論考

Thesis

第1部 財政再建序論としての行政改革 ~ 第9報 「財政投融資の改革(1)」

§0.はじめに

 本報より二回にわたり財政投融資の現状と問題点,及び昨今議論されている改革の方向性について述べる。前報までに述べてきた,郵貯民営化論争も元を正せばこの,財政投融資の改革の一環に他ならず,ひいては行政改革の始まりの議論と言っても過言ではない。そこで初めに,本報で財政投融資の仕組みとその意義について明確にし,次報でどのように改革を進めて行くべきかについて触れていきたい。

§1.財政投融資という制度

 日本の国家予算には,税収を歳入とする一般会計・特別会計の他に,公的金融制度として財政投融資(以下,財投)がある。この財投は一言でいうと,国民から広く集められた資金,すなわち郵便貯金の預託金や国民年金・厚生年金の積立金などのいわゆる公的資金を運用するシステム,いわば金融的手法による財政政策である。その用途としては,道路建設など受益者負担を求めるべき政策分野や,各種の金融公庫のように自助努力を求める分野,あるいは市場のメカニズムになじまない分野への融資,さらに住宅金融など民間の補完分野などに用いられている。ここで重要なのは,公的金融システムである財投の資金は,すべて有償資金すなわち「借金」であり返済が必要な資金ということである。しかし,この融資の出口,すなわち財投機関について,もう少し見てみると,昨今話題となっている各種特殊法人や事業特別会計がひしめいている。問題なのは,これら「借金」を返済すべく財投機関の経営効率と,それらが抱える不良債権にある。従って,財投の改革を行う場合,資金出口である財投機関だけの改革では済まず,システム全体を見直す必要がある。すなわち,財投資金入口の郵貯も当然改革の対象となるわけである。郵貯民営化とはまさにこの財投への資金流入を断つという意味合いを持っていたのである。

§2.金融手法による財政政策

 もう少しこの財投という制度について具体的に見ていく。一般会計と違って金融手法による財政政策がどの程度の規模か。フローで見た場合,一般会計が約80兆円であるのに対して,財投は平成8年度で約49兆円。第2の予算といわれるが,大蔵省は「もはや予算そのもの」と位置付けている。これはその境界の曖昧さにもよる。すなわち,一般会計で歳出削減を実現しつつ,公共工事などを維持あるいは増やし続けるために,この財投が活用されてきているという背景がある。いわば予算の化粧である。これは,財政や予算規模を論じる場合,一般会計を中心とした議論がほとんどで,特別会計やこの財投は付け足し程度にしか議論されてこなかったことが原因であり,このことが逆にチェックを甘くし肥大化を続けてきた原因ともなっている。では,肥大化の程度はいかほどか。ストックで見た場合,その額は実に356兆円(平成7年度末)に上る。内訳は,特別会計へ49兆円,公庫等へ123兆円,公団等へ118兆円,地方公共団体へ62兆円,そして特殊会社等へ4兆円である。その具体的中身の議論は次報に譲るとして,本報ではもう少しこの制度そのものについて触れていくこととする。

§3.入口~郵貯との関連

 まず財投の原資,すなわち資金の入口についてみてみる。以降数字はすべて平成7年度末のものであるが(財投リポート‘96:大蔵省理財局発行より),大きなものは郵貯預託金(郵貯は預金をすべて国に預けて運用してもらう制度をとる)の212兆円,厚生年金・国民年金の118兆円,その他49兆円の預託金である。これらはすべて大蔵省の資金運用部(次項参照)に預けられる。そして,簡保積立金の自主運用による83兆円と,その他金融機関等の引受金によって成り立っている。この入口の問題は,ひとえに預託金利にあると言っても過言ではない。現在この預託金利は1ヶ月以上3ヶ月未満で2.0%,市場金利が0.66%であることを考えればいかに高いかが分かる。では,なぜ高いか。年金資金を運用する以上,高く設定せざるを得ないからで,このことが多くの歪みを生みだしている。まず,郵貯であるが,郵貯は何の運用努力もしないでこの金利による利益を享受できる。民間金融機関からは考えられないことで,先の行革会議で「郵貯の預託義務の廃止,完全自主運用」が決まった背景の一つに,この預託金利による運用の優位性から来る民間金融機関の不公平感(民業圧迫)がある。逆に,年金資金はこの金利では十分ではなく,一般に二桁で運用される欧米との違いも歴然としている。これが,昨今盛んに議論されている公的年金資金の運用上の規制緩和と自主運用を求めるゆえんである。つまり,小泉厚生大臣が主張するように郵貯と年金をいっしょに運用することは思想的に明らかな間違いなのである。

