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2019年1月

沖縄の基本理念実現に向けた経営の実践 -観光施設ネオパークオキナワの再建-
比嘉啓登/松下政経塾第37期生

沖縄県出身。首都大学東京大学院都市環境科学研究科修了後、三井物産株式会社に入社。アジア諸国向け鉄道インフラ建設プロジェクトに従事。入塾後、沖縄の地域産業振興に向け、2018年より観光施設ネオパークオキナワ(名護自然動植物公園)の再建に取り組む。

 

<目次>

1.私の志
 1-1 これからの沖縄に求められる“経営力”
 1-2 経営力強化のために必要なこと
2.ネオパークオキナワについて
 2-1 巨大ハード整備事業のその後
 2-2 ソフト=経営面の苦戦
3.実践での取り組み
 3-1 ソフト課題の本質的解決
 3-2 キホンをコツコツと積み重ねる
4.変わり始めたこと
 4-1 入園者数・アトラクション利用率
 4-2 従業員一人ひとりの自主性
 4-3 施設を取り巻く関係者との連携
5.今後の取り組み

1.私の志

1-1 これからの沖縄に求められる“経営力”
 沖縄県は本土復帰以降、島嶼の経済的不利性克服と一人当たり所得の向上に向けて県土開発と産業基盤形成を推進してきました。しかし復帰から46年を経た今日においても未だ多くの課題が残されています。
 特に、「所得格差」は県民生活において大きな課題となっています。沖縄県の一人当たり県民所得は216.6万円で、国民所得305.9万円と比べても非常に低く、有業者のうち5人に1人は100万円未満、2人に1人は200万円に満たない状態にあります。また非正規雇用率は40.4%と全国最高値。さらには子供の貧困率は29.9%と全国平均(16.3%)の2倍と、次の世代にも貧困が引き継がれる悪循環を生み出しています。
 国・県からは1972年の本土復帰以降、沖縄振興開発措置法に基づいて施策がなされ46年で11兆 432億円の振興開発事業費が投入されてきました。振興開発事業費は道路、空港、ダムなど社会インフラ整備に投じられ*、沖縄は着実に発展してきたものの、一方で補助金への過度な依存により県の経済的自立には未だ結びついていないという意見もあります。(*2014年、宮田裕「復帰以降の沖縄予算」によれば、予算の73%はインフラ整備に使われれているとも。)
 経済的自立を果たし、所得格差の課題を根本的に解決するには、①一人当たり生産性が飛躍的に向上し、②生産性向上により企業収益が増加し、③増加した企業収益が労働者に適切分配される、というサイクルを繰り返していくしかありません。
 そのためには、生産要素(土地・資本・労働)を生かすための工夫が必要となります。言い換えれば、“経営”のちからが今以上に求められるということかもしれません。
 松下幸之助塾主は、“万物は自然の理法に従って生成発展しており、その考えに基づいた正しい経営理念を持っていれば、人も技術も資金もはじめて真に生かされてくる”という経営哲学を、様々な場面で伝えていました。
 私は、沖縄県内の企業群約5万社の企業が生産要素を生かした経営を行えば、30年後にGDP(実質)を4.3兆円(2017年)から9兆円(2047年)まで伸ばすことも夢ではないと考えています。
 GDP水準を向上させる事が出来れば、それに応じて経済生産性を616万円(2017年)から1,325万円(2047年)まで高め、県民所得を217万円/年(2017年)から466万円/年(2047年)まで引き上げていくことも現実味を帯びてきます。
 
 もちろん、上記のような数字は単に指標・目標であり、それを達成するということが目的ではありません。
 究極の目的は沖縄がアジア・世界の繁栄・平和・幸福に貢献し、また自らも繁栄・平和・幸福であることであろうと考えます。抽象的な概念にはなりますが、沖縄の未来ビジョンを万国津梁(各国の架け橋となり物心両面の豊かさを持つ)とし、各事業者・個人が内から外へと意識を向けて日々を積み重ねていくことで、企業に利益が生まれ、個人の豊かさがもたらされ、社会全体に潤いがもたらされることを信じています。

図表1:沖縄の所得倍増計画(30年間)

