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2024年11月16日、「第5回松下幸之助杯スピーチコンテスト決選大会」が松下政経塾講堂で開催されました。本コンテストは、松下幸之助の志を次世代につなげつつ、未来を切り拓く長期的なビジョンを描き、実践しようとする青少年の応援を目的に企画されています。
今年度は、国内29都道府県・海外から総勢461名、最年少9歳、最年長35歳からの応募がありました。厳正な一次審査(スピーチ原稿審査)を経て、決選大会には10名(学生の部5名、社会人の部5名)の方が出場し、聴衆の心の奥底に響くスピーチを披露しました。決選大会の審査結果と選評、および審査員による講評を掲載します。
「2050年の社会のビジョンと実践」~SDGsのその先を描こう~
スピーチ内容には、次の3点を必ず含めることが条件となっています。
1. 次世代のリーダーとして目指す「2050年の社会に向けたビジョン」を描くこと。
2. 「SDGsの17の開発目標」か「日本や世界が直面する社会課題」について少なくとも1つを提起すること。
3. 課題解決に向けた具体的な実践活動(これまで取り組んできたことやこれから取り組むこと)。
■松下幸之助杯(最優秀賞)
(学生の部:賞状及び副賞10万円)
長谷部紗世さん(学校法人SOLAN学園 瀬戸SOLAN小学校)
「今の私にできること~地球温暖化を食い止めるには~」
<選評>
身近な体験から地球温暖化に関心をもち、水素エネルギー社会の実現を思い描き、ドイツ訪問で得たアイデア「環境人得システム」の普及について、対話による合意形成を通じて目指しています。疑問に感じたことを試しては改善し、次の活動につなげている。一歩一歩と着実な活動には説得力があり、信頼できるスピーチでした。
「自分が率先して動かないと自分の思い描いている世界にはできない」。長谷部さんの言葉には今後も様々な挑戦をしながら、ご自身の力で未来を切り拓いていく可能性を感じ、その「自主自立」の精神を高く評価しました。
(社会人の部:賞状及び副賞20万円)
平良友依さん(株式会社ルックスケアホールディングス)
「障がい者が笑顔で働ける社会を目指して」
<選評>
「障がいを持つことは確かに苦しい。でも、その苦しさは、障がいを持つ自分自身を卑下し否定してきたことからくるものだ」。ご自身も障がい者として実感した、自分の心を救ってくれた美容の力を信じて、今後は会社を創業したい。そして、障がい者の方々を笑顔で受け入れられる社会を作りたい。その心からのメッセージが社会に広まってほしい。そう感じるスピーチでした。
ご自身のビジョンを「素志貫徹」しようとする姿勢は、最優秀賞に相応しいと高く評価しました。
■パナソニック杯
(学生の部:賞状及び副賞5万円)
田中杏樹さん(捜真女学校高等学部)
「パートナーシップの観点からビジョンを掲げる」
<選評>
自分たちよりも若い世代にSDGsを知ってもらうための絵本作成の活動を紹介しながら、SDGsを中高生に伝える活動に取り組みつつ、様々な人や団体とのパートナーシップを拡げてきました。スピーチでの言葉の選び方が良く、とても分かりやすく、「やるぞ!」という気持ちが伝わってくるスピーチでした。
まずは自分からアクションをし始めて、様々な人たちと関わる中で、「万事研修」の精神を胸に刻みつつ活動を継続されることを願います。
(社会人の部:賞状及び副賞10万円)
北澤愛友実さん(公務員)
「いじめ後遺症の認知を高め、被害当事者が生きやすい社会をつくる」
<選評>
「いじめ後遺症」の当事者としての経験をふまえて、その当事者を支援する側へと立場を発展させ、2050年に「いじめ後遺症」の当事者に対する支援が充実した社会づくりを目指しています。ご自身の実体験からくる、一つ一つ絞り出すように発された言葉は、人の心を打ち、また、説得力をもつスピーチでした。
「いじめ後遺症」の認知度を上げていくためにも、「先駆開拓」の精神で活動を継続されることを心から願います。
■優秀賞
(全体を通して選出:賞状及び副賞3万円)
青木瑛都さん(札幌市立緑丘小学校)
「笑顔輝く未来のために」
<選評>
「2050年には、小児がん研究がもっともっと進んで欲しい」。そう考えて、レモネードスタンドの開催による小児がん研究への募金活動をしています。すべての子どもたちが笑顔で暮らせる社会を目指して、自分ひとりだけではなく仲間と一緒に最初の一歩を踏み出したことを評価します。
