論考

Thesis

地方議会改革への道

「民主主義の学校」といわれる地方自治だが、財政も議会運営も、さまざまな課題を抱えている。湘南の地として知られる神奈川県藤沢市で、異例の若さで市議会副議長を務めた海老根靖典塾員(第2期生)が、その体験を元に改革の必要性と難しさを訴える。

人事調整不調でナンバー2に

 一昨年から昨年まで、一年間、市議会副議長を務めた。歴代最年少もさることながら、当選2回で副議長は稀なことだった。交渉人事の調整がうまく行かず、たまたま先輩達を差し置いて議会ナンバー2の地位に就いたのだ。
 批判やいじめ覚悟だったが、お陰で色々な経験をすることができた。中でも悩んだことが、副議長車の問題だった。
 議長には、専用の車と運転手がつく。副議長にも車と運転手がつくことになっている。副議長車の方は、議会車とも言われ、議会一般の行事にも使用されることから議長車と区別されている。
 私の自宅は、役所から徒歩で5分とかからないマンションで、黒塗りの車で迎えに来られても、待つスペースもなければ、近所の目も気になる。行政改革を第一の公約に掲げ、推進する私にとって、経費節減の良いチャンス。私は、議長と議会事務局との打ち合わせの際に、車での迎えは断った。

慣習と予算の厚い壁

 しかし、議長や議会事務局や先輩議員に強く止められた。第一の理由は、副議長車を使わなくなれば予算がカットされ、二度と復活できなくなってしまうということだった。第二の理由は、近隣自治体では副議長に車があり、体面上、副議長車はなくては困るとのことだった。私は悩んだ。車中で、運転手の職員からも直接哀願されてしまった。「2年前昇格して、副議長車の担当になりました。予算がカットされれば、私は地位を失いかねません。家のローンも支払って行かねばなりません。夕方5時以降も公務的な会合には、できるだけ副議長車を使っていただけないでしょうか?今までの副議長は5時以降もできるだけ利用して頂いておりました」とまで言われた。定年間近の職員に行政改革の議論も通用しそうにない。私は、あきらめてしばらく副議長車で迎えに来てもらうことにした。

年末年始を体験して

 就任して、半年ほど経って、年末年始を迎えた。議長・副議長が議会を代表して、出席しなければならない会合が目白押しとなった。議長・副議長が手分けしても、一日のうちに3・4会場を回らねばならない日が続いた。
 正直に言って、その時、副議長車の予算をカットしないで良かったと思った。各会場で必ず挨拶がある。今まで知らない団体も多かった。車の中で、出席する団体の活動状況や会の趣旨などを予習したり、議会の書類に目を通したりした。もし、年配の副議長が就任して、専用の車がつかなければ、年末年始の日程すらこなすことができないだろう。
 持ち回りの一年では何もできないと実感した私は、仲間の議員に相談して、次の年から議長・副議長の任期を二年に変えてもらった。
 日本の改革は「地方議会の改革」から始まる。大袈裟かもしれないが、私はそう信じている。そして改革への試みはまだ始まったばかりなのだ。

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海老根靖典の論考

Thesis

Yasunori Ebine

松下政経塾 本館

第2期

海老根 靖典

えびね・やすのり

株式会社TSUNAGi代表取締役社長/一般社団法人「地域から日本を変える」代表理事

Mission

首長連続セミナー、政治家養成講座等を開講。

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