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関西研修を振り返って

 5月15日から24日の10日間にわたる関西研修は、我々27期生の心の中に激しい変化をもたらした。塾主研究、農業体験、松下本社見学、伊勢神宮参拝を経て、25日にもう一度茅ヶ崎にて全員が揃ったとき、表情の変化は明白だった。

 我々をそこまで変化させた事象、それは皆それぞれに長短ありながらも、これまで不明瞭であった「塾主:松下幸之助」との距離が、研修によって一気に身近になったこと、また私たちは「日本人」として生きていることを、その身体で実感できた2点に他ならない。

 しかし上記2点についての評は他の塾生にゆずりたい。私は今回の研修であらためて認識できた別の話、「日本文化の素晴らしさ」についてしようと思う。

 それは人間国宝である江里佐代子氏の作品、裏千家今日庵の随所に見られた建築の「粋」、そして塾主松下幸之助が戦時中の昭和17年に社員に対して訓示した、「製品劣化に関する注意の通達」を知ったときであった。

<江里佐代子氏の作品>

 塾主松下幸之助がPHP思想をより発展させるためのよりどころとした茶室「真々庵」。その地下1階では、特別展として登録無形文化財の保持者すなわち人間国宝の作品がいくつか紹介されていた。何名かの方々の作品を拝する中で、最も衝撃的であったのが江里佐代子氏の作品であった。

 江里氏は截金(きりかね)の技法を用いた作品を得意としている。截金は、氏のホームページ(http://www.heian-bussho.com)によれば切金とも書き、純金箔やプラチナ箔を数枚焼き合わせ、厚みをもたせたものを鹿皮の盤の上で竹刀にて細く線状、または、丸・三角・四角などに切り、それを筆端につけて貼りながら種々なる文様を描き出す手法で、氏は身近な工芸作品いわゆる箱や鞠、屏風、衝立、額装壁面装飾などにおいて実践されている。

 驚嘆すべきはその文様で、氏は丸や三角、四角の形を「あえてずらして」表現されるのである。正円、正三角形、正四角形を作られるのではない。丸は確かに歪んでいる。三角や四角もよく見れば確かに歪んでいるのである。

<裏千家今日庵>

 今日庵は、千利休の孫である宗旦の四男、宗室を祖とする裏千家流家元の茶室であり重要文化財に指定されている。利休切腹の後、豊臣秀吉より千家再興を許され、利休遺跡「不審庵」が宗且にゆずられた。正保5年(1648)宗且が71歳の時、不審庵を三男宗左にゆずり、末子の四男宗室を連れて、北裏の現在地に今日庵を建て隠居したのがそのはじまりである。

 今日庵は二畳敷の「今日庵」と四畳半の「又隠(ゆういん)」から成り立っている。造りはいたって素朴で、又隠は葛屋葺の四畳半、筆先柱・網代の駆入天井・突上げ窓のある利休好みの茶室となっている。

 私が特に注目したのは、建物の上からの重みを支える梁(はり)に見える「粋」である。左は角材なのだが、右にいくにしたがってだんだん丸みを帯び、やがて丸材へと変わっていく。いわば左右非対称なのだ。

 まさにここに、私は「日本文化の素晴らしさ」を見出すのである。西洋はとかくシンメトリック(対称的)な、完璧・完全なものを求める。日本人は違う。完璧・完全なものではなく、その一歩手前のものを善しとするのだ。爾来日本では「はずし」「きりかえし」といった独特の文化が形成されてきた。

<製品劣化に関する注意の通達>

 さて『日本文化の素晴らしさ』はそれだけではない。戦争が激化し、物量ともに乏しくなる情勢下において、塾主松下幸之助は社員に対して以下のように訓示した。

「製品劣化に関する注意の通達」 昭和17年10月30日 幸之助47歳~製品には、親切味、情味、奥ゆかしさ、ゆとりの多分に含まれたるものを製出し、需要者に喜ばれることを根本的の信念とすること~

「情味」・「奥ゆかしさ」、あえて無機質な工業製品に対してこの言葉である。炊飯器に、洗濯機に、いくら声をかけたとしても、炊飯器や洗濯機は答えてくれない。だが塾主はたとえ工業製品であっても、そこには脈々とした「生命」が流れるものと信じた。だからこそ松下の工業製品は有機質な「生き物」となって需要者に語りかけ、愛着をもたれた「ナショナル・パナソニック」ブランドは、日本を越えて世界に確固たる地位を築くことになったのだろう。

 私は常日頃、「日本文化の素晴らしさ」は現代において決して忘れ去られていないと信じる一人である。無機質で完璧なデジタル音を嫌い、太く歪みのあるアナログ音の良さに気付いた若者がレコードを楽しんでいる。スチールやアルミといった無機質な鋼材を嫌い、温もりのある木材の良さに気付いた流行に敏感な人達が日本の木工製品、ひいては北欧の家具に注目し、あるものは高値で取引されている。

 人だけではない。もちろん企業も気付いている。日本発のプレミアムカーとして昨年登場した某自動車メーカーのブランドは、日本人の感受性を生かした精妙さ、いわゆる茶道に代表されるような内面的な「日本の心」をその開発コンセプトとした。これらはあくまでも一例だが、探せばまだまだあるだろう。

 さて研修を終えて、私の認識は今や「確信」へと変わりつつある。四季のある繊細な自然の中で育てられる美しい情緒、自然の前に跪く謙虚な感性によって培われてきた日本「伝統」の文化や精神は、日本独自のカラーであり、また強さを出していく源泉でもある。その炎が消えないかぎり、たとえ今後どんな世の中になろうとも、私たちが愛する日本という国は必ずや存在し続けるに違いない。このひろい世界ひいては宇宙において、一筋の光彩を放ちながら。

以上

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