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9月8日~22日、和歌山県新宮市の熊野川町森林組合にて、営林実習体験を行なってきた。おりしも台風13号が日本列島に近づいており、和歌山県にも上陸するという悪天候。しかし我ら29期「晴れ男組」。台風が上陸した19日を除いて、悪天候ながら何とか持ちこたえて営林実習を行うことができた。今回は「地拵え」、「植林」、「林道つくり」そして「間伐」を体験した。
「地拵え」とは、植林に向けて皆伐した山に残っている丸太や枝などを何箇所かに整理し、片付けていく作業だ。この地味な作業が非常に重要である。丸太や枝を山の斜面に対して垂直に並べていくことによって、雨などによる土の流出を防ぐことができる。また、これらが腐って分解されることによって、土に栄養が供給されるのだ。急な斜面を登ったり降りたりしながら作業を進める。切り株を動かそうとしても、しっかりと根が張られていて容易には動かせない。こうした根っこを残していくことも、地すべりなどを防ぐのに大切な役割を果たすのだ。1日かけて、100本分の苗木を新に植林するためのスペース確保をした。
今回植林したのは桜50本、クヌギ50本。建材として需要のある杉、ヒノキだけではなく、広葉樹も植林して景観を作っていくことも森づくりの一環だ。地拵えで空けたスペースに、数メートル間隔で植林していく。苗木は弱いものなので、根付くまで保護してあげなければならない。1本1本に保護ネットを巻いていく。今回植えた木々が数十年後、この山を覆っていく様子を想像しながらの作業はとても楽しい。「大きくなれよ」と声をかけながら丁寧に植林していく。こうした作業を通して、山や森への愛情が育まれていくのだろう。
森の手入れを定期的にしていくことが大切だ。そしてこの森を100年後、200年後、どのようにしていくのか、というビジョンをもって取り組まなくてはならない。熊野川町森林組合では「複層林」つくりに取り組んでいる。複層林とは、間伐をしながら杉、ヒノキを大きく育てる一方、次代を担う杉、ヒノキも植林して育てていく。また間伐で日光が当たるスペースを確保し、下草や低木、広葉樹などの多様な植物も共に育つ環境を作ることでもある。このような多彩で複層的な森林をつくることによって、そこに生息する動物達にとっても良い環境、自然災害にも強い環境を作っていくことができるのだ。
「緑の砂漠化」という言葉を聞いた。杉、ヒノキが密生して日光が当たらず下草も生えない森を言う。このような森では木も細く、土壌も悪く、自然災害に弱い。こうした不健全な森を手入れするのに最も重要なのが間伐である。間伐は創造的な破壊なのだ。そして間伐するには作業道を作っていかなくてはならないのだ。
作業道をつくるのは、シャベルカーで切り開いていく。道つくりは山の形をイメージし、作業しやすく、間伐材を引き出しやすい効率的なルートを考える。初めてシャベルカーを操作したが、思うようにアームやシャベルが動かなくてじれったい思いをした。
間伐では、実際に30年から40年の杉、ヒノキをチェーンソーで切る作業をした。木の重心を見極め、伐倒方向を吟味して「受け口」「追い口」を切っていく。この道30年の山男、和田氏の指導を受ける。実際チェーンソーを木に当てると、思った以上に木の太さが重圧になる。「失敗は許されないぞ!命もっていかれるからな!」という和田さんの言葉に、自然を相手にする怖れと厳しさを感じた。20メートルからの木が倒れるときの唸り声にも似た響きに圧倒された。
熊野川町森林組合長の田中さんから、森づくりのキーワードとして以下の話しを伺った。
(1)目標の設定と理念の持続熊野川町では上記に挙げた複層林づくりに取り組んでいる。持続的で豊かな生態系を維持した森づくりだ。100年後、200年後先を見据えた森のイメージが必要となってくる。そして、その過程にこそ楽しさがあるそうだ。
(2)適地適木その土地に自生している木の種類が、やはり一番良い。また経済林として杉、ヒノキを植林するにしても、そうした土地に適した木々との組み合わせで考えていくことが生態系にも適した森になっていく。
(3)よく観察する森の健康状態や、森が助けを求めているものに耳を傾ける必要がある。そこで人間が何をしてあげられるのかを知らなくてはならない。
(4)持続性成長を続けていくためのヒントは、成長の要因の対極にあるものを知らなくてはならない。それをしっかり見極めて手入れをする必要がある。
(5)美しい森は環境と経済効果が高い道具でも、機能を追及した形にこそ美しさがあるように、森も「美しいな」「豊かだな」と感じられる森が良い森なのだ。また景観林業という視点も、今後の課題であるそうだ。
日本の7割は山間地である。山や森林を守るということは、非常に重要なことなのである。そして、山仕事を生業にしている人たちの意識や行動は、すなわち日本国土の7割に影響してくるということだろう。産業経済、自然環境、景観、さまざまな要素が絡み合ってくる森づくり。これら全ての調和を図り、100年後、200年後を見据えた活動を展開している熊野川町森林組合の皆様の高い志に感動した。人間が自然を支配するのではなく、本来持っている自然の力を引き出すお手伝いをしながら、人間生活を営ませていただく。長年、自然を相手にしてきた畏敬の念が、このような姿勢や考え方を育んできたのかもしれない。田中森林組合長の祖父様はよく言っていたそうだ。「山の一番の肥やしは山主の足跡だ」と。山の今後を考えている人間がこまめに山に入ってチェックし、手をかけることが、森づくりには大切なのだ。山に対する大きな愛情と、自然に対しての経営というものを感じることができた営林実習だった。
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Akira Ohtani
第29期
おおたに・あきら
茨城県ひたちなか市長/無所属
Mission
地域主導による地域経済の活性化