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私の研究テーマは「100年後に国際社会で生き残れる主権国家日本の実現」である。とりわけ、民主主義陣営の中で日本のリーダーがいかにしてリーダーシップを発揮できるか、その資質と行動に強い関心を持っている。これを検討するうえで、現在の議院内閣制とは異なるリーダー像を模索することは避けて通れない。たとえば首相公選制の導入もその一つのアプローチであり、私は「民意によって選ばれるリーダー」のあり方を、日本社会の中から掘り起こそうとしている。
そのヒントは、地方自治の現場にあると考えた。日本の地方自治体は、首長と議会がそれぞれ住民によって直接選出される「二元代表制」を採用している。これは制度的にも、民意に基づいたリーダーの力量がより強く問われる構造である。
私はご縁があって、杉島理一郎市長(入間市)[1]や丸山哲平市長(国分寺市)[2]の選挙応援を経験し、田辺信宏前市長(静岡市)[3]の講演を拝聴する機会に恵まれた。さらには「松下政経塾 首長会」等を通じて多くの現職市長と意見を交わす中で、「選ばれるリーダー」に共通する資質が、次第に明確になってきた。それは次の2点に集約される。
(1)明確なビジョンを持つこと
(2)愚直でいられること
第一に、「明確なビジョンを持つこと」である。これは単なる政策の羅列ではなく、「自らの街が20年後、30年後にどのような姿であるべきか」を社会に問う政策立案力である。
選挙戦を通じて多くの対立候補が市民の困りごとに寄り添う姿勢を打ち出していたが、そうした対応は、市議会議員や行政職員でも十分に可能である。たとえば生活困窮者支援や子育て支援など、眼前の課題への対応は行政として当然の責務である。一方で、真にリーダーとして問われるのは、未来の市民のためにどのような布石を打てるか、である。
杉島市長は、入間市の特産品である狭山茶を軸に据えたシティプロモーションを展開し、地域の誇りを育みながらまちの魅力向上を図った。丸山市長は、国分寺市の交通利便性を最大限に生かし、住みよいベッドタウンとしての未来像を描いていた。
そしてこのビジョンは、市民の創意や民間の力を活用するかたちで深化している。たとえば、ひたちなか市の大谷明市長は「小さくお試しプロジェクト」と題し、市民が主体となって街を動かすための仕組みを整えた。これは市役所主導の街づくりから、市民主導への転換を促す取り組みであり、市民の自治意識を高める実践的手法であると考えられる。
また、宮城県利府町の熊谷大町長は、市制移行を視野に入れた人口増施策として、街を「知ってもらう」ためにスポーツを活用した独自のPR活動を展開している。特にモータースポーツ分野では、トヨタ自動車の豊田章男会長を町立小学校に招き、次世代を担う子どもたちに夢と誇りを育む教育の場を提供するなど、政治が未来に果たせる役割を体現している。
さらには、さいたま市の清水隼人市長によるPFI(Private Finance Initiative)の導入も見逃せない。市内の公園整備に民間資金を活用し、飲食施設等の設置・運営を民間が担うことで、事業者にはビジネスチャンスを、市民には快適な公共空間を、市役所には財政負担軽減をもたらす「三方よし」の施策を実現した。
このように、「明確なビジョン」は地域の課題と可能性を見極めたうえで、行政と民間、市民の力を結集しながら前に進めていく政策立案力に他ならない。
第二に、リーダーには「愚直でいられること」が求められる。これは単なる情熱ではなく、評価や効率性を度外視してでも、信じた価値を誠実に追い続ける姿勢である。
田辺市長は選挙中、市民を見かけるたびに自ら車を降りて握手を交わした。杉島市長は市民1人ひとりの名前を呼びかけ、心を込めて手を振った。丸山市長は選挙戦の最終日、涙ながらに政策を訴え続けた。こうした行動は、マニュアルでも戦略でもない。「損得ではなく、使命として市民に向き合う」という信念の表れであり、その誠実さが多くの共感を呼び、結果として選挙で「選ばれる」という結果に繋がっている。
これらのリーダー像は、地方政治という小さな単位において既に実践されており、成果を挙げている。いま日本に必要なのは、こうした「政策立案力」と「愚直さ」を併せ持つリーダーを、国政の場にも登場させることではないだろうか。
首相公選制の導入については、制度設計や憲法上の議論を含め多くの課題が指摘されているが、今の議院内閣制においても、民意を真に受け止めるリーダーの出現は可能である。その鍵は、私たち有権者がどのような資質をリーダーに求めるかにかかっている。
地方自治の現場から学ぶリーダーシップの本質。それは、未来を描く政策立案力と、市民とともに歩む愚直さの両立である。日本が自由で開かれたインド太平洋の一角として、国際社会の中でリーダーシップを発揮する未来。その実現は、まず足元の地域から始まっている。
[1] 2024年10月13日、14日
[2] 2025年6月21日
[3] 2025年6月26日
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Ryuki Saito
第45期生
さいとう・りゅうき
Mission
100年後に国際社会で生き残れる主権国家日本の実現