こうした構造上の曖昧さを抱えるからこそ、米国は日本の本気度を見ている。日本は日本人の生命と財産を守る為に、どれだけの覚悟を持ってアジアの平和構築に取り組むのか。その本気度に対して、信頼できる友人でもある米国は必ず応えてくれるであろう。(その逆もまた然りである。)

 では日本は何を通じて、その本気度を実践すれば良いのだろうか。私は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)[i]」を、国を挙げて実践していくことこそ日本外交の勝ち筋であり、主権国家の生き残りの鍵であると確信している。しかしそれは日米同盟の単なる延長線ではなく、日本が外交の主人公となって、独自に仲間を一人ひとり集めていく地道な努力だ。「日本と協力すれば我が国は高所得国になれる。」「我が国には日本との合弁企業が多くあり、日本との経済関係は我が国経済の生命線である。」「我が国の国民の親日感情を考えれば、日本との友好関係を継続する他ない。」そのような国がインド太平洋地域に広がれば、日本が目指す平和国家の道と、インド太平洋地域の平和と安定に対する高いコミットメントが得られるだろう。そうすればインド太平洋は、米国にとっての戦略縦深であると同時に、地域内の各国を繋ぐ戦略的パートナーシップの海となる。昨年来、インドネシア、ベトナム、フィリピン、カンボジア等を訪問した私は、ASEAN諸国の求める日本像を理解する端緒を得た。それは「地域の安定と平和へのコミットメント」である。ASEAN加盟国は地域内に紛争を持ち込むことを嫌う。そしてインドネシアをはじめとするいくつかの国は非同盟中立外交をドクトリンとして、米中対立の中における紛争回避を独自に実践してきた。だからこそ、紛争の原因とならない平和国家日本を歓迎しているのであり、それは米国の対岸たる日本だからこそ出来る技なのだ。アジアにおける危機は日本の喫緊の試練であり、同時にインド太平洋全体の戦略環境を左右する重大事であるからこそ、日本の平和のコミットメントを歓迎している。こうした国際世論からの期待を胸に、日本はより成熟した道徳国家であらねばならない。「自分だけが良ければ良い。」という独善的姿勢でいられるほど、日本は「強者」ではない。しなやかに穏やかに、それでいて平和を希求するような、徳の高い国であらねばならない。地理的に離れた米国との心の距離を縮め続け、インド太平洋においては「信頼され尊敬される国家」を目指す。その為に、日米同盟の深化と、自由で開かれたインド太平洋の追求こそ、日本の生き残る道なのである。

 インド太平洋の秩序は、いま大きな転換点にある。米中対立という外圧の中で、アジア諸国はそれぞれに自律性を模索し、日本にもこれまで以上の役割が求められている。日本が進むべき道は、力の誇示ではなく、信頼で世界をつなぐ国家としての道である。私たちの世代が果たすべき責任は、この地域の未来を100年先まで見据え、平和と繁栄の基盤を自らの意思で築き上げていくことである。

 アメリカは遠く、戦火は近い。だからこそ日本は、覚悟を決める必要がある。日本人は第二次世界大戦がもたらした凄惨な事実から目を背けてはならない。80年前に味わった苦痛を再び国家国民に強いることがあってはならない。だからこそ本気で戦争を抑止するという、現実的平和構築が求められているのであり、観念的平和論や排外主義からは一線を画す必要がある。民主主義国家として、国民から湧き上がる平和への希求を、国家のあらゆるアセットを用いて具現化する責務がある。そしてそれは、国際社会に復帰した際に誓った平和への約束を、積極的に具現化するという日本の「国のかたち」を示すことだ。私は日本人に生まれ、日本に育てられ、そして今、日本の為に尽くす覚悟がある。先人に学び、衆知を集め、国民とともに平和構築に取り組む。その道の先頭に立つことを、私は恐れない。

[i] 外務省によれば、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)とは「法の支配を含むルールに基づく国際秩序の確保、航行の自由、紛争の平和的解決、自由貿易の推進を通じて、インド太平洋を「国際公共財」として自由で開かれたものとすることで、この地域における平和、安定、繁栄の促進を目指す。」ものとされている。
(出典:外務省HP“自由で開かれたインド太平洋の基本的な考え方の概要資料”2025年12月3日、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000430631.pdf 、2025年12月12日参照)

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