Thesis
§1.はじめに
これまで,「第1部 財政再建序論としての行政改革」と題して,主に郵政事業の民営化問題を中心に論じてきた。本報と次報の二回に渡りこれを総括し,特に本報ではこれまでの問題点のまとめ,次報では問題の本質に触れながら解決の方向性と,第2部のイントロダクションについて触れていく。
§2.財政再建と景気対策
ここ一年を振り返ってみると,経済論壇の議論は「緊縮財政による財政再建」か「財政出動による景気対策」かの議論で大きく割れていた。いずれもそれなりに説得力はあり,どちらが正しい選択かは難しいところである。ただ現状として言えるのは,このような低金利にもかかわらず個人の預貯金が一向に投資に向かわないという経済理論を無視したものであったということである。老後の不安から個々人が消費を手控えているという説,国民生活が豊かになりヒット商品が生まれなくなったという説等々様々な議論があるが,二元論的に考えるよりは,それぞれが要因となっていると考えるのが自然だろう。いずれにしても,政府の対応が中途半端なまま遅れたことによって,最悪の事態を迎えていることは明らかである。しかし,現状はともかく,長い目で見れば財政再建は必要である。特に,今後迎える金融自由化に向けて個人資産が海外に流れる可能性を考えれば,今のような赤字財政ではいずれ債務国に転落する恐れがなきにしもあらずである。
§3.思想なき省庁再編
そこで,橋本総理は決死の覚悟で改革を断行した。現在の日本の閉塞状況を打開するには,様々な分野にまたがる抜本的改革が必要であるという着眼はよかった。しかし,結果は周知のように,お粗末なものであった。確かに,今の政治の状況からあれだけの改革(主には省庁再編に終わっているが)を断行したことには意義があるという見方もできる。しかし,明らかに単なる数あわせでしかなかった。その原因はひとえに,今の体制の延長線上に改革の着地点を考えていたからであると言える。つまり,日本にふさわしい行政システムをどのように構築するべきか,そういった明確なビジョンがなかったことが最大の失敗と言える。抜本的な改革とは本来,「あるべき姿」がなければ進まないはずである。それをなくして,従来の体制のまま改革を行おうとしても,これまでの行政の役割が減らなければ組織も減らないのは自明である。結局,巨大省庁が生まれることになるだけで,これでは改革とは言えるはずがない。
§4.利用者不在の郵貯民営化論
このような発想の下に,議論を進めてきた結果,ほころびが最も象徴的に現れてきたのが郵政事業の民営化問題である。橋本総理もここまで議論の中心に躍り出るとは思っても見なかったはずである。行革の最後の難問はこの郵政事業の取り扱いと,大蔵省の財政と金融の分離問題であった。しかし,議論のプロセスを見ても旧態依然としたものであった。結局は行革会議の決定も族議員の力に押し切られ,(非常に日本的な方法として)お互いのメンツのつぶれない折衷案となり,その過程には正義もなければ,本来のあるべき姿を提示するでもなく,ましてや利用者の立場に立った利便性の向上など,見る陰もなかった。結局,いつの時代も不利益を被るのは弱者である国民である。
§5.財投改革に潜む危険性
このような,真剣さを欠いた議論がもたらすものは,国民の負担につながる危険性ばかりである。特に,財政改革の発端でもある財投改革は本質的な財投機関の改革を行わないまま,資金入口の郵貯改革を進めたばかりに,大きな危険をはらんでいる。仮に,財投機関が財投機関債によって市場から資金を調達することになり,言われているように,郵貯がその債券購入を義務づけられることになれば,これは郵貯に不良債権を購入しろと言うに等しい。その結果,予想されるのは公的資金の導入であり,またもや国民の負担につながるのである。
§6.予算のチェック
結局,国民がこれまで政治を野放しにしてきた,そのしわ寄せが今の政治状況に及び,そのツケは結果的に国民に回ってくるのは当然であると言っても過言ではない。民主主義とは,本来もっと厳しい目で行政をチェックしていかねばならないはずである。その際,マスコミの役割も大きい。毎年,年末になると次年度の予算計画が発表されるが,紙面を彩るのは一般会計予算ばかりである。最近でこそ,第二の予算である財投が話題になって,少しは注目されるようになったが,他にも重要な点が見落とされている。一つは,特別会計である。その複雑さからあまり報じられないが,その歳入は特定財源とは言え国民の税金である。ましてや,一般会計の3倍以上にも膨らんだ予算であるにもかかわらず,情報は一向に出てこない。一般会計だけを見ていては本当の無駄遣いはチェックできない。もう一点は,決算である。予算がいかに執行されたか,本来は決算の結果がその次(厳密には2年後)の予算に反映されてしかるべきである。果たして今の日本で真剣に決算書をチェックしている人間がいるのだろうか。これでは,行政の無駄がなくなるはずがない。
§7.真の行革とは
これまでに再三触れてきたように,真の行革はもはや従来の考え方の延長線上にはない。新しいパラダイム,すなわち新しい行政システムの構築が必要なのである。これは単なる地方分権論を意味するものではない。国民の認識も,もちろん変えていく必要がある。しかし,やるべきことはごく当たり前のことばかりのはずである。行政が機動的に,かつ効率的に組織運営していくことは,民間企業で普通にやっていることを,そのまま実行するだけでも十分に効果が上がるはずである。(もちろん,それだけで,この議論を終わらせるつもりは毛頭ないが...)次報では,その行革の目標でもある,日本にふさわしい行政のあるべき姿について簡単に触れると共に,第2部の「新しい行政システム」のイントロダクションについて述べてみる。
次回,第12報は「総括:本来の行革とは(2)」
Thesis
Masaki Ogushi
第17期
おおぐし・まさき
衆議院議員/近畿ブロック比例(兵庫6区)/自民党
Mission
ナレッジマネジメント、政策過程論、教育政策、医療・福祉・看護政策