今後もご自身の原体験を忘れずに、2050年まで「素志貫徹」する姿勢を持ち続けて欲しいと願います。
真田涼佑さん(学校法人角川ドワンゴ学園N中等部)
「災害に強い国を次世代へ。」
<選評>
2024年元旦に発生した能登半島地震の経験から、自分や社会ができることを考えて、「災害に強い国を次世代に残すこと。」を目指しています。目の当たりにした事実に本気で向き合って、力強い言葉でその想いを伝えてくれたことを評価します。
「一度きりの人生であったら、人のために生きたいし、色々な方たちの希望になることをやりたい」という初心や、周囲の人々に対する「感謝協力」の心を忘れずに活動を継続されることを願います。
■奨励賞
(賞状及び副賞:松下幸之助著書)
高松ひかりさん(カンタベリー大学)
DANG MAI NHIさん(株式会社フードフォース)
髙橋智恵さん(架け箸)
𠮷川莉奈さん(一般社団法人フェアリーエンターテイメント)
※出場順に掲載しています。
※それぞれの選評に含まれている「素志貫徹」「自主自立」「万事研修」「先駆開拓」「感謝協力」は松下政経塾の「五誓」です。
■佐伯聡士様(読売新聞東京本社 取締役・調査研究本部長)※審査員長
スピーチコンテストに参加された皆さま、本当に今日はお疲れ様でございました。私は、2021年から4年連続でスピーチコンテストの審査に関わらせていただき、大変光栄なことだと思っています。さきほどもお話がありました通り、2回目はまだオンラインで、直接お目にかかることはできなかったのですが、3回目からは目の前で皆さんのエネルギッシュなお話を聞くことができ、毎回大変感動しています。
過去最多の461名の中から選ばれ、決選大会にいらっしゃっている方々だけに、どのお話も非常に素晴らしいものでした。ご自身のつらい経験を乗り越えてさらに前に進もうとされている方、気候変動対策、災害対策など様々なテーマがあり、いずれも、ご自分のアイデアを工夫して、実際の行動につなげていらっしゃる方々のお話を聞かせていただいて、ほんとうに感動しました。今日のお話を聞くと、2050年の社会は安心だな、大丈夫だなと思えました。
話は変わりますが、皆さんの年齢は様々で、投票に行く年齢になっていない方も多いとは思います。これから行かれる方もいることでしょうから、選挙の話をしたいと思います。
今年は、世界各地で重要な選挙が行われた「選挙の年」であります。韓国、ヨーロッパ、インドなど、ついこの前、米国の大統領選があり、トランプさんが再登板されます。日本も国会の選挙があったばっかりです。
私は、新聞社で働いていますので、一連の選挙の中で、日本の指導者、それから、海外の指導者、候補者の演説、スピーチを耳にする機会が非常に多くありました。すごく耳ざわりのよいスローガンとか、言葉が躍ってしまっているスピーチだとか、あまりに非現実的な話もたくさんあったわけですが、やはり説得力があるメッセージ、つまり、今日の皆さんのスピーチのように、実際の行動に基づいた地に足のついた内容でなければ、聞き手の心に響かない、というようなことが改めて強く感じられました。
ただ、ちょっと心配なのは衆院選の投票率が低いことです。全体の投票率も低いですが、18歳、19歳の方々の投票率が、全体の投票率より10ポイントも低いということです。これから、その年齢になられる方も含めてぜひ、聞いていただきたいのが、「自分の暮らしとは関係ないから」「投票しても何も変わらないから」などの理由で、投票しないようでは自分たちの声が政治に反映されにくくなります。
今回のスピーチコンテストに参加していただいた皆さんのように、日ごろから地域や社会、国際政治・経済の課題に関心をもつことが、自分の意見を育てることになり、意思表示という投票にもつながるのだと思います。
今、国は若者の政治参加を促すための教育に力を入れています。
SNSなどで情報が氾濫する今、情報を読み解く力を育むためにも、ぜひ、新聞を活用していただければと思います。複数の新聞を読み比べることで、物事を複眼的にとらえる力を養っていただけるのではないかと考えています。2050年に向けて、自分たちの社会をさらに良くしていくために、皆さんがどう考え、どう行動していくのか。そのための手掛かりが新聞にはあると確信しています。
本日は、皆さん誠にお疲れ様でした。ありがとうございました。
■辰野まどか様(一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)代表理事/ファウンダー)
ファイナリストの皆さま、本日は本当にお疲れ様でした!
