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塾主的サービス精神とアタチンから始まる世界観

1 はじめに

 本研修の目的は「塾主を知る」というものである。字義通りに解釈すれば、塾主の足跡を辿り、縁ある方々から話を伺い、塾主について見聞を広めるということになろう。しかし、私は、より高い目的を課してみた。それは「塾主を理解する」ということである。実は、入塾に際して私は塾主との間に世界観について大きな隔たりを感じていた。宇宙の秩序に基づいて世界人類は繁栄することになっているという超国家的な世界観を塾主はお持ちである。対して私は、国際関係は力と力の関係によって規定され、各国家は自助努力により繁栄を勝ち取らねばならない、という国家に軸を置いた世界観である。もとより、塾主のお考えを100%受容できるはずもないが、こと世界観という政治を志す者にとって常に心がけるべきファクターが不一致であるのはいかにもすわりが悪い。そこで、塾主の人生の歩みに関わる思考過程が明らかになれば、あの超国家的世界観にいかにして達したかがわかり、現在感じている世界観のギャップも解消できるのではと考えたのである。ゆえに、こんな話をしてました、こんなことをしましたという事実のみの見聞では駄目で、心の動き、思考を読みとるつもりで研修する必要があった。

2 徹底したサービス精神

 塾主の弟子である方々の話を拝聴すると、塾主との関わりはそれぞれで違うが、塾主は我々にこんなことを伝えたかったということにおいて、一点だけ共通する部分があることに気づいた。例えば、松下資料館の高橋支配人がおっしゃるには、79年に当時まだ経済的に弱かった中国に進出したのは、イデオロギーを抜きにして、中国人民を助けようという思いがあったからで、そういう利他の精神が必要だという。また江口PHP社長も、自分のことよりも他人周囲、他人を喜ばすことに喜びを感じる人でないと真のリーダーではないとおっしゃっていた。何より松下電気の経営企画Gpの説明で、その創業者から受け継いだ事業哲学にあるのが「社会の公器」「お客様第一」という精神である。表現は違えども、これらの底流に流れるのは「徹底したサービス精神」ということができる。これを私は、塾主の行動原理とみた。そして、サービスの対象が自分以外の全てだったということである。サービスに国境はない。松下電気の在外法人も常に現地の人のためのものにしなさいと指示されているし、各国の元首が日本を訪れた際には必ず、みずから工場を案内されたという。

3 素の人間・松下幸之助を指針にして

 世界レベルの聖人君子かと思えば、意外な一面もあった。晩年はいかにも好々爺の印象が強かったが、壮年期は激情にかられ、むめの夫人と夫婦喧嘩されたこともあり、怒ると物を投げつけたりするということもあったようだ。元々私たちと同じ普通の人間だったはずである。

 松下電気は「アタチン」から始まったが、それを作ったのも「人々の暮らしをもっと便利に」というサービス精神だし、PHPでも戦後の貧困の状況を憂いて始めたもので、これもサービス精神の発露である。商売やPHP運動を通じて、世界が広がるうちに、そのサービスの対象も広がっていったのだろう。それが超国家的世界観につながったのではないか。そう考えれば、最晩年の完成された人間・松下幸之助の世界観との間に感じるギャップを無理に縮める必要はないと感じた。まずは、素の松下幸之助がもつ「徹底したサービス精神」をもって国家国民のために活動することを私の指針とする。自分にとての「アタチン」を創造し、それを世に広める。自分自身の世界が広がってくれば、ギャップは縮まってくると思う。今まで、著作の字面だけにとらわれ、悩んでいたが、こう考えられるようになったことが、本研修の最大の成果であった。

4 おわりに

 本研修のみならず、日頃の研修に使われる浄財は塾主から頂いたものですが、無から生まれたものでなく、松下電気やPHPの従業員が汗水たらして働いた結果の浄財であるということを感じ、ありがたみが増しました。そして、本研修を企画・調整して下さった研修塾、研修担当、私たちに教えを下さったすべての方々、施設関係者に感謝致します。ありがとうございました。

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日下部晃志の活動報告

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Koji Kusakabe

日下部晃志

第25期

日下部 晃志

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(公財)松下幸之助記念志財団 松下政経塾 研修局 人財開発部部長

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