図表2:私が考える沖縄の基本理念

1-2 経営力強化のために必要なこと
 では、いかに一つひとつの企業の経営をより強固なものにしていくのか。
私は沖縄の中小企業の活力向上に有効であるのは、企業の経営に寄り添う現場主義のハンズオンサポートであると考えています。これは、短期的・対処的な取り組みよりも、企業経営を定期的に携わり、長期的にサポートしていくというものです。
 現在、国の中小企業政策では、中小企業等経営強化法や中小企業地域資源活用推進法などの準拠法に基づき経営力向上計画や地域産業資源活用事業計画が推進されています。
 これら中小企業政策では、税理士等の専門家・金融機関を経営革新等支援機関として認定し、経営改善計画等の策定支援やその後のモニタリング支援を実施する体制が目指されており、また、中小企業基盤機構等が大企業OBなどを組織化し、分野ごとの定額料金でのハンズオン支援が行われているところです。
 しかしながら、まだこれら支援策の認知性がまだまだ高くなく、活用が進んでいない地域があることも現実だと思います。また、支援機関の支援実績の優劣により、頼りがいのある機関とそうでないところもあり、これから益々の活用が求められているところではないでしょうか。

図表3:既存の中業企業支援策

 税理士・公認会計士・弁護士・中小企業診断士の方には、長期的な経営支援サービスを提供し、地域における企業成長・継続に大きく寄与している事例が国内に多数あります。
 
 国・県をあげての沖縄振興開発施策では、既存の社会インフラ整備のみならず、沖縄の企業群のひとつ一つが元気になるような、経営に寄り添って生成発展を促すことができるようなソフト面での仕組み、つまり資金ではなく人やノウハウ提供による支援策も大切であろうというのが、私の見方です。

2.ネオパークオキナワについて

2-1 巨大ハード整備事業のその後
 沖縄の企業に対して、経営に寄り添う現場主義のハンズオンサポートが有効かどうかは実際に取り組んでみなければ机上の空論にすぎません。
 一つの実践事例として、衰退が進んでいた沖縄の観光施設ネオパークオキナワ(名護自然動植物公園)の再建に経営企画部長として取り組んでいます。現場密着の活動によって企業に活力が取り戻せるのかどうか、一つのチャレンジでもあります。

図表4:ネオパークオキナワ概要

図表5:ネオパークオキナワ沿革

 ネオパークオキナワは1987年に開園して以来31年が経過する施設は沖縄の観光を支える拠点の一つとして運営されてきました。22ヘクタール(東京ドーム5個分)の敷地に日本最大のフライングケージ(大きな網型の囲い)を張り巡らし鳥類や保有類など100種類以上の動物が放し飼いにされており、園内には軽便鉄道が走り回る、非常に楽しい空間です。
 しかし、経営の側面からみると順風満帆とは言えない状況がありました。1986年に沖縄北部地域開発研究センター(第三セクター)により10数億円で建設着手された施設は1987年に開園してから5年間で経営難により閉園。その後政府・市の資本投入を受けて再建行われるも立ち行かない状況があり、2015年には沖縄で構想されていたUSJの建設候補地にもなっています。
 その後、2018年に医療施設やホテルなどを運営するタピックグループが過半数株式を取得し経営再建に着手。タピックグループの宮里好一代表からの御縁を頂き、私は本再建事業に参画しています。
 過去20年ほどの推移で見ると、沖縄の入域客数が388万人(1997年度)から958万人(2017年度)に伸びているのに対して、ネオパークオキナワの入園者数は30万人(1997年度)から16.5万人(2017年度)に半減しています。このことからもいかに施設が厳しい経営状況であったかが分かります。

図表6:ネオパークオキナワ入園者数推移

2-2 ソフト=経営面の苦戦
 観光施設は、設立当初に大規模投資を行い、その後の入園料等の収入でその投資を回収するというビジネスモデルで成り立っています。すなわち、一定規模以上の集客が、投資回収と永続のカギとなるということです。そして、この集客には施設の魅力度と人の魅力度が重要になります。
 一方で、観光施設は開業時から徐々に経年劣化により施設の魅力度が低下していくため、一定年数でのリニューアルが不可欠であり、またそれなりの資本投入も必要になっていきます。このような新陳代謝がうまくいかなくなると、利用客が減少し、利用者数が減少すると経営上の様々な制約が生じます。
 具体的には、来てくれる人が少なくなると、①モノが売れないため商品点数が減少し、取引業者が少なくなる、②人件費を賄うことが困難になり従業員数を削減する・または一人当たり給与額を下げる(また昇給できない)、そして人手不足により園内運営が滞り始める、③金融機関・株主からの与信低下により資金調達コストが上昇する、または借入が困難になる等です。これら①~③の状態は観光施設の運営を困難にし、活気を失わせ、魅力を低下させていくことにつながります。負のスパイラルに陥ることが容易に想像できます。

 ネオパークオキナワにおいても、入園者減少により、①施設内売店での商品点数が限定的で取引業者が以前に比べて減少し、②従業員数が以前に比べて半減(最少人数で運営していている、現場はいつも忙しい)、③金融機関からの与信は決して高くないなどの状況を垣間見ることがしばしばありました。
 
