論考

Thesis

エジンバラ~21世紀型の都市~

昨年末(12/13~17)、イギリス・エジンバラへ地方行政の調査旅行を行った。現在ヨーロッパでの指折りの活力ある都市として、また世界有数の古都として、非常に興味を惹かれる調査対象である。今回の月例報告は、エジンバラでの調査を簡単に報告することにする。

1.選定理由

 今回私がエジンバラで調査を行った理由は以下の通りである。

  1. 自分の活動拠点である京都(京都府)の姉妹都市であること
  2. ヨーロッパ有数の歴史都市・文化都市であり、京都市と都市の性格が非常に似ていること
  3. 近年ヨーロッパでの都市経営の成功事例として取り上げられていること
    訪問したセクションは、経済開発局(経済政策・観光政策)、都市計画局(建築規制・ゾーニング)、芸術祭事務局(エジンバラ国際芸術祭)である。私の問題意識は、文化という資産を経済的価値にどうやって置き換えるか、ということである。 

2.エジンバラの概要・現状

■表1 エジンバラと京都の比較

 市街地の中心に聳えるエジンバラ城の築城が11世紀というから、大変に長い歴史を持っている。1452年よりスコットランドの首都として存在してきた。人口は45万人である。

 1999年に住民投票の結果、スコットランドは独自の議会を持つことになりエジンバラに置かれている。京都府とは姉妹都市関係にある。多くの大学が集積した学術都市でもある。

 さて、エジンバラは表1に見るように、イギリスにおいて最も目覚しい経済発展を遂げている都市である。マクロ経済指標を掲載したが経済成長率、失業率のいずれにおいても非常に好調な経済を誇っている。観光産業でもロンドンに次ぐ2位で年間約7000万人の観光客(国内外)を集めており、国際会議の開催数も世界第14位である。

 ここで私が注目した視点は京都市との比較である。エジンバラ市と京都市は人口規模こそ違うが、長い歴史を持った古都として非常に似た都市アイデンティティーを持っている。しかし表を見ると明らかなように、経済状況は全く反対である。構造的不況にあえぐ京都市とわが世の春を謳歌しているエジンバラ市とでは、あまりに対照的であり興味さえ感じる。この差は一体どうして生まれたのか。

 エジンバラの成功のエッセンスを抽出し京都市へのフィードバックを試みることが今回の視察のメインテーマとなった。

3.新旧共存

(1)文化の保存と経済効果  

 エジンバラの中心市街地は石造りの荘厳な雰囲気を漂わせている。モニュメントはもちろん商用施設、住居までもが統一感をなし、その多くが19世紀以前の建造物である。1995年、ユネスコはエジンバラ中心市街地を世界遺産に指定した。世界遺産指定区域では建築物の建築、修理保全、において非常に厳しい規則を設けている。その大元になっているのが「エジンバラ・ストリートスケープマニュアル(Edinburgh streetscape Manual)」 である。

 そこでは、修理に使用する素材、方法までが細かく指定されている。また修繕にかかる費用は「ヒストリック・スコットランド基金」から援助されることになっている。

 このような厳格な景観規制の背景には、美しい都市景観は観光産業につながるという確固たる信念がある。観光産業はエジンバラにおける第2の産業であり、行政が育成に注力する産業の一つである。
 都市としての明確なビジョンが成せる業である。

(2) 新規産業

 今回の調査で最も驚いたのは、エジンバラ経済において最大の産業は金融産業ということである。
 ロンドン・フランクフルトに次いでヨーロッパ第3位、世界でも第6位の金融センターなのである。

 これはもちろん長期的な戦略をもって誘致している。金融産業は21世紀において主要な産業になるという認識の下、注力している。

 新旧の見事な調和としかいいようがない。長い歴史の中で培われてきた文化・伝統という資産を十分に生かしながら現在の市場経済と融合させ観光産業で第2の産業として富を生み出す。

 また金融産業という最先端の産業に対する政策も怠りなく、現在第一の産業にまで成長させている。わずか人口50万人の都市とはいえ、その戦略には目を見張るべきものがあろう。

 新旧の調和とはまさにこのような状態を呼ぶのであろう。

4.京都が抱える矛盾

 上記のエジンバラの例で、成功の要因は新旧の調和であることを述べた。同じ古都としてこれまで京都はどのように進んできたのかを本質的に述べる。

(1) 歴史・伝統への対応

 京都は言わずと知れた歴史都市である。市内各所に歴史的な名所や美しい自然が点在し多くの観光客を集めている。しかし都市景観全体のマネジメントという点では、成功しているとは言えない。ヨーロッパ各国に比べると統一感がなく何か雑然とした雰囲気が漂う。

 京都の住民は、自分たちはいわゆる「古きもの」に縛られすぎている、と感じている。しかし世界的な基準からすると、京都の建築規制は非常にゆるいと言わざるをえない。今後の産業振興に観光産業をあげて久しいが、いわゆる「景観論争」にピリオドを打つためには、コミュニティーごとに市民を巻き込んだ「まちづくりのパートナーシップ」が必要であろう。

(2)新時代への対応

 伝統産業の凋落が顕著になって久しいが、新規産業育成の明確なビジョンはなかなか出ない。京セラ・ロームなどハイテク産業は生まれているが、大学との連携などもっと必然的な産業構造を構築していく必要がある。

 大学は京都が誇る資産である。「ナレッジ・エコノミー」の21世紀、京都が立てるべき戦略は大学、歴史、に基づいた戦略が必要である。

 結局、同じような資産を持っているエジンバラと、経済状況が著しく異なっているのは都市経営ビジョンの差と言える。いかにビジョンが大切か、一歩間違えばこれだけの差となって現れる好例であろう。今後も京都における活動においてこうした点を訴え、京都のビジョン作成に貢献していきたい。

5.地域経営のエッセンス

 上記のエジンバラのような街づくりを他の都市がまねることができようか?答えは「No」である。歴史のない都市に観光振興は無理だし、大学など知的基盤のない都市に「ナレッジ・エコノミー」の発展の可能性は低い。

 これこそが私の言う資産を生かした「地域経営」のモデルである。それぞれの地域は他地域とは異なる個性をもっており、逆にいうとその個性は街づくりの上で他都市との差別化・比較優位を図る資産となるのである。

 21世紀は都市間競争の時代である。観光は特に全世界的な競争である。産業誘致にしても同じである。今こそ日本の全地域が知恵を絞り、地域の歴史を勉強し、自らの個性を認識した上で地域経営を行っていくべきである。そして各地域が円滑に地域政策を実行していく上で障害となっている国の法律の優位性を解消すべく、地域主権を確立するべきである。

 1億2千万人の人口を誇る大国日本が都市計画の上で画一化している現状は異常と呼ぶべきものであろう。各地域が自立し多様な社会を築かなければ、活力ある日本は実現しない。

<脚注>
(1)「マニュアル」・・・1995年に「ヒストリック・スコットランド」など関係8機関の合意の下作成された。
(2)観光産業は22000人を雇用し、15億ポンド(約3000億円)の経済効果がある。
(3)金融産業は30000人を雇用し、3100億ポンド(約62兆円)の資金を運用している。

<参考文献>
・「The capital of Scotland and World Heritage city」、エジンバラ経済開発局、2001年
・ヒアリング調査、エジンバラ経済開発局
・「京都市の経済‘00」、京都市、2000年

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二之湯武史の論考

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Takeshi Ninoyu

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