論考

Thesis

第2部 新しい行政システム ~ 第5報「選挙~システムの循環」

§0.はじめに

 前回の「メタシステム再考」のおり、政治のメタシステムが選挙システムであり、そのメタシステム、すなわち、メタメタシステムに相当するものが教育であることに触れました。今回は、先に行われた統一地方選挙を振り返りながら、選挙システムについて考えるとともに、システムの循環性をお話ししたいと思います。

§1.選挙というシステム

 お祭りのように選挙は盛り上がります。人間の琴線に触れるからでしょうか。最高のギャンブルであるかも知れません。同時に、興味のない人(大変な問題ではありますが)にとっては、くだらないお遊びにしか映りません。事実、こんなに割に合わないイベントはありません。そんなイベントでありながら、選挙には、勝ちたいという候補者の周りに様々な人々が集まってきます。心から応援しようと思う人、利害関係を考えて事前に良い関係を築こうとする人、自分の味方に取り込もうとする人、単に選挙が好きな人(いわゆる政治ゴロ)等々いろんなタイプの人々が集まります。あくまでも、候補者のタイプに似た人が集まるのが選挙の面白い点です。この、選挙というシステムは本来、民主主義において、個人の意見を、政治家という代表を通して社会に訴え、行政を通じて実現していくプロセスの一環として、その代表を選ぶ行為であります。
 ここで、政治と行政について少し整理しておきましょう。政治とは、本来、「社会の対立や利害を調整して、社会全体を統治するとともに、社会の意志決定を行い、これを実現する作用」であります。ここでいう「作用」とは、他のものに力を及ぼして、影響を与えるという意味で、ここでは権力の行使を指します(これに伴い、政治そのものを権力の行使・獲得・維持の現象とも定義できます)。そして、行政とは、「法の下に、公共の目的の実現を目指して行われる政務」と言えます。
 従って、候補者の周りには本来、自分の意見を代弁してもらおうという人々が集まるはずです。この点では、族議員の発生や利益誘導という現代政治の病理も理にかなった現象と言えるでしょう。逆に考えれば、選挙というシステムは、このような病理を容易に引き起こしやすいという欠陥があるわけです。しかし、これは、システムの開放性を保証する上で、敢えて、取り込まなければならない欠陥かも知れません。それでは、何が大切なのでしょうか。おそらくは、自分の利益をどこまで、幅広く捉えられるかという有権者個人個人の問題ではないでしょうか。多くの人々は、個人の利益を自分の直接の、あるいは周りの利益と考えて、そこだけを良くしようと考えるわけです。しかし、全体のマスには限りがあり、時間的要素、すなわち、子孫たちのことも考えなければなりません。従って、有権者たちには、国全体で見た場合、あるいは、将来に渡って、その行為が社会にどのような影響を与えるかという、距離的・時間的な政治感覚を養ってもらわなければなりません。このような感覚を養うための説明責任は、もちろん、政治家にありますが、そのことをきちんと説明している政治家は、何人いるのでしょうか。

§2.教育というシステム

 政治が腐敗してしまった元凶は有権者にあることは否めません。政治は国民の鏡であります。そして、その有権者を育ててしまったのは教育というシステムです。今回は、狭義の教育(学校教育)そのものにはあまり触れませんが、選挙システムのメタシステム、すなわち、政治のメタメタシステムとしての教育について少し触れてみたいと思います。果たして、日本人は、民主主義が理解できているのでしょうか。これは、極めて、重大かつ基本的な問題だと思います。農耕民族であり地域社会での関わりを重視してきた日本人は、元来、民主主義の基本でもある「議論」の習慣がありません。そのような環境の中で、民主主義の原体験がないまま成長してしまった有権者に、議論を求めるのはなかなか厳しいのではないでしょうか。従って、初めに行わなければならないのはそのような議論の「場」を提供していくことではないかと思います。今後、この「場」という概念は非常に重要な意味を持ってきますので、ここで丁寧に説明しておきますと、場とは物理的な場所を指すものではないことは言うまでもありません。ある意味では、機会なのかもしれません。古代ギリシャで言う、アゴラ的なものを意識して下さい。大切なのは、そのような場を提供する役目こそ政治の本質的役割なのです。ビジョンを提示しつつ議論の場を提供していく。これが、新しい行政システムの中で重要な政治の役割と位置づけます。その、場を通じて、民主主義の原体験を培っていく。これが、広義の教育と言えます。師はまさに場であり、環境であります。

§3.システムの循環

 場から学んだ有権者たちが、選挙を通じて政治を変えていく。まさに理想と言えますが、先にも触れたように、この政治が、広義の教育の場を提供していくという点では、システムは循環していると言えます。従って、今の政治の現状を見る限りでは、悪循環が続いて何も良くならないような絶望感に襲われるかも知れません。しかし、逆に考えれば、どこかを変えれば、好循環が生まれて、すべてが自動的に良くなるとも思えます。多少、楽観的すぎましょうか。ここで注意しなければならないのは、政治を変えるために、選挙制度を改革しようと言う考え方です。教育・選挙・政治というこの、3層のシステムレベルにおいて、選挙システムはミドルシステムです。中間にあるシステムは、むしろ、開放性(風通しの良さ)を重視するべきではないでしょうか。閉鎖的なシステムに変えてしまえば、悪い方向への力も取り除ける反面、良い方向への力さえも取り除いてしまうからです。危険を承知で、開放的なシステムとして選挙システムはあるべきです。そして、注力すべきは、政治そのもののあり方と、有権者教育ではないでしょうか。特に、後者の有権者をいかに教育するかは、今後の日本を占う上で重要な課題となるでしょう。

つづく

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大串正樹の論考

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Masaki Ogushi

大串正樹

第17期

大串 正樹

おおぐし・まさき

衆議院議員/近畿ブロック比例(兵庫6区)/自民党

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ナレッジマネジメント、政策過程論、教育政策、医療・福祉・看護政策

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