 開園から30年間厳しい状況の中工夫を凝らしながらも、緩やかに坂を下り続けてしまっていたというのが正直な印象です。

3.実践での取り組み

3-1 ソフト課題の本質的解決
 再建に着手した当初から、時間に都合がつく限り現場に足を運び続けています。施設の中を回っていると、目についたところがいくつかありました。
 例えば、ごみだらけの園内です。お客様が回遊するルート上は少ないスタッフで何とかこなせるのですが、バックヤードを見てみると、日々の業務に追われて着手できていないのか事務所は書類で溢れかえり、倉庫に段ボールや使われていない備品が散乱していたり、園内ごみ施設が整頓されていなかったり、飼育施設周辺にもバケツなどが放置されている状態です。従業員に聞くと「忙しくて対応しきれなかった」「あのエリアはAさんが担当している」など、自分ごとで対応しているとは言えない状況がありました。
 それから、お客様に扮して園内を歩いていると、通りすがりに従業員から顔を背けて挨拶を交わしてもらえないこともありました。士気が下がり、挨拶する雰囲気が整っていないと気分も乗ってこないのだろうと容易に想像出来ました。
 また、会社として年次目標や月間目標は存在せず、従業員にも共有されていません。毎日実施している朝会でも、担当者が入園者数を棒読みしている状態で、改善に向けた取り組みが進んでいない事に非常に驚きました。
 そのほか、行政出資を受けている第3セクタ―にもかかわらず、行政サイドとの連携が十分ではなかったり、労使間での関係性にも改善の余地があるなど、潜在的な課題も多々あるように見受けられました。

図表7:園内の当時の状況

 上記のような状況の中で、再建の方向性についてタピックグループの宮里代表と相談しつめていった結果、イベントや広告など短期的に入園者数と収益を増やす戦略だけではなく、「組織づくり」と「事業計画づくり」に取り組もうという結論になりました。
 この2つは、劇的に変化を及ぼすというよりも、むしろ時間がかかる、長期的な取り組みとなりますが、ネオパークオキナワが社会的な意義を持ち、継続して事業運営をしていくためには必要なことであるとも考えました。

3-2 キホンをコツコツと積み重ねる
 次に「組織づくり」「事業計画づくり」という再建の2つの柱を実現していくための具体的な取り組みをいくつかご紹介します。
 
①掃除
 先ずはバックヤードがゴミだらけになっている施設を地道に掃除していくことから始めました。写真は倉庫内ですが日々の業務に追われて30年間分の書類や備品、在庫などがたまり、足の踏み場のない状況でした。一人でやっていたら途方もないですが、皆で一緒になって掃除することで見違えるようになりました。実は皆掃除するタイミングを待っていたかのように掃除をしていて、きっかけひとつで変わるのだと、掃除を通じて改めて気づかされました。

図表8:園内掃除(倉庫・二階テラス付近)

②挨拶
 挨拶についても、皆で意識付けしていけば変わるだろうということで、毎朝欠かさず朝礼を実施して、「おはようございます」「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と声を出して業務のスタートをしています。これは茨城県にあるレストラングループ㈱坂東太郎の青谷会長が実践している活動を参考にさせて頂き、挨拶実習の導入に際してはやんばる倫理法人会にもご協力頂きました。
 はじめのうちは普段とは異なる取り組みであるため、違和感を持つこともあったかと思いますが、現在では浸透して従業員の気持ちを高める良い習慣になっています。

図表9:朝礼挨拶の様子

③経営理念の再確認と組織体制
 ネオパークには創業者である故 近藤典生 東京農大名誉教授が残した「人と動植物との共存を実現する」という経営理念がありました。会社が「何のために何を行うのか」を示す経営理念は、従業員・お客様ありとあらゆる関係者を結びつける要でもあります。管理層への経営理念の浸透を徹底し、また自社ウェブサイトにも経営理念を確りと掲載するようにしています。
 それから組織体制についても、所掌が曖昧になっていた部分を明確にして、機能部制を導入して日々の業務PDCAを行うようにしています。
 また、これまで従業員向けの全体行事が行われていなかったことも一つの課題であると考え、BBQ懇親会などの行事を若手中心に企画したりして雰囲気づくりをしています。

