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100キロ行軍

 100キロ行軍、たいして辛くはなかった。これがまず頭に浮かぶ。24時間以内に三浦半島を一周して帰ってこなければならない、という制限があったとしても、ゴールは必ずある。歩きさえすれば、いずれそこにたどり着く。数年前、どこも就職先もなく、実力も認めてもらえず、先の見えない状況をアルバイトで繋いだ、自分なりに一生懸命手探りで歩いていたあの時期の辛さに比べれば、飯事のようなものだった。しかし、辛さとは別の意味の体験効果は確かにあった。

 松下政経塾の五誓の中に「感謝協力」というのがある。それが一番大事なのだ、とはこの100キロ行軍を塾に導入した平野先生の言葉だ。チームをい組、ろ組の二つに分けた際に教えられた。塾主松下幸之助の想いもここにある。しかし塾主の考えとは裏腹に、この行事には過去紆余曲折があったらしい。極限に至った時にお互いを思いやることができるか、ということが主題にあるのに、それが、単に時間の長短を気にしたり、レースまがいの着順を競うことになったりしたようだ。

 リーダー寺岡を中心にろ組の姿勢としてはこう決めた。1時間5キロのペースで歩き、休憩は一時間ごとに一度、5分間だけ。事前練習で分かった個々人の課題としては二つ。眠気をどのように克服するか、と体の各部の痛みをどうするか。チームとしての課題は設定しなかったが、今振り返れば、「コミュニケーション」だったと思う。

 歩き始めはとても調子がいい。ろ組には塾外からも二人ほど参加したのだが、彼らと話をしながら、話題も豊富に、時に冗談を挟みつつ快調なペースを保つ。実はここに反省点がある。私は練習の時、「話す」ことが体力の消耗を促すことはわかっていた。しかし、そのことを仲間と共有しなかった。口では何も伝わらないのではないかと思ってしまったからだ。

 50キロを過ぎた時点から、疲れが表に出てきた。足の痛みもひどくなってきた。特に股関節の痛みがひどい。その痛みは腰につながり、体のバランスを調整するのが厄介になった。仲間の状況も芳しくない。特に65キロ地点から70キロ地点に至る道は、異様に長い。心理的に長く感じたのではなく、塾側が休憩地点を決める際、適当な場所が5キロ内になかったため、5キロをかなり過ぎた地点に設置されていた。その間、外部参加者の一人は胃の痛みと寒さからくる発熱を訴えてリタイヤ。もう一人もリタイヤ寸前だ。どう対処したらよいものか。私は二人が体調を乱してから、付きっきりで歩いてはいた。殿を務めるのが私のチームでの役目。とにかく声をかけていくことしかできないので、「大丈夫ですか」を馬鹿の一つ覚えのように繰り返す。自分の語彙の足りなさだけではなく、相手を支える行動の選択肢の少なさに辟易する。自動販売機で温かい飲物を買ってあげたり、リーダーも疲れているのに、より疲れている仲間のリュックを持ってあげたり、兎に角、後半に入ると、だましだまし前に進んだ。

 この100キロ行軍の主旨は、英語で表せば“Team Building Program”であるし、我々もチーム行動を通して28期の互助の精神を鍛える、ということだと思っていた。あくまでも100キロを歩く行程においてだ。しかし、行軍を終えた今では、こう思う。28期生は入塾以来それを十分に培ってきたのだ、と。思いやりの気持ちや惻隠の情(少々ニュアンスは異なるが)、互助の精神、といった感覚は入塾してからの半年間で十分に培われ、100キロ行軍はそれを再確認するイベントであったと強く思う。

 そして自分にとってこの100キロ行軍は別の意味もあったことに気がついた。それは塾のスタッフ、あるいは先輩と後輩の関係を強化するという一面。行軍中、多くの先輩方に足腰をマッサージしてもらったことは忘れないし、スタッフの励ましの言葉や温かい差し入れは、個人練習のときには、どうしたって経験できないことだ。本当に有難く、100キロの途中で食べさせてくださった餃子のおいしさは終世忘れることはないと思う。

 ゴールした時、「これで本物の塾生になりましたね」と言葉をかけていただいたのが印象的だった。100キロ行軍するしんどさを塾全体で支え合い、それが感謝協力に導く。100キロ歩くことは別段辛くはなかったが、そのことがわかってはじめて、本当の松下政経塾生が生まれるのだなと実感した。支えてくださったみなさん、本当にありがとうございました。

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Yutaka Kumagai

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