素晴らしいスピーチを披露してくださり、心から感謝しています。まずは、ここまで頑張った皆さん自身に拍手を送りましょう。そして、会場の皆さまも、ぜひこの素晴らしい10名の方々に大きな拍手をお願いいたします。本当にお疲れ様でした!
さて、私が皆さんに一番お伝えしたいのは、「心からの感謝」です。今日、皆さんの発表を聴いていて、深いところからの想いがひしひしと伝わってきました。
SDGsのターゲットの中には「グローバル・シチズンシップ」という言葉がありますが、私はこれを「世界をよりよくする志」と呼んでいます。この志は、皆さんも、そしてここにいるすべての人が心の中に持っているものです。しかし、それを表に出すことは簡単ではありません。今日登壇した10名の皆さんは、その難しさに真正面から向き合い、自分の想いや違和感、心が躍るワクワク感、そして周りの人々を幸せにしたいという気持ちを大切にしていました。
特に、痛みや悲しみといった感情は、日常生活の中で蓋をしてしまうことが多いものです。しかし、皆さんはその感情に向き合い、自分自身の価値や、今ここにいる理由、そして自分の志を見つけました。それだけではありません。その志を多くの人に伝えるために、言葉を磨き上げ、何度も練習し、今日この場に立つ決断をしてくださいました。その努力に深く感謝しています。
今年9月、私はニューヨークで開催された国連総会のプレイベントに参加してきました。そこで特に印象的だったのは、国連が若者に注目し始めたということです。世界の人口の50%が若者であるという事実に基づき、彼らの志を聞き、それを政策やルールに反映しようという議論が始まりました。この変化はとても大きな意味をもち、私たちが目の当たりにしている時代の面白さを実感しました。
今日、10名のファイナリストの皆さんが伝えてくださった志、そして、ビジョンは、いつかの未来の話ではなく、まさに「今」私たちにとっての教えそのものです。この貴重な学びはYouTubeなどを通して多くの人たちに触れることになるでしょう。そして、このビジョンが多くの人に広まり、共感と共に行動が生まれ、皆が笑顔になれる未来が実現するはずです。
最後に、志をもつことも素晴らしいですが、それを「つなぐこと」が最もパワフルです。今日の10名の皆さんは熱い想いをもった仲間です。これからの交流会でぜひつながりを深め、未来を一緒に築いていきましょう。そして、「あの時の10人がまた世界を面白くしたよね」と言える日が必ず来ると思います。
改めまして、ファイナリストの皆さん、そして会場の皆さま、今日は本当にありがとうございました。お疲れ様でした!