図表10:懇親のためのBBQの様子

④事業計画(5か年計画)と個別戦略
 事業計画についても再建着手の早い段階で準備を進めました。目標は大きく2つで、
・入園者数を5年間で倍増させること(2017年16.5万人⇒2022年33万人)と、
・売上高を5年間で4倍にすることです。
 入園者数については、既存のお客様の属性分布がどのようになっているのか7月の1か月間調べてみたところ、国内が半分(県内25%、県外25%)、海外が半分(台湾18%、中国19%、香港9%)という結果が出ました。これに基づいて、国内・外向けにそれぞれ集客方針を定め、Webマーケティング(ウェブサイト・SNS・口コミサイト活用)と観光エージェントの起用を進めています。
 売上高については、既存のアトラクションをより一層利用して頂くために稼働率目標を定めて利用促進を図っています。また入園料の適正化や、入園者数の減少に伴い休止していたレストラン機能の回復、ギフトショップ改装などを計画し、それぞれの投資計画に見合った資金調達をして経営再建の見通しを立てました。
 事業計画は、就業員の安定雇用と利益再分配が行うためには欠かせません。また事業計画は取り巻く関係各者を巻き込む貴重な情報でもあります。計画づくりによって社内外に理解を得て協力してもらうことが非常に円滑になりました。

図表11:再建に向けた整備計画

4.変わり始めたこと

 上記のような取り組みを行う中で、いくつか変化も現れてきました。

4-1 入園者数・アトラクション利用率
 4月から10月までの入園者数・アトラクション利用率を前年と比較してみたときに、全ての月において前年を上回る結果となっています。従業員一丸となった取り組みがこのように結果として出てくるのは大変嬉しいことです。また売上高についても入園者数・アトラクション利用率に応じて前年対比で増加しています。

図表12:ネオパークオキナワ月別入園者数(前年対比)

図表13:主要アトラクションの前年対比

4-2 従業員一人ひとりの自主性
 9月~10月にかけて飼育員がコスチュームを着て、バックミュージックに合わせてお客様と一緒に餌やり体験をするというイベントがあり、週末限定で開催ではありましたが、お客様から好評をいただいています。これは若手従業員からの自発的な取り組みであり、施設の魅力向上に大きな役割を持っていると考えています。また掃除についても、どこそこが整頓されていない、など従業員同士で声がけし合う機会も増えてきました。

図表14:9月餌やりイベントの様子

4-3 施設を取り巻く関係者との連携
 再建にあたって、関係各者との連絡が頻繁に行われるようになり、そこから新たな連携手段模索が始まっています。例えば、近隣施設のアグリパークとは、各施設のパンフレットを共通フォーマットで作成してエリア全体での集客を図る取り組みが始まり、また名護市とは月次の報告会を開催するようになりました。商工会の方からは、沖縄観光をPRする商談会に名護市を代表する施設として参加しませんかということでお声がけいただいたり、次年度に向けた経営強化についても毎月のようにアドバイスをもらえるようになりました。
 それから金融機関からは、次年度以降の投資計画実行に向けて資金調達をさせて頂き、取組の後押しをして頂いています。

5.今後の取り組みについて

 ネオパークオキナワでの取り組みでは、皆で一丸となって変えていこうという気構えが形になって表れ始めています。これからの取り組みにおいても、急進的というよりも、むしろ漸進的な発展が望ましいと考えています。「一次的・短期的」なものではなく、「継続的・恒常的」な取り組みをしていくのが理想です。ネオパークという施設自体が、お客様・取引先・関係者、そして働く従業員の信頼を集め続けられるようにサポートできればと考えています。
 そのためには、やはり会社に所属する従業員ひとりひとりの行動が、お客様や取引先、社会を取り巻く多くの方にとって信頼に値するものでなければならない。習慣化していく、会社全体の風土にしていくことを目指したいと思います。
 このような活動が、ネオパークを契機に沖縄の企業に広がり、ひいては県全体今以上に景気づくよう、地道ではありますが実践活動を継続して参る所存です。
 
以上

<参考文献>

  1. 2018年、沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「平成28年度の観光収入について」
  2. 2018年、沖縄県企画部「平成30年度経済の見通し」
  3. 2018年、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
  4. 2016年、樋口 耕太郎「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」沖縄タイムス
  5. 2016年、沖縄県「沖縄県子どもの貧困実態調査」
  6. 2015年、大前研一「沖縄から基地がなくならない隠された理由」PRESIDENT 2015年5月18日号
  7. 2014年、一般財団法人南西地域産業活性化センター「沖縄県の就業構造と失業に関する調査研究」
  8. 2012年、総務省「総務省就業構造基本調査」
  9. 2009年、宮田裕、宮里政玄ほか「沖縄「自立」への道を求めて―基地・経済・自治の視点から」高文研-所収(沖縄経済の特異性はどうしてつくられたか(宮田裕 著))

2019年1月 執筆
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