§4.中間~大蔵省資金運用部

 次に大蔵省資金運用部,すなわち,財投制度の中間部分について触れる。先に触れた郵貯や年金資金による預託金は実に374兆円に達する。つまり大蔵省はこの巨額の資金を運用していることになる。しかし,そのすべてを財投(財政投融資計画)に回す事が不可能であるため,資金運用部ではそのうち96兆円を国債の購入に当てている(厳密には国債引受を含めて財政投融資といい,国債引受を除く,財政投融資計画とは区別される)。何とも日本の財政は自分自身に借金をするという奇妙な構図が出来上がっている。これはひとえに,我が国の貯蓄率の高さがなせる技で,逆に,金融自由化が進み国民の預貯金が外資系の銀行や外国債,すなわち国外に流れた場合,想定される事態は容易に想像がつくであろう。

§5.出口~財投機関

 最後に財政投融資対象機関(財投機関),すなわち資金の出口についてみてみる。繰り返しになるが,財投機関は一般に特殊法人と勘違いされやすいが,特殊法人の一部を含んではいるもののそれが全てではなく,各種の事業特別会計や地方公共団体にもその資金が流れている。しかし,財投資金の8割方は特殊法人に流れており,逆に,特殊法人の約半数が財投資金の融資を受けている財投機関である。行革議論の発端を想起していただきたいが,このことが,特殊法人改革の議論に結びついている。つまり,財投資金すなわち国民から借り受けた資金を運用している以上は,特殊法人の経営は民間以上に効率化が求められるだけでなく,その資金の使途や資産運用などあらゆる情報は速やかに「貸し手」である国民に開示されなければならない。ただ,特殊法人が一方的に悪者ではない。制度上の問題も無視できないのである。先に触れたように,原資である郵貯や年金資金が高利で預託されている以上,その融資を受ける財投機関も高利の「借金」となるのは自明である。特にバブル期の高い金利での借金に悩まされている財投機関は多く,通常なら今の低い金利の融資への「借り換え」がなされてしかるべきである。しかし,大蔵省はこの「借り換えを」認めていない。つまり,初めから,設定された金利による収入を見越して運用しているため,この借り換えが横行すると,財投制度そのものの崩壊につながるからである。この点が,財投が抱える制度上の最大の問題であると言えよう。つまり,入口の年金資金の運用益を出さんがために,特殊法人は厳しい経営環境にさらされ,さらに林野事業に代表されるような事業特別会計は赤字を垂れ流さねばならないのである。

§6.おわりに

 常に悪者として議論される財投であるが,ここで改めて言っておきたいことは,決して財投そのものが悪ではないということである。確かに金融的手法によって財政政策を行うことは有効な一面もある。そして,この財投の必要性がなくなることはないであろう。問題は不透明な資金の流れや,運用の非効率さ,制度上の矛盾,さらには財投活用のモラルの欠如なのである。次報では,こういった問題をふまえながら,今後どのように改革して行くべきか,あるいはどのように活用していくかを,前向きに論じていきたい。


次回,第10報は「財政投融資の改革(2)」

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大串正樹の論考

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Masaki Ogushi

大串正樹

第17期

大串 正樹

おおぐし・まさき

衆議院議員/近畿ブロック比例(兵庫6区)/自民党

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ナレッジマネジメント、政策過程論、教育政策、医療・福祉・看護政策

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