■井手英策様(慶應義塾大学経済学部教授)
皆さんどうもお疲れ様でした。今日は、何度も「的外れな」ことを言ってしまったのですが、実は、ひどい風邪ひいていました。このめでたい場に言い訳から入る無礼を、どうか許してください。
僕は、いろんな場に呼ばれまして、いろんな場でお話しする機会をいただくんですけれど、正直に申し上げて、この瞬間ほど嫌なことはありません。僕は3回死にかけました。今こうやって、偉そうに皆さんの前に立ち、(胸章リボンバラに触れながら)こんなのをつけてお話ができる。それは、運が良かったからです。死にかけたけれども助かった。運がよかった。たったそれだけの理由で、僕は今ここに立っています。
そんな人間に人を選ぶことができるのでしょうか。あなたたちの中に、優劣をつけ、あなたが勝ちだよ、あなたが負けだよ、と選ぶ資格は僕にはありません。でも、誰かがそのことをしなければいけない。辛いことです。でも、甲と乙、素晴らしいものと素晴らしいものの中から、一番素晴らしいものを選ぶという機会を与えられたことがせめてもの救いでした。みなさん、一人ひとりが勝者であることを、まず、お伝えさせてください。
今日は、未来を考える場、「SDGsのその先へ」でした。ですけど、皆さんもお分かりの通り、未来は<いま>の延長線上です。未来は永久にやってきません。常にあるのはいまです。だから、いまがとても大切で、この瞬間にやるべきことをやらなければ、いい未来は実現できないのだと思います。
でもね、皆さんに聞きたいのです。未来を、これからをどうしようってことを今日たくさん考えてきました。でも、将来どうなりたいかではなく、いま、あなたたちは、この瞬間、どうありたいのでしょう?そう。いま、どんな人間でいたいか、ということを考えてほしいのです。そうすれば、未来はきっと、素晴らしい何かになっていくのだと思います。
でも、いまどんな人間でありたいか、と聞くと、誰もが「役に立つ人間になりたい」と答えますよね。じゃあ、役に立つってどういうこと?それはね、生産性があり、有用性があるということ。だから価値がある、と考えられるんですよね。でも、皆さんね、子どもは物を作れない。労働者になれない。役に立たない。だからいらない。お年寄りは働けない。役に立たない。だからいらない。障がい者は物をうまく作れない。生産性が低い。だからいらない。生産性、有用性、役に立つということを考え始めれば、人間はいらないものだらけになっていきます。そんなことでいいはずはありません。役に立つかどうか、使えるかどうか、ではなく、いまの自分にはどんな価値があるのか、いまの私たち人間にはどんな価値があるのか、その価値を守っていく、高めていくために、私たちはこの瞬間にどうあるべきなのか、ということを、これから先ずっと考えていただきたいと思います。
僕は、もうすぐ死んでいきます。うなずかないでください(笑)。一応、予定ではもう30年くらい生きる予定でいます。あなたたちは、この社会の35%しか占めてない若い人たちです。あなたたちは、いま、この社会の35%だ。だけど、ほっといたら僕らは勝手に死んでいく。僕たちにとって、あなたたちは、未来の100%なんです。
未来の100%であるあなたたちが、力を発揮したとき、素晴らしい社会になるか、どうかは、いま、この瞬間、どんな人間でありたいかということと地続きです。僕は、人間の希望は人間だと信じています。死にゆく僕の希望はあなたたちです。僕は僕なりに責任を果たして死んでいきます。皆さんも、皆さんなりに<いま>を生きてください。また会いましょう。
第四回で審査員を務めていただきました苫野一徳様は「内側から発せられる言葉というのが多くの人の心に残ったと感じています」と講評で述べています。自身の体験を見つめて、その体験から言葉を絞り出すように選び取り、人に伝えることの大切さ。また、言葉が持っている力の確かさ。出場者の皆さまの内側から発せられたスピーチや審査員の皆さまとの質疑応答を通じて、これらのことを改めて実感する機会となりました。
本コンテストの開催にあたり、審査員を務めていただきました先生の皆さま、ご協賛・ご後援をいただきました各団体の皆さま、そして告知・応募・観覧にご協力いただきました皆さまに対して、心よりお礼を申し上げます。
決選大会のアーカイブ動画は、松下政経塾公式YouTubeチャンネル をご覧下さい。
主催:公益財団法人松下幸之助記念志財団
協賛:パナソニック ホールディングス株式会社
後援:文部科学省、読売新聞社、株式会社PHP研究所、神奈川県、茅ヶ崎市、神奈川県教育委員会
松下幸之助杯スピーチコンテスト事務局
E-mail:seikei@mskj.or.jp
※恐れ入りますがメールでお問い合わせください。
※審査結果に関するご質問にはお答えいたしかねます。ご了承下さい。
※決選大会における受賞者のスピーチの著作権は主催者